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名前
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名字名前と言う少女は、大きな音が怖くて嫌いで、照れ屋で人一倍ビビり。
驚いたり感情が高ぶると、涙を溜める瞳はくりくりと丸く、女の子らしい。
良く言えばシャイなはにかみ屋で、悪くいえば若干のコミュ障。それらを低い身長で余計な加護欲を掻き立てる女の子だった。
大体の人間は名前を初めて見た時に、その守ってあげたくなるオーラに見事なまでに毒気を抜かれる。
あの嘘つき総統である王馬を含め学年の殆どは既に名前に骨抜きにされていると言っても過言ではない。誰も彼も幼い妹を猫可愛がる感覚で名前の世話を焼くようになるのだ。
そんなか弱い名前は超高校級の人形作家である。
作品を作る時にはあの弱々しさはなく、その真剣な眼差しは、一切の妥協も許さない。
作業に取り掛かる、その時にしか見えない真剣な横顔に見惚れる人も多く、そのギャップも相まって人形作家である名前自身のファンも多い。
そんな彼女によって作られる人形は、月並みな言葉だが、まるで今にも動き出しそうなほどリアル。一つ一つ特徴の違うドール達も名前が親だからか(まるで産んだ子供のように)不思議と似ている部分があって、とても可憐で可愛らしい。
そんな名前は命よりも大丈夫とも言えるドール達に着せるお洋服を作るために、布屋に買い出しに行こうと寮から出て、そう、出かける所だったのだが、運悪くそこにたまたま王馬に見つかってしまい、一方的に絡まれることになった。
ハムスターにちょっかいをかけるいたずら好きな猫の如く、王馬はひらりと挙げた手を振りながらすごいスピードで駆け寄ってきた。
………名前は逃げられそうに無いことに早々に気付いたので、すこし気合を入れて王馬を見つめた。
「なーにしてるの名字ちゃん!」
「お、王馬くん……」
「相変わらずふるふる震えちゃって可愛いね!」
「も、もー……そうやってすぐ嘘ついて……!」
「え?嘘じゃないよ?」
「……うそ、だよ」
「……たっはー!バレちゃうかー!でも名字ちゃんが震えてるのは本当だよ!」
王馬も多くの人のように名前の守ってあげたいオーラに当てられた一人であったが、他の人とは違うところがあった。
多くの人は名前をからかう事はせず、かわいいかわいいと持て囃し、甘やかし、優しく接するのがデフォルトで、王馬のように時に本当のことを、時に嘘を嘘と言って翻弄してくる人間なんていなかったのだ。
それが幸をそうしたのかなんなのか名前の中で王馬は『嘘か本当か分からない不可思議な人』という新しいカテゴリーに属することなったのだ。
今までの名前の中にあるカテゴリーは『優しい人』『怖い人』と言ったわかりやすく単純なものであったため、黒にも白にもなれる王馬は底が見えずある意味恐ろしい存在だった。
そんな王馬に絡まれるのは名前からすれば毎回一大事だ。気合を入れて対応しないとこちらがやたらに振り回される。
言葉の真実が見えない男から言われる『かわいい』や『好き』という言葉はなんだか受け止め方が変わってしまうし、
そもそも嘘つきの王馬の言うことが全て嘘だと思ってしまうのは至ってしょうがないことだった。
「そんなことよりさー、名字ちゃん暇でしょ?ちょっと付き合ってよ。」
そんな王馬の誘いに驚きながらも、名前は元々の予定があったことから言葉を絞り出して断った。そのまま機嫌良くどこかへ行ってくれれば助かるのになあ、と本人の前では絶対に言えないことを思ったのだが。
「えっと……これからドール用の服の生地を買いに行かなきゃいけなくて……」
「え?一緒に出掛けてくれないの?」
断ればあの胡散臭さの消えぬ笑顔をパッと切り替えて真顔になる王馬に、断り方を間違えた。ややこしいことになる気がする、と名前は思ったが、自分が嘘をついて王馬に「つまらないねー」と言われることのほうがなんだか嫌だった。
「あ、その……ご、ごめんなさい」
「……うわああああああああん酷いよおおおおおおお一緒に出掛けてよおおおおおお」
「!?」
王馬はいつものように嘘泣きをし始めた。
しかし嘘泣きだとは分かっていても外でここまで号泣されると、なんだかこちらが悪いような気がして、名前は小さな子供をあやすように王馬の背中を摩ってしまうのだった。
「ご、ごめんなさい……泣かないで」
「ううっ……そんなにオレのこと嫌いなんだ……」
「き、嫌いじゃないよ……!」
「じゃあ好き?」
「……えっと、」
「うわああああああん酷いよおおおおおおおお」
「ひっ、あっごめ、すき!すきです!」
「そっか!ならデートしよう!」
無理やり言わせた好きと言う言葉を聞いた瞬間、王馬はすぐにっこりと笑って名前の手を繋いだ。王馬の手は暖かかったけれど、名前はその暖かさが何だか苦手だった。男の子と手を繋ぐだなんてカップルみたいで余計に恥ずかしかった。
「う、あ、あの、王馬くん……」
「んー?何?………あっ、もしかして、もっとラブラブな繋ぎ方が良かった?」
「ちが……」
「そんなに言うならそうしてあげるよ!」
そう言って王馬は指を絡めて恋人繋ぎに変えた。わざとらしくギュッと握られると余計に意識してしまう。
もう名前は恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがなかった。きっと今の自分の顔は赤くてみっともない顔をしているだろうなあ、と思いながら王馬に話しかける。
「あ、あの!」
「わーすごい名字ちゃん、そんな大きな声出るんだね!」
「手、繋ぐの恥ずかしいから、外してよ……」
名前のその言葉に王馬は度肝を抜かれた。どうしてこんな可愛く赤らんだ顔で、そんな事を懇願するように言うのか、本人にブチ切れながら小一時間ほど責めたくなったが、そうするとただでさえ変人枠のカテゴライズが〈情緒不安定な嘘つき〉と言う救いようのない人間にラベリングされしまいそうだな、と思ったので、ここは気を強く持って言葉を飲み込むことにした。
それに、自分の考えている事をすぐ名前に伝えてしまうのはなんだかもったいない気がした。
もう少しだけ、俺のことで掻き回して遊んでみたい。そしてどんな顔をするのかが見てみたい。好きこその好奇心だった。
「ええ?どうして恥ずかしいの?」
自分は特に何も思っていませんと言った様子であっけらかんと伝えれば、名前はバツが悪くなったように目線を下に逸らした。
なにせ『恥ずかしい』と言うことは『良い仲だと思われるのが』と語頭についている様なもの。
故に名前が王馬を意識しているように聞こえてしまう。
そのことに気付いた名前はそれに気付いてなにも答えられなくなった。
「ねえ、黙ってちゃわかんないよ?」
王馬は空いている手で名前のほっぺをつねってクイッとひっぱる。
「ひゃめてよ、」
「うわあ名字ちゃんのほっぺた超柔けぇ~!おもちちゃんって呼んであげようか?」
嫌がれるのは重々承知だったが、思ったよりも柔い頬を伸ばすのは気持ちが良くて癖になりそうで、王馬はこのまま愛しのおもちちゃんと二人で遊んでいたかった。
「ひひゃだ!」
「じゃー質問に答えるまでおもちちゃんね!」
ぱっと手を離され、その間にもう頬をつねられないように名前は両手で顔を挟んでガードすることにした。ちらりと視線を王馬に向ければニヤッと笑われて、やるせない気持ちになる。
「そんな可愛い行動しても許さないよおもちちゃん。なんで恥ずかしいの?いい子だからちゃんと言おうね!」
「う、うう……」
もう名前は羞恥で爆発してしまいそうだった。目も潤み今にも涙が溢れおちる所だ。
しかしそんなことで王馬小吉は『可哀想な事をしてしまった、ごめんね』なんて言う男ではない。
むしろ自分のせいで可愛らしく羞恥に頬を染め泣き出しそうな名前をさらに虐めてしまいたいと加虐心が萌えて出てくるのだ。
手始めに頬を守っていた手を握ってみる。
「ねぇ、泣いちゃうの?」
「うう、泣かないよ……」
「涙出そうだよ。オレ、嘘つく人嫌いだから嘘つかないでよおもちちゃん」
「おもちちゃんじゃない……」
「おもちちゃんがちゃーんと素直に言えばいいんだよ?」
ほらほら、と催促すれば丸い瞳から零れ落ちた涙が頬に筋をつくる。
ちょっとばかし泣かせてやりたかったわけだが、実際泣かせてしまうと王馬にもほんの少ししかない良心が、やりすぎじゃん?と訴えかけてくる。
それよりも泣いてる顔がかわいいなー、とお気楽な感情のほうが勝ってしまったのでそのまま名前を見る。
泣きながらも何か言おうとしていたので、握っていた手をさらに強く握って彼女の言葉を待った。
「う……男の子と、手を繋ぐの……は、はずかしい、から、やめて?」
「もー、そんな事言われて辞めるわけないじゃん。名字ちゃんは馬鹿だなぁ。」
涙目で好きな女の子に男の子として見ていると言われてしまえば手を離すことなど王馬には無理だった。
正直今ここに王馬一人でいたなら、よっしゃ!とガッツポーズしてしまうぐらいには嬉しい事を知れたので、たった今組織の誰かがヘマして、組織に損失をあたえたところで「もー!しょうがないな!次頑張ろー!」と言えちゃうくらいには気分が良い。
王馬は名前の涙の後を指先で拭き取っていつもの貼り付けたような笑顔ではなく、本当に優しい笑顔で声をかけた。嬉しさが勝っていつものように繕えなくなっていたから。
「名前ちゃん、オレとデートしてくれるよね?」
先ほどの人をちょっと小馬鹿にしたような顔でもなく、からかうような雰囲気でもなかった王馬の年頃の男の子らしい表情は見たことが無かったので、名前は涙が溜まった目を驚きでまた丸くしてしまう。
じっと見つめ合っていると先に気恥ずかしくなったのは王馬の方だったようで少しだけ顔を赤く染めて名前に文句をつけた。
「もー!ちょっと何か反応してよ!オレが恥ずかしいでしょ!?」
「え、ええと……」
いつもの悪戯好きの王馬に戻ってしまったので、名前は面食らってしまった。さっきのあの優しい優しい王馬くんは何処から来て、何処に行ってしまったんだろう。それがなんとも不思議で気になって気がついたら首を縦に振って返事をしていた。一緒にいて確かめてみたいと思ったのだ。
「!本当にデートだよ?いいの?」
「な、何回聞くの……いいよ、って今言ったよ……」
「言ってはないね!頷いただけで!まあでもラッキーだな~皆の可愛い名前ちゃんとデートか~」
「も、もう、またそんな事……」
「ん?本当に可愛いって皆言ってるし……もちろんオレも思ってるよ。これは嘘じゃないしさ、信用してよ。」
「……。」
真面目そうな顔をして言う王馬がいつ『嘘だよ!』と言うか警戒して見ていると王馬はその視線の意味に気づいたみたいで演技じみた声色ではぁ、と溜め息を付いた。
「オレってそんな信用ないんだね……」
「日頃の行いが……」
「うーん、そのフォローする気なしの言葉もいいよね!名字ちゃんってビビりなんだか豪胆なんだかわかんないよ!うんうん!つまらなくないね!」
「あ、ありがとう……?」
つまらなくない、と言う言葉は王馬からしたら最高の褒め言葉なのかも知れないと思っていた名前は何がつまらなくないのか分からなかったけれどひとまずお礼を言うことにした。
そのまま握っていた手を引かれて学外に出る。
なんだか名前はドキドキと胸がうるさいことに気がついた。
初めての経験に胸を高鳴らせているのか、それとも王馬と手を繋いでいるからなのか、その違いがまだ名前には分からなかった。
けど、手を繋いで上機嫌で歩く王馬の話し声がいつもよりも楽しそうなのは嘘ではなくて本当のような気がした。
繋いだ手をきゅっ、と軽く握り返すと王馬は驚いて名前を見た。
王馬が突然何も言わなくなったのに名前も驚いて、せめて沈黙で気まずい雰囲気にならぬように、このデートの行き先を聞くことにした。
「ど、どこいくの……?」
「……あー、もう、ほんとにさぁ……」
「え?」
「なんでもない!なんだっけ、布?買いに行くんでしょ?俺も手伝ってあげる!」
そう言って言葉を飲み込んで、何事も無かったように前を歩く王馬に連れられ、彼の耳が少し赤かった事に名前気付いたのは再度手を握り返した時だった。