指先にひだまり
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部活の時間が終わった。
がやがやとお喋りをしながら着替えを始める部員たちに背を向けて、私はマネージャーの仕事を片付けている。
部誌を書いて、備品のチェックをして、タオルを洗濯機に放り込む。
あとは、みんなのドリンクボトルを洗うだけなんだけど……
「さくら」
一瞬だけ躊躇してたら、後ろから声をかけられた。
我が立海テニス部の部長であり、私の彼氏の幸村だ。
私の肩が跳ねたのは、不意に名前をよばれて驚いたからじゃない。
彼に隠し事ができないことを、誰よりも知っているから……
「また酷くなってない?」
『そ、そんなことないよ、全然!』
わざと大きい声を出して、ボトルを洗おうとした私の手首を、幸村が掴んで止めた。
「これで洗い物するの、辛くない?」
『大丈夫だよ、慣れてるし』
「俺としては、こんなことに慣れてほしくないんだけどな」
笑ってごまかす私と、笑ってない笑顔を向ける幸村。
彼の細くて長い指が、私の手をすっとなぞる。
荒れてあかぎれだらけの、痛々しい手を。
『……っ!』
「これじゃ、俺が触るのも痛いだろ?」
『別に……触らなくていいし』
っていうか、こんな醜い手、触らないでほしい。
幸村はふっと息をついて、私の手からスポンジを奪い取った。
「……俺が触りたいんだよ」
そのまま、全部のボトルを洗ってくれた。
西の空がオレンジに染まる帰り道。
私は幸村と並んで歩いていた。
『あの、さっきはありがとう』
洗い物のお礼を告げると、幸村は足を止めた。
私もつられて立ち止まる。
「さくら、手、出して」
『手?』
言われるがまま右手を差し出すと、幸村はポケットから何かを取り出した。
白地に鮮やかなひまわりのイラストが特徴的な、小さなチューブ。
最近、女子たちの間で流行ってる、ひだまりの香りのハンドクリームだ。
『ちょっと待って……!』
私の講義の声は届かず、幸村は私の右手にクリームを落とすと、するすると塗り込んだ。
私、ハンドクリームって苦手なんだよね。
ぬるぬるベタベタして、スマホ触ると跡つくし。
なんとなく手が重たくなった感じするし。
膨れている私を尻目に、幸村は自分の手にもクリームを塗り始めた。
その姿に、横顔に、思わず見とれていると、幸村がこっちを向いて、その手を見せつけてきた。
『え?』
「はい、おそろい」
おそろい……?
『あはは、なにそれ!』
「ほら、反対の手も出して」
思わず笑いだした私を満足そうに見つめると、幸村は左手にもクリームを塗ってくれた。
幸村の手から、温かさと優しさが染み込んでくるみたいだった。
「これで少しはマシになるだろ」
『うん……ありがと』
冬の夕日が、ふたりの影を長く伸ばしていく。
つないだ手からは、ほんのりとひだまりの香りがした。
大好きなあなたとおそろいなら、ハンドクリームも悪くないかな。
指先が、優しい太陽に触れたみたいだった。
指先にひだまり end.
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