log
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
階段で足を滑らせ踏み外して体にぐんっと重力がかかった。
「え、」
驚いて手すりに手を伸ばそうとしてももう遅い。体の半分は空中に投げ出されていて、この高さから落ちるなら当たりどころが悪ければ(良くても)死ぬなと思ったけど、幸運にも誰かが後ろから抱きとめてもらって事なきを得た。
その人が回した腕が腹部にさらに圧力をかけるけど、このまま落ちて大怪我もしくは死ぬかもしれなかったことを考えると急に安心して力が抜けたのかドッと冷や汗が出てきた。
私が体制を立て直したのを確認すると腕を離してくれたので、ぱっと振り返ってみると、無表情の背の高い男子生徒だった。
髪が長くて、真っ赤に揺らめく瞳が綺麗な人だった。
見たことがないので先輩なのだろうか、と思って、慌ててその人から離れて、
「助けてくださって有難うございます」
とお礼を言うとただ一言「ツマラナイ」とだけ言って階段を上がっていってしまった。
何がツマラナイのかわからないけど、今度は細心の注意をはらいながら階段を降りた。
幸運ってこういう所がめんどくさいよね。そう言えばきっと苗木くんも狛枝くんも頷いてくれるに違いない、と同胞を思った。
***
学校の花壇で立派に咲いたチューリップを眺めているとあの不思議な人を見つけた。
彼もじっとチューリップを眺めていたので、もしかしたらお花関係の才能の持ち主なのかと推理した。だとしたら可愛いね!あんなに無表情なのに。
これも何かの縁だし、話しかけてみることにした。
肩をぽんぽんと叩くと赤い瞳が私を射抜く。表情はやっぱり特に変わらず、無表情なままだ。
「こんにちは」
「貴女は……」
「先日階段から落ちそうになったのを助けていただいたものです!あ、超高校級の」
「幸運の、名字名前」
「えっ?」
「C組の幸運枠。知っていますよ。」
まさか私の名前も才能もクラスのことも知ってるとも思わず驚いてしまう。
「なんで知っているの、という顔ですね。わかりやすくてツマラナイ……」
変わらず無表情に吐き捨てる彼をじーっと見つめる。
どうしてこんなに私の考えていることが分かるんだろう。
もしかしてお花関係じゃなくて、超高校級のエスパーなのかな?と、気になって色々聞いてみることにした。
「貴方はどんな人なの?」
「僕はカムクライズル……超高校級の希望です」
「希望?」
「ええ、ある程度の才能なら全て持ってます。貴女の幸運も。」
ある程度の才能……要するに、この学校の人たちの才能が皆カムクラくんにあるって考えでいいのだろうか。
「チートじゃん!じゃあこの前助けてくれたのって……!」
「超高校級の救世主の才能です」
「すごいね!カムクラくんはどこのクラスなの?」
「べつにどこだっていいじゃないですか」
「えーお願い教えてよ!」
「……B組ですよ、これで満足ですか」
「うん!七海さんが委員長のクラスだね!」
褒めてみたり、雑談してみても表情は動かさず無表情のままで、なんだか本当につまらなさそう。
「ねえねえカムクラくん、なにがそんなにツマラナイの?」
「なにもかもですよ。」
「ふぅん……」
「僕にとっては感情なんてゴミのようなものです。」
どうやらとても根の深い問題っぽくて、私はどうしたらいいか悩んでいるけど、答えなんて全くでない。
感情がゴミなんてそんなことないと思うんだけどなぁ。
感情がなかったら私たちってどう存在していいかわかんなくなっちゃうよね!
いつもは使わない頭を使って考えていると冷めた赤い瞳が私を見つめていた。
「何故貴女が悩むんですか」
「え?だって楽しく生きたいじゃん」
「答えになっていません」
「カムクラくん、つまんないつまんないってなんか小さい子供みたいだなって思って」
「……は?」
お、表情が少し変わった。もしかして予期せぬ事を言えたのかもしれない!
ちょっと嬉しくなった私は上機嫌で話を続けた。
「だってツマラナイってマイナスな感情はあるんだよね?」
「…………」
「だったら楽しい!とか嬉しい!とかそう言うプラスの感情もあるんじゃないかな?」
「何を言い出すかと思えば、そんなツマラナイ精神論ですか。」
「ほらぁ!絶対何かあるって!楽しいこととかさ!」
「めんどくさいですね……何故そんなに嬉しそうなんですか」
「カムクラくん能面みたいだったのにちょっと表情筋動かしたからさ!」
へへ、と笑いながらカムクラくんを見上げるとまた無表情に戻ってしまった。
あー、残念。せっかくのゴミを見るような顔だったのに(その後気付いたけど人に向けていい表情じゃないよねあれ)。
「帰ります」
そう言って踵を返したカムクラくんをじっと見つめていると、ある程度離れた所で立ち止まり、振り返ってくれた。
パチリ、と視線があったのでにっこり笑って手を振った。
「なんですか」とそうやって口元が動いた気がしたので、「またお話してね~!」と大声で言った。
カムクラくんは無表情なまま要件を聞くと、何も言わず、何事も無かったかのように踵を返して去っていった。
***
それからまた暫くして、カムクラくんを見つける度にひたすら声をかけた。
だってカムクラくん、自分から声掛けてくれないんだもん。
恥ずかしがり屋さんなのかな。違うね。
そんな事言ったら「貴女と話す時間が無駄だと思ってるから話しかけないんです」ぐらい言うね。
……カムクラくんが目の前にいるのにカムクラくんの事考えてた。
「ねえ!今日はいい天気だね!」
「土砂降りですが。貴女の目は節穴なんですか?」
「雨の日がいい天気じゃないなんて誰が決めたの?」
「世間的に見て、ですよ」
「カムクラくん的に見たらどう思う?」
「別にどうでもいいです」
1日目、撃沈。スタスタと歩いていくカムクラくんの背中を眺めた。髪の毛あんなに長くて邪魔じゃないのかなぁ。次あった時は髪の毛弄らせてもらおう。
「カムクライズル……カムカム…はなんかお菓子の名前っぽいし……うーん、いっちゃんかなぁ!」
「なんですかその頭の悪そうなあだ名は」
「えーダメ?可愛くない?」
「可愛くないですし、そもそもあだ名なんていりません。」
5日目。あだ名を付けて仲良くなろうと思ったけど、要らないと言われてしまった。ショックだったのでカムクラくんの長い髪の毛を三つ編みにして遊んでたら「ウザイので離してください」と全拒否。でもめげないよー!
「カムクラくんりんごの皮むきって出来る?私手を切っちゃいそうで怖くて出来ないんだ。」
「できますよそれぐらい……」
「やっぱ皮むき師みたいな才能あるの?」
「なんですかそのくだらない才能……普通に料理人の才能で事足ります」
9日目、会話する事に早くも限界を感じてきたので、りんごの皮むきの話題を出したら『コイツりんごの皮むき出来ねぇのかよ』みたいな視線で見られた。だってりんごの皮むき怖くない?指ざっくりいっちゃうよ、絶対に。
「今日はどんな素っ頓狂な事を言うつもりですか」
「なにその馬鹿女みたいな言い方……!」
「実際そうじゃないですか」
「そんなことないよ!」
「超高校級の幸運より、超高校級の馬鹿に変えてもらったらどうです?」
「やだよ!」
「冗談ですよ。間に受けてツマラナイ女ですね……」
「扱い本当に酷くない!?」
「……。」
「でも最近私と会話続くようになったよね!」
「今僕が無言だったのに気付いてます?」
「えへへ」
「……気持ち悪いですよ、顔が」
「ねえやっぱ酷いよ!」
14日目。今日は珍しくカムクラくんから話題を持ち掛けてくれた。仲良しになってきた証拠だよね。でも言葉の一つ一つが痛い。超高校級の毒舌とかそう言う才能もあるのかな?
「どこにいくんですか」
「え?教材取りに行くの。先生に頼まれたから」
「……あの量を1人で持っていくつもりですか?」
「えっそんなに量多かったかなぁ……」
「しょうがないので僕もついて行ってあげます。」
「手伝ってくれるの?ありがとう!」
「見守るだけです」
「え、なにそれ……。お礼言い損じゃん……。」
「はやく行きますよ名前。」
「えっ今名前呼んだ!?ねぇイズルちゃん!」
「殴りますよ」
「辛辣」
17日目。遂に名前呼び+一緒に行動してくれた。とてつもない進歩である。
しかし本当に資料を持ってはくれず「重たい……」と嘆く私と悲鳴を上げる腕を見て若干ほくそ笑んでいた気がする。
最近のカムクラくん私といる時凄く性格悪いんだけど、どうなってんだろう。
B組で苛められてないか心配だよ……ハッ、まさか、超高校級のいじめっ子の才能を私に発揮してんのかな……?
***
最近良く会っていた花壇の近くで雑草をプチプチ抜いていると足音が聞こえたのでカムクラくんかと思って振り返ってみると、そこには七海さんが居た。
「名字さん、ちょっといいかな?」
「七海さん。こんにちは。」
「こんにちは。……カムクラくんと、仲良いんだね」
「ええ!そうかな?一方的にいじられてるんだけど……!」
首を傾げた七海さんと少しの間お話することになった。
七海さんとはしっかりお話したことないから驚いたけど、話題がカムクラくんの事で納得した。
きっとB組でもああやって失礼な事をズケズケと言っているんだね。そう思った私は次の七海さんの言葉に唖然とする。
「カムクラくん、人に干渉しないし、会話もほとんどしないから……2人は仲が良い……と、思うよ?」
「えっ……?」
「私、話しかけるんだけど、ほとんど無視だし……」
「ええっ……」
「だから、カムクラくんと、これからも仲良くしてあげてね。」
「う、うそ……ほんとに……?」
「うん……だから、お願いにきたの」
委員長として、と付け足す彼女が嘘をついているとはどうしても思えなかった。七海さんは眠そうだったけど、声色は真剣そのものだったから。
そんな私は突然後ろから頭を叩かれて「びゃあっ!?」と全く可愛くない声を上げてしまった。
後ろを振り向くと噂をすればなんとやら、カムクラくん御本人の登場。
結構痛かったのでそれに関して文句を言えば、私の言葉には耳も貸さず、「この人借りますよ」と七海さんに一言。
首根っこを掴んで引き摺られた。扱い酷いよ!七海さんは少し驚いていたけど、笑って手を振ってくれた。うわあ可愛い!でもそれを満喫できない状況。シャツの襟元で首めっちゃ締まってるから……!
ようやく離されて、呼吸を整えているとカムクラくんは私を突然抱きしめた。
「カムクラくん!?」
「……。」
状況が本当にまっっっっったく読めずカムクラくんの腕の中にすっぽりと収まっていると、じわじわと腕の力が強くなってくる。ダメだこれは、抱き殺される。
そう思った私は引き剥がそうとあの手この手で頑張ってみるも、圧倒的に意味がなく、さらに腕の力を強められて抵抗する気すら失せてしまった。ていうか無理!背骨折れる!
「ね、ねえカムクラくんちょっとって言うかだいぶ痛い……」
「…………。」
「お願い何か言って!?」
この後に及んで何も言わないカムクラくん。そしてドクドクと普通より早い心臓の音が聞こえた。殺されそうな不安から自分の心臓の音かと思っていたけど、私の耳は今、カムクラくんの胸元にある。つまり音はカムクラくんの心臓の音なのだ。
「空気を読んでください」
「はい……?」
「腕、背中に回して下さい」
「えーっと……?」
「抱き潰しますよ」
「はい喜んで!」
最後の脅しは本当にしそうで怖かったので急いでカムクラくんの背中に腕を回した。
カムクラくんマジでなにも言わないからもうほんとに意味わからなすぎて頭の上にハテナマーク浮きまくり。
すこし緩まった腕に安心して離れようとするとまた強く抱き締められた。
「ぐぇっ!?」
「カエルですか貴女」
「いや、ちょっとほんとに……なにこれ?しかも外だし……え?え?え?」
「うるさいですよ」
潰れたカエルのような声を出せばカムクラくんは冷めた目で見つめてきた。いやその顔私がしたいわ!抱きしめられていた時は気が動転してたから何も言わなかったけど、外でこんなに男女が抱き合ってたら勘違いされるって!
カムクラくんはそんな私を見越してなのかなんなのか、
「……そのままずっと馬鹿みたいな顔して僕の傍にだけいればいいんですよ」
そう言って私の頭を自分の胸元にぽん、と押し付けた。さっきまでとは打って変わって優しい手つきで頭を撫でられる。
「それって……」
「一から十説明しないとわからないんですか?流石超高校級の馬鹿ですね。」
「辛辣!」
言葉の厳しさは今に始まった事じゃない、けど、どことなく優しく聞こえたのは、私の耳がおかしいのか。言われ慣れすぎて頭がおかしくなったのか。
でもこの耳は心臓の音もしっかりと聞いている。……流石に心臓をはやく動かす才能なんて、持ってないよね?
「え、」
驚いて手すりに手を伸ばそうとしてももう遅い。体の半分は空中に投げ出されていて、この高さから落ちるなら当たりどころが悪ければ(良くても)死ぬなと思ったけど、幸運にも誰かが後ろから抱きとめてもらって事なきを得た。
その人が回した腕が腹部にさらに圧力をかけるけど、このまま落ちて大怪我もしくは死ぬかもしれなかったことを考えると急に安心して力が抜けたのかドッと冷や汗が出てきた。
私が体制を立て直したのを確認すると腕を離してくれたので、ぱっと振り返ってみると、無表情の背の高い男子生徒だった。
髪が長くて、真っ赤に揺らめく瞳が綺麗な人だった。
見たことがないので先輩なのだろうか、と思って、慌ててその人から離れて、
「助けてくださって有難うございます」
とお礼を言うとただ一言「ツマラナイ」とだけ言って階段を上がっていってしまった。
何がツマラナイのかわからないけど、今度は細心の注意をはらいながら階段を降りた。
幸運ってこういう所がめんどくさいよね。そう言えばきっと苗木くんも狛枝くんも頷いてくれるに違いない、と同胞を思った。
***
学校の花壇で立派に咲いたチューリップを眺めているとあの不思議な人を見つけた。
彼もじっとチューリップを眺めていたので、もしかしたらお花関係の才能の持ち主なのかと推理した。だとしたら可愛いね!あんなに無表情なのに。
これも何かの縁だし、話しかけてみることにした。
肩をぽんぽんと叩くと赤い瞳が私を射抜く。表情はやっぱり特に変わらず、無表情なままだ。
「こんにちは」
「貴女は……」
「先日階段から落ちそうになったのを助けていただいたものです!あ、超高校級の」
「幸運の、名字名前」
「えっ?」
「C組の幸運枠。知っていますよ。」
まさか私の名前も才能もクラスのことも知ってるとも思わず驚いてしまう。
「なんで知っているの、という顔ですね。わかりやすくてツマラナイ……」
変わらず無表情に吐き捨てる彼をじーっと見つめる。
どうしてこんなに私の考えていることが分かるんだろう。
もしかしてお花関係じゃなくて、超高校級のエスパーなのかな?と、気になって色々聞いてみることにした。
「貴方はどんな人なの?」
「僕はカムクライズル……超高校級の希望です」
「希望?」
「ええ、ある程度の才能なら全て持ってます。貴女の幸運も。」
ある程度の才能……要するに、この学校の人たちの才能が皆カムクラくんにあるって考えでいいのだろうか。
「チートじゃん!じゃあこの前助けてくれたのって……!」
「超高校級の救世主の才能です」
「すごいね!カムクラくんはどこのクラスなの?」
「べつにどこだっていいじゃないですか」
「えーお願い教えてよ!」
「……B組ですよ、これで満足ですか」
「うん!七海さんが委員長のクラスだね!」
褒めてみたり、雑談してみても表情は動かさず無表情のままで、なんだか本当につまらなさそう。
「ねえねえカムクラくん、なにがそんなにツマラナイの?」
「なにもかもですよ。」
「ふぅん……」
「僕にとっては感情なんてゴミのようなものです。」
どうやらとても根の深い問題っぽくて、私はどうしたらいいか悩んでいるけど、答えなんて全くでない。
感情がゴミなんてそんなことないと思うんだけどなぁ。
感情がなかったら私たちってどう存在していいかわかんなくなっちゃうよね!
いつもは使わない頭を使って考えていると冷めた赤い瞳が私を見つめていた。
「何故貴女が悩むんですか」
「え?だって楽しく生きたいじゃん」
「答えになっていません」
「カムクラくん、つまんないつまんないってなんか小さい子供みたいだなって思って」
「……は?」
お、表情が少し変わった。もしかして予期せぬ事を言えたのかもしれない!
ちょっと嬉しくなった私は上機嫌で話を続けた。
「だってツマラナイってマイナスな感情はあるんだよね?」
「…………」
「だったら楽しい!とか嬉しい!とかそう言うプラスの感情もあるんじゃないかな?」
「何を言い出すかと思えば、そんなツマラナイ精神論ですか。」
「ほらぁ!絶対何かあるって!楽しいこととかさ!」
「めんどくさいですね……何故そんなに嬉しそうなんですか」
「カムクラくん能面みたいだったのにちょっと表情筋動かしたからさ!」
へへ、と笑いながらカムクラくんを見上げるとまた無表情に戻ってしまった。
あー、残念。せっかくのゴミを見るような顔だったのに(その後気付いたけど人に向けていい表情じゃないよねあれ)。
「帰ります」
そう言って踵を返したカムクラくんをじっと見つめていると、ある程度離れた所で立ち止まり、振り返ってくれた。
パチリ、と視線があったのでにっこり笑って手を振った。
「なんですか」とそうやって口元が動いた気がしたので、「またお話してね~!」と大声で言った。
カムクラくんは無表情なまま要件を聞くと、何も言わず、何事も無かったかのように踵を返して去っていった。
***
それからまた暫くして、カムクラくんを見つける度にひたすら声をかけた。
だってカムクラくん、自分から声掛けてくれないんだもん。
恥ずかしがり屋さんなのかな。違うね。
そんな事言ったら「貴女と話す時間が無駄だと思ってるから話しかけないんです」ぐらい言うね。
……カムクラくんが目の前にいるのにカムクラくんの事考えてた。
「ねえ!今日はいい天気だね!」
「土砂降りですが。貴女の目は節穴なんですか?」
「雨の日がいい天気じゃないなんて誰が決めたの?」
「世間的に見て、ですよ」
「カムクラくん的に見たらどう思う?」
「別にどうでもいいです」
1日目、撃沈。スタスタと歩いていくカムクラくんの背中を眺めた。髪の毛あんなに長くて邪魔じゃないのかなぁ。次あった時は髪の毛弄らせてもらおう。
「カムクライズル……カムカム…はなんかお菓子の名前っぽいし……うーん、いっちゃんかなぁ!」
「なんですかその頭の悪そうなあだ名は」
「えーダメ?可愛くない?」
「可愛くないですし、そもそもあだ名なんていりません。」
5日目。あだ名を付けて仲良くなろうと思ったけど、要らないと言われてしまった。ショックだったのでカムクラくんの長い髪の毛を三つ編みにして遊んでたら「ウザイので離してください」と全拒否。でもめげないよー!
「カムクラくんりんごの皮むきって出来る?私手を切っちゃいそうで怖くて出来ないんだ。」
「できますよそれぐらい……」
「やっぱ皮むき師みたいな才能あるの?」
「なんですかそのくだらない才能……普通に料理人の才能で事足ります」
9日目、会話する事に早くも限界を感じてきたので、りんごの皮むきの話題を出したら『コイツりんごの皮むき出来ねぇのかよ』みたいな視線で見られた。だってりんごの皮むき怖くない?指ざっくりいっちゃうよ、絶対に。
「今日はどんな素っ頓狂な事を言うつもりですか」
「なにその馬鹿女みたいな言い方……!」
「実際そうじゃないですか」
「そんなことないよ!」
「超高校級の幸運より、超高校級の馬鹿に変えてもらったらどうです?」
「やだよ!」
「冗談ですよ。間に受けてツマラナイ女ですね……」
「扱い本当に酷くない!?」
「……。」
「でも最近私と会話続くようになったよね!」
「今僕が無言だったのに気付いてます?」
「えへへ」
「……気持ち悪いですよ、顔が」
「ねえやっぱ酷いよ!」
14日目。今日は珍しくカムクラくんから話題を持ち掛けてくれた。仲良しになってきた証拠だよね。でも言葉の一つ一つが痛い。超高校級の毒舌とかそう言う才能もあるのかな?
「どこにいくんですか」
「え?教材取りに行くの。先生に頼まれたから」
「……あの量を1人で持っていくつもりですか?」
「えっそんなに量多かったかなぁ……」
「しょうがないので僕もついて行ってあげます。」
「手伝ってくれるの?ありがとう!」
「見守るだけです」
「え、なにそれ……。お礼言い損じゃん……。」
「はやく行きますよ名前。」
「えっ今名前呼んだ!?ねぇイズルちゃん!」
「殴りますよ」
「辛辣」
17日目。遂に名前呼び+一緒に行動してくれた。とてつもない進歩である。
しかし本当に資料を持ってはくれず「重たい……」と嘆く私と悲鳴を上げる腕を見て若干ほくそ笑んでいた気がする。
最近のカムクラくん私といる時凄く性格悪いんだけど、どうなってんだろう。
B組で苛められてないか心配だよ……ハッ、まさか、超高校級のいじめっ子の才能を私に発揮してんのかな……?
***
最近良く会っていた花壇の近くで雑草をプチプチ抜いていると足音が聞こえたのでカムクラくんかと思って振り返ってみると、そこには七海さんが居た。
「名字さん、ちょっといいかな?」
「七海さん。こんにちは。」
「こんにちは。……カムクラくんと、仲良いんだね」
「ええ!そうかな?一方的にいじられてるんだけど……!」
首を傾げた七海さんと少しの間お話することになった。
七海さんとはしっかりお話したことないから驚いたけど、話題がカムクラくんの事で納得した。
きっとB組でもああやって失礼な事をズケズケと言っているんだね。そう思った私は次の七海さんの言葉に唖然とする。
「カムクラくん、人に干渉しないし、会話もほとんどしないから……2人は仲が良い……と、思うよ?」
「えっ……?」
「私、話しかけるんだけど、ほとんど無視だし……」
「ええっ……」
「だから、カムクラくんと、これからも仲良くしてあげてね。」
「う、うそ……ほんとに……?」
「うん……だから、お願いにきたの」
委員長として、と付け足す彼女が嘘をついているとはどうしても思えなかった。七海さんは眠そうだったけど、声色は真剣そのものだったから。
そんな私は突然後ろから頭を叩かれて「びゃあっ!?」と全く可愛くない声を上げてしまった。
後ろを振り向くと噂をすればなんとやら、カムクラくん御本人の登場。
結構痛かったのでそれに関して文句を言えば、私の言葉には耳も貸さず、「この人借りますよ」と七海さんに一言。
首根っこを掴んで引き摺られた。扱い酷いよ!七海さんは少し驚いていたけど、笑って手を振ってくれた。うわあ可愛い!でもそれを満喫できない状況。シャツの襟元で首めっちゃ締まってるから……!
ようやく離されて、呼吸を整えているとカムクラくんは私を突然抱きしめた。
「カムクラくん!?」
「……。」
状況が本当にまっっっっったく読めずカムクラくんの腕の中にすっぽりと収まっていると、じわじわと腕の力が強くなってくる。ダメだこれは、抱き殺される。
そう思った私は引き剥がそうとあの手この手で頑張ってみるも、圧倒的に意味がなく、さらに腕の力を強められて抵抗する気すら失せてしまった。ていうか無理!背骨折れる!
「ね、ねえカムクラくんちょっとって言うかだいぶ痛い……」
「…………。」
「お願い何か言って!?」
この後に及んで何も言わないカムクラくん。そしてドクドクと普通より早い心臓の音が聞こえた。殺されそうな不安から自分の心臓の音かと思っていたけど、私の耳は今、カムクラくんの胸元にある。つまり音はカムクラくんの心臓の音なのだ。
「空気を読んでください」
「はい……?」
「腕、背中に回して下さい」
「えーっと……?」
「抱き潰しますよ」
「はい喜んで!」
最後の脅しは本当にしそうで怖かったので急いでカムクラくんの背中に腕を回した。
カムクラくんマジでなにも言わないからもうほんとに意味わからなすぎて頭の上にハテナマーク浮きまくり。
すこし緩まった腕に安心して離れようとするとまた強く抱き締められた。
「ぐぇっ!?」
「カエルですか貴女」
「いや、ちょっとほんとに……なにこれ?しかも外だし……え?え?え?」
「うるさいですよ」
潰れたカエルのような声を出せばカムクラくんは冷めた目で見つめてきた。いやその顔私がしたいわ!抱きしめられていた時は気が動転してたから何も言わなかったけど、外でこんなに男女が抱き合ってたら勘違いされるって!
カムクラくんはそんな私を見越してなのかなんなのか、
「……そのままずっと馬鹿みたいな顔して僕の傍にだけいればいいんですよ」
そう言って私の頭を自分の胸元にぽん、と押し付けた。さっきまでとは打って変わって優しい手つきで頭を撫でられる。
「それって……」
「一から十説明しないとわからないんですか?流石超高校級の馬鹿ですね。」
「辛辣!」
言葉の厳しさは今に始まった事じゃない、けど、どことなく優しく聞こえたのは、私の耳がおかしいのか。言われ慣れすぎて頭がおかしくなったのか。
でもこの耳は心臓の音もしっかりと聞いている。……流石に心臓をはやく動かす才能なんて、持ってないよね?