有利だったはずなのに
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。


このシリーズは、先輩の彼女に恋をする後輩の物語になります。
彼らの恋は報われず、ハッピーエンドにはなりません。
それをご了承いただけない方の閲覧はお控えください。
読む!
あいつはいつも、俺の隣にいた。
同じクラスで、同じ部活で。
同じものを見て、同じ時間を過ごしていた。
『はぁ……』
数ヶ月前。
授業後に席でため息をつく夢野に声を掛けたのが、後悔の始まりだった。
「……どうした、ため息なんかついて」
俺の行動が予想外だったのか、夢野は驚いた顔で俺を見上げていた。
が、ふっと表情を緩めて言葉を続けた。
『乾先輩って、すごいよね』
「あ?」
突然飛び出した名前に、思わず顔をしかめる。
『自分もレギュラーの練習メニューをこなしながら、他の部員や他校のデータまで取ってさ……』
夢野の視線は、どこか遠くを見るように儚げだ。
『私、マネージャーなのに、全然役に立ててない気がして』
そう言って、夢野は寂しそうに笑った。
その笑顔が妙に心に焼き付いて、離れなかった。
「夢野は夢野にできることをやればいいんじゃねぇのか」
思わずそんな励ましの言葉が、口から零れていた。
『私にできること……』
夢野はぶつぶつ言いながら何かを考えこんでいた。
が、何を思いついたのか急に笑顔になると、俺に礼を言ってきた。
『ありがとう、海堂!ちょっと勇気出た!』
それから夢野は乾先輩の近くにいることが多くなった。
と同時に、俺にアドバイスを求めるようになった。
乾先輩の得意なことや苦手なこと、どんなサポートをしたら役に立てるのか。
俺はそれに答えながら、なんとなく夢野の姿を目で追ってしまい……
そして気づいた。
夢野の気持ちと、自分の気持ちに。
俺が夢野に近づきたいと思うのと同じように、夢野も乾先輩に近づきたいと思っているんだろう。
それがわかってしまったから、俺は自分の気持ちを隠して、夢野の恋を応援した。
有利だったはずなのに。
同じクラスで、部活以外でも顔を合わせられる。
夢野の相談も悩みも聞ける。
乾先輩より、ずっと近いところにいられたのに。
だが、俺はその距離を縮めることを選ばなかった。
夢野の笑顔が見たくて。
夢野の役に立ちたくて。
夢野の背中を、押してしまった。
それから数日後のことだった。
夢野が、顔を真っ赤にして俺の席の前に立った。
『あのね海堂、私……乾先輩と付き合うことになったんだ』
あの時、俺はなんて言ったのか覚えていない。
ただ、俺が知る限りで一番綺麗な笑顔だった気がする。
『海堂がいっぱい相談に乗ってくれたおかげだよ……本当にありがとう!』
「……よかったな」
俺は短く答えて、夢野から目を逸らした。
胸がぎゅっと痛んだ。
声が少し震えていたかもしれない。
夢野はそんな俺に気付かず、さらに顔を綻ばせる。
『これからも、よろしくね!』
有利だったはずなのに。
一番近くにいられたはずなのに。
そのチャンスを、俺は自分で手放した。
クラスメイトとして、部活仲間として。
俺はこれからも夢野のそばにいる。
その笑顔の先にいるのが、俺じゃないとしても。
夢野が笑顔でいられるのなら、それでいいんだ。
有利だったはずなのに
自分で押した背中は、ずいぶん遠くへ行ってしまった。
1/1ページ