前髪ブラインド
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生活指導で前髪の長さを指摘されたのは、先月のことだった。
すっかり忘れてた私が悪いんだけど、今日廊下で先生とすれ違った時に、再度指摘された。
明日までに切るなり留めるなりしてこないと、俺が直接切るからなという脅し付きで。
その日の夜。
『ちょっとだけ、ちょっとだけ……』
お風呂上りに、洗面所で前髪にハサミを入れる。
要は、目にかからなければいいんでしょ。
私は慎重にハサミを動かして……
『あっ……』
ものの見事にやらかした。
一瞬の油断が命取りだ。
油断せずにいけばよかった。
いや、油断なんてしてたつもりはないのに。
無残に切り落とされた前髪の長さは、眉上2センチといったところか。
仕方なく全体をその長さに揃える。
……最悪だ。
これじゃ時代劇の子役か河童だ。
『……はぁ~…………』
大きなため息をついたけど、それで前髪が伸びるわけじゃない。
寝て起きたら夢だった、なんてオチに期待して、私はそのまま眠りについた。
翌朝。
当然前髪は眉上2センチのままで、朝食の時に兄に爆笑された。
学校行きたくないな。
でも、前髪が元に戻るまで休み続けるわけにもいかない。
『……もういいや』
覚悟を決めて、そのまま登校した。
どうせ笑われるなら、こっちからネタにしてしまえ。
そう開き直って、部室のドアを開けた。
『おはよー!見て見て、イメチェンしてみた!』
すでに着替えを始めていた面々が一斉にこっちを向く。
視線が前髪に集まるのがわかる。
空気が静まってから笑いが起きるまでの時間が、ものすごく長く感じた。
「あはははは!さくら、その前髪どうしたにゃ?」
「さくら先輩、サイコーっす!」
予想通り、菊丸と桃が真っ先にいじってきた。
ってか桃、指差しはやめなさい。
「ふふっ、さくら、ずいぶんと大胆なイメチェンだね」
絶対にイメチェンだなんて思ってないトーンで、不二が微笑む。
大石とタカさん、それに海堂はこっちを見ないように必死だし、何ならちょっと肩が震えてる。
これでいい。
今日だけ笑われたら、明日からはきっといつも通りだ。
そう思っていたら、部室の奥から乾が出てきた。
「似合ってる」
まだみんなが笑ってる中、私の正面に立ってそう言った。
予想外の言葉。
周りの笑い声が、一瞬遠のいた気がした。
「夢野は肌が綺麗だから、額が出てても全然変じゃない」
『え?』
「それに顔立ちが華やかだから、短い前髪も……すごく可愛い」
まっすぐな瞳と、笑いを一切含まない声。
からかいでも冗談でもない言葉だと、すぐにわかった。
『そ、そうかな……』
自分でもびっくりするくらい、小さくて震える声が出た。
笑われる覚悟しかしてなかったから、まさか褒められるなんて思ってなくて。
それに乾、今、可愛いって言った……?
なんだか恥ずかしくなって、思わず俯いてしまった。
「あぁ、だから自信を持っていい」
大きな手でぽんぽんと頭を撫でると、乾はコートに出て行った。
私はその背中を見送りながら、胸の鼓動が速くなってることに気付いた。
コートでアップを始める乾の姿が、なんだか妙に眩しく見えて……
それから無意識に彼の姿を目で追うようになるのは、もう少し先の話。
前髪ブラインド end.
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