君に繋がる赤い糸
名前
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一体この赤い糸は誰につながっているのか気になった名前は目を凝らして探してみても、クラスの男子には繋がっていなかった。
ふう、と息を吐いて自分の席について頬杖をついた。
純粋によかった、と思った。
これで花村とかに繋がってたら名前はきっと運命を呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪いまくるつもりだった。
別に花村が嫌いな訳では無いが(まあ特別好きなわけでもないが)、運命の相手の事ぐらいは夢見たいものだ。
ひとまず安堵はしたものの、けれどやっぱり気になるものは気になるので名前は試しに小指から伸びる糸をクイクイ引っ張ってみる。
案外強い糸のようで、切れる気配は全く無い。
引っ張ったら相手からこちらへ来てくれたりしないかな、なんて期待を込めて、願がけのつもりで名前は引っ張り続けてみたが、なんだか途方も無い上に飽きてきたのでやめた。
「ふぁ……」
ついつい大きな欠伸をしてしまったのでぱっと口元を抑える。あんまり欠伸してる顔って人に見られたくないし。
そうしていると名前よりも眠そうな七海がきゅっと手を握って来た。
「眠そうだね名前ちゃん、私も眠い……」
「千秋ちゃんはいつも眠そうじゃん」
「そうだけど……ふぁあ……」
また2人で欠伸をしているといつでもしっかりしてる小泉が「しゃっきりして二人共!」と声を掛けてきた。
「んー……」
「気が向いたら……」
「ダメだこりゃ」
小泉が呆れたように言うと教室の扉がガラガラと音を立てて開いた。
見慣れたウサギのぬいぐるみは……
「みなちゃん!」
「ウサミじゃん、どーしたの」
「今日から交換留学の期間でちゅ!」
「そんなのあったの?」
「と、言っても予備学科ちゃんと本科生であるみなちゃんの交流のための期間でちゅから、みなちゃんも知ってる人でちゅよ」
「へー」
ウサミがらーぶらーぶしてくだちゃい!と耳にタコができるぐらい聞いたことをほとんどスルーして爪を見つめた。
最近は本科も予備学科も関係なく交流することが多いから、交換留学とか今更感否めないけど、と名前はちらりと扉の方を見た。
小指から伸びる赤い糸が扉の先にある……赤い糸が繋がっている……?
一気にどうでも良くないことへ昇華されたこの話題は名前を動揺させるのに充分な事柄だった。
扉を開いて入ってきたのは、みんなが良く話していた日向創だった。
しかし名前はタイミングが合わず、1度も会えていたことがなかった。
みんなの話を聞いて日向創という人物がいる事だけは辛うじて知っていたぐらいである。
まさかそんな人が運命の相手だとは、と名前はただただ不思議に思っていた。
「日向じゃねぇか」
「1週間だけだけど……よろしくな。」
日向創の小指には名前の小指から伸びている赤い糸がしっかりと結ばれていた。
「(ほ、ほんとにきた……!)」
驚いたまま固まっていると日向と目が合った。日向も名前を見たまま一瞬だけ固まったが、何か納得したような顔で軽く会釈をされた。
名前もつられて会釈を返した。
こうして名前は運命の赤い糸で繋がっている日向と初対面した訳である。
***
日向創は名前を除くメンバーとは会ったことがあり、そのためにすぐにクラスにとけ込めていた。
あの希望厨の狛枝ですら、
「予備学科のくせに生意気だよ日向くん!」と言ってはいたものの表情から隠しきれない喜びの色が見えた。
また予備学科が〜と嫌味を言う狛枝を上手く交わした日向創は未だ一度も話したことのない名字に視線を移した。
超高校級の女優。初めての女優デビュー作品は映画「雷鳴」。その作品でアカデミー賞を受賞し、まさに芸能界に雷鳴を轟かせた。彼女の演じるキャラクターたちは本当に実在していると視聴者が思ってしまうぐらいにすごいものだった。
作品によってコロコロと変わる表情からとっつきにくい女子であることを想像していた日向だったが、一週間とは言えクラスメイトになる。意を決して声をかけることにした。もし蔑まれても一週間でお別れになるのだから、と。
「なあ、名字だよな?」
「うえ!?あ、はい!」
突然後ろから日向に声をかけられた名前は裏返った声で返事をした。
その姿は気位だけが高い様な女子ではなく、普通の女子高生らしかった。
超高校級の女優なわけで見目麗しいことは変わりなかったが、なんだか気の良さそうな女生徒。
思っていた性格とのギャップが面白くて思わず笑い声が漏れる。
「ふっ、くく……」
「ちょ、笑わないでよ……!」
「いや、驚きすぎだろ……はは、」
「だからぁ!」
「悪い悪い。名字と会うのは初めてだよな。もう知ってると思うけど、俺は日向創だ。よろしく。」
「……ご丁寧にどうも。名字名前、超高校級の女優です。よろしくどうぞ、日向くん。」
名前の慌てぶりに笑っていた日向だってが、自己紹介中はしっかりと聞いてくれていたので、名前は至って普通に、何事も無かったかのようにお話した。
日向は人当たりのいい笑顔でよろしく、と言った。
***
日向創というのはよく出来た男で、女の扱いもヘタではなく、人付き合いもスマートにこなす人だった。
あの取っつきにくい田中と普通に会話するし、嫌味な西園寺の攻撃も呆れながら笑って交わせる。
名前は少なくともあのふたりと会話する時は気合を入れて会話するのに(西園寺は女子だから話しやすいとは言え如何せん面倒臭い女だし)日向はそんなことなかった。
日向に対する興味がめきめきと育つことは不思議なことではなかった。
***
希望ヶ峰学園ではどんなに凄い才能を持っていても大体は同じように才能を持ってる人間が大半なので、特別扱いを受けるようなことは無かった。
雪染に頼まれた資料運び基雑用をしようと名前は資料室から廊下へ荷物を出した。
袋に入った教材が二つ、そして資料の束が一つ。これを教室まで運ばなければならないが、このままだと往復しなければならない。
正直それは面倒臭いので袋を腕にかけて、資料の束をそのまま持った。
これなら1度で運ぶことが出来る。重たいが女優として体力が必要な以上、これぐらいどうってことはない。
袋が腕に食い込むがぐっと力を入れて持っていこうとすると、
「名字!」
前方から歩いてきた日向がおっかなびっくりしたように駆け寄ってくる。
「お前、なんだその量」
「雪染先生に頼まれたからさ。往復するの面倒臭いし、一回で済ませちゃおうと思って。」
「いやそれにしても多いだろ!俺も手伝うよ。」
「?日向くんの仕事じゃないじゃん、」
「まあそれもそうだけど、ほら、腕に痕つくぞ。女の子なんだからそういうのは良くないだろ」
そう言って資料の束と袋を一つ受けとった日向に名前は驚いた。
こういうとき、皆自分を女優扱いするのだ。やれ「女優なんだから跡をつけるな」とか「女優なんだから重たいものは別の誰かに運んでもらえ」とか。
でも日向創は女優だからではなく、1人の女の子として扱ってくれた……。日向からすれば普通のことなのだが、名前からすれば普通のことではなかった。
欲望の目、妬みや嫉妬の視線、憧憬の眼差し、感嘆の声……良いことも悪い事も一身に受けてきた。けれどそれは、超高校級の女優である名前に対してのもので、1人の少女の名前へのものではなかった。
もちろんそれが普通なのも名前は知っていたが、まさか自分が普通の女の子扱いをされてこんなに嬉しいだなんて……。
名前は運命の糸をもう一度見た。
前よりも少しだけ太くなったような気がする赤い糸はしっかりと日向に結びついていた。もしかして、私が日向くんを気にしてるからなのかな、なんて考えながら名前は少し後のついた腕を見た。
一向に歩き出さない名前に日向が不思議そうに振り返る。
その表情は見たことがなかったので、なんだか知らない顔が見れて、名前は嬉しかった。
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。ありがとう日向くん。優しいね。」
「困ってる奴を見かけたら助けるのが当然だろ」
「私困ってなかったけどね」
「うるさいぞ」
早く運ぼう。と笑う日向に頷いて隣を歩く。日向は背が高かった。横を歩いたことなどなかったのでこんなに身長差があるなんて名前は知らなかった。
「日向くん」
「なんだよ」
「ありがとう。」
「またお礼かよ。別にいいって」
「言いたいから言ってるだけ。ありがとうね。」
初めてあった時より自然に笑う名前に目を奪われた日向は、何も言えなくなった。
「(こんなに、自然に笑うのか)」
そのまま教室の扉を開けた名前は機嫌よさげに教卓に荷物を置いた。
日向も教材を置いて、名前を見た。互いの目線があい、にこりと微笑まれる。
日向もそれに笑って返した。
しかし、日向の胸の中にある小さな違和感は未だに消えていない。名前を見るとその違和感が疼き出してしょうがない。
日向がそれを恋だと知るのは、また少し先の話。