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いくらなんでもあんまりだ。
課題をやるため、と大義名分を振りかざしても17人のクラスで『2人1組』を作らせるのは悪意があるとしか思えない。
こういう日に限っていつもは1人ぐらい休みがいるクラスは、生憎全員揃ってしまっているから次々とペアが決まっていって行く。そんな中私は溜息を付いた。
超高校級の伝統工芸師である私は他人との会話があまり得意ではない。それ故に友達がいない。だからこそ人との会話もあまり得意じゃない。
伝統工芸は師匠がいるとは言ってもどの人も基本は寡黙な人で『聞くよりも見て覚えろ』、『見たら出来るように黙々と修行しろ』のスタンスで、会話と言う会話をしっかりした事があまりなかった。
が、お互いがお互いのしたいこと、考えてることがわかっている、空気を察してひたすら動くと言うイマドキの一般人から見たら不思議な師弟関係であったために、人とちゃんと接する機会もあまりなかった。
要するに口下手で、悪く言えばコミュ障だったのだ。
そんなコミュ障がペアを作れと言われて作れるわけもなく。
雪染先生に「一人でやります」と言おうと席を立ったその瞬間。
「あの、名字さん!良ければ転子達と組みませんか」
「……は?」
後ろから突然の声かけについ溢れた言葉。
おそらく怪訝な顔で振り返った私に、声をかけた少女はそんな様子も特に気にしてないと笑っていた。
茶柱転子さん、超高校級の合気道家で元気を体現したような人。
私は五月蝿いのが苦手であったから正直な話茶柱さんのことは苦手だった。
これはきっと、自分の感情を素直に表現できる彼女が少し妬ましく、一等羨ましかったこともあったのだと思う。
彼女は「ぜひ!一緒に課題を終わらせましょう!」とグイグイ私をグループへと勧誘してくる。
この裏表のなさ。この人、本当にいい人なんだろうなぁ、なんて柄にもなく思ってしまった。
「2人組だと1人余ってしまうじゃないですか、先程先生に確認したら3人組でも良いそうなので、良ければご一緒できたらと……!」
どうも茶柱さんは外堀を埋めてから私に声をかけたようで、茶柱さんの隣にいる夢野さんを見れば『好きにしろ』と言った表情でこちらを見つめているし、雪染先生の方に視線を送ればにっこりと微笑まれるだけだった。
なんだか久しぶりの人付き合いは緊張でうまく息ができない。
落ち着くために深く息を吐いて、彼女を見据えて言った。
「……じゃあ、よろしく」
そう言えば茶柱さんはただでさえ笑顔をさらに深めて嬉しそうにしている。
「はい!よろしくおねがいします!」
「んあ……頼んだぞ名字よ」
2人の席に近づいて誰のかわからない席に座った。
夢野さんは人に仕事を押し付ける気満々だったのに何となく納得した。確かに3人組になれば1人の仕事量は格段に減るし楽をしたいなら私を引き込んだ方がいい。
「何言ってるんですか夢野さん!夢野さんも一緒に力を合わせて課題をやるんですよ!」
「…………めんどいのう」
「大丈夫ですよ!転子も居ますが今回は名字さんと言う素晴らしい女子がいますから、きっとすぐに終わります!」
「素晴らしいことは課題終わらせることと関係ないんじゃないの」
正義を翳す茶柱さんにそうつっこむと驚いたように目を丸くされた。言い方がキツかったのかと思ったがなんだか嬉しそうにぷるぷる震えているので違うんだろうなと自己完結した。茶柱さんわかりやすいな。
「案外喋れるんじゃな」
「私をなんだと思ってんの……?」
「実は転子、前から名字さんとお話したいと思ってたんです!」
「あ。そう、どうも」
「んあ……うちもじゃぞ……」
「…………。」
「んあー!なにか反応せい!」
「ごめん……普段あんまり人と会話しないから、何言っていいかわからない」
夢野さんはめんどくさい~って雰囲気醸し出してる割には喋るし、なんか二人共私と話してみたかったとか言うしで、なんだかいたたまれない雰囲気だ。
協調性のない奴、と言われるのは慣れていたが、ここまで好意的にされるのは全くと言っていいほど慣れていない。
とにかく早く課題を終わらせてやろうと思って配布されたプリントを見た。
***
あの3人組で課題をやった日からなんだか必要以上に茶柱さんと夢野さんに声を掛けられることが増えた。
まずは朝の挨拶。前まではすれ違いざまに言うぐらい素っ気ないものが今では顔を見て言うぐらいに進歩した。しかも笑顔付きと来た、とんでもない進歩だ。
お昼休憩にはあの2人で挟み撃ちされて一緒に食事をとるのが普通になってきたし、
放課後は一緒に甘いものを食べに行くなんてまるで友人のような付き合い方をしている。
しかもあの魔の2人組では余る私をいつも引き入れて3人で課題をするのがテンプレとなっている。
人と関わるのは正直疲れるが楽しんでいる自分もいて余計に厄介だ。
「名字さん、おはようございます!」
「今日も良い朝じゃの」
「あー、おはよう……あのさぁ、」
最近なんでそんなに構ってくるの?と、聞きたかったことを聞くと2人は不思議そうな顔でお互いの顔を見た。
「友達だからじゃろ」
「は」
「も、もしかしてまだ名字さんの中では転子達はお友達じゃなかったんでしょうか……!?」
「なにぃ!?お主友達のハードルが高すぎるわ!」
「え、ちょ、落ち着いて……」
突然怒り出した夢野さんと今にも泣き出しそうな茶柱さんに困惑する。なんだか心なしかクラスのみんなの視線もこちらを見ているような気がしていたたまれない。
「名字や、今のウチたちとの関係を何じゃと思っている」
「え、か、……顔見知り?」
「やっぱり友達だと思われてなかったんですね!!」
「あ、え、ん??」
「困惑しすぎじゃー!」
顔見知りだと言えば夢野さんはさらにぷんすかと怒るし、茶柱さんは若干涙が零れそうだった。
友達なんていた事のない私からすれば奇っ怪な話である。
「ご、ごめん今まで友達っていた事ないから……」都市伝説かと思ってたよ、なんて言えば2人は驚いたように目を見開いて固まった。なにかまずい事を言ってしまったのだろうか。
「も、もうお友達ですよぉ!」
「そうじゃぞ!」
「あ、そうなんだ、うん……よろしく。」
急に詰め寄ってくる2人の熱意に押されてついよろしくなんて言ってしまった。
そうすれば2人は嬉しそうにうんうんと頷き始めた。え、なに、どうしたらいいんだろう私。
「よかった!これでもうお友達ですね!転子達はようやく名字さんと思いが通じあったんですね!」
「んあ……まさか友達だと思われてなかったとは驚いたが、ウチの魔法ですぐ仲良しさんにしてやるわい」
「キャー!夢野さん素敵です!」
「……?」
なんだか二人のペースに巻き込まれてしまった感が否めないけど、友達と言う響きは悪くなかった。
無意識に広角が上がる。それを見た茶柱さんと夢野さんに「「笑ったー!!!」」と大騒ぎされ、クラス中がパニックになった。なんでも私が笑うのは自身の課題をこなしている時だけだったらしく、皆驚いたらしい。
***
それから暫くして、いまだに茶柱さんと夢野さんは私と友達をしている。
二人のおかげで話せるお友達も増えたし(赤松さんや東条さんは比較的話しやすい)前よりも学校が楽しい……と、思う。
「今日は放課後何をしましょうか!」
「んあー……マジカルショーの準備があるからのう……」
「ならお手伝いしますよ!名字さんも一緒にどうですか?」
「いいよ。手伝う。」
「んあー!そうかそうか!お礼に準備が終わったらウチの魔法を間近で見せてやるわい」
「夢野さんの魔法!楽しみですね~!」
「……そうだね」
こうして3人で会話するのも慣れてきて、希望ヶ峰に来てよかった、なんて柄にもなく思ってしまう。
師匠のおかげで超高校級になれた訳だし、感謝しなくちゃね。
2人が体育館へ準備に向かう。急いで追いかけた。もうすぐ、2年に進級だ。
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