ここに、ひだまり
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喉がひりひりして、声が出しにくい。
それでもなんとか絞り出した声は、抑揚のない掠れた声。
風邪をひいたみたいだった。
「だから言ったろ、ちゃんと休めって」
『だって……』
マネージャーは私ひとり。
そうそう休んでなんかいられない。
頭には反論の言葉が浮かぶのに、それを声に出すのが辛い。
そんな私の気持ちを見透かしたように、幸村がなにやら口の開いた袋を差し出してきた。
「さくら、ほら」
柔らかな黄色とデフォルメされたミツバチのイラストが特徴的な、はちみつ柚子ののど飴だった。
『いらない……のど飴、苦いんだもん』
ぼそりと呟いて顔を背ける。
我ながら子供みたいだなって思う。
でも、あの喉に張り付いて残る苦味は苦手なんだ。
「そっか……」
幸村が呆れたように笑ったのが、雰囲気で伝わってくる。
顔を戻してちらりとその表情を見ると、やっぱり笑ってた。
ふと、その笑顔に、ちょっとだけ意地悪な色が混じる。
幸村はのど飴を一粒取り出すと、自分の口に放り込んだ。
そして、そのままゆっくりと顔を近づけてきた。
……え?
幸村の顔が、もう息がかかりそうなくらい近くにある。
前にリップクリームを塗ってもらった時のことが脳裏によぎって、思わずぎゅっと目を閉じた。
胸のドキドキがうるさくて、幸村に聞こえちゃいそう。
唇が、触れる……?
「……ばーか」
唇には、何も触れなかった。
代わりに、楽しそうな笑い声が私の耳に届いた。
幸村の華奢であったかい手が、私の髪をくしゃりと撫でる。
そっと目を開けると、そこには幸村の笑顔があった。
「これは甘味のが強いから、さくらでも食べられると思うよ」
そう言って差し出されたのは、さっきの袋。
……そこまで言うなら……
私はのど飴を一粒取り出すと、諦めの気持ちと一緒に口に入れた。
『あれ?苦くない……』
はちみつの柔らかな甘さが口の中を満たし、荒れた喉をゆっくりと包み込んでいく。
そして、その後には柚子のさわやかな香りが残る。
『おいしい……』
「だろ?」
私がそう言うと、幸村は満足げに微笑んだ。
そして、私の耳に顔を寄せると、小さく付け加えた。
「さくら、早く風邪治してデートしよ?」
その言葉に、ぽっと顔が熱くなる。
胸がきゅんと苦しくなる。
でも嬉しくて、幸村を見上げてこくりと頷いた。
いつもこうなんだ。
幸村は私の苦手を、ひとつずつ大丈夫に変えてくれる。
その優しい笑顔とあったかい手に触れるたびに、私の世界が少し広がる。
そんな幸村が、私のひだまりなんだなって、改めてそう思った。
はちみつの甘さがゆっくりと溶けて、心の中まで満たしていくように。
まるで春を先取りしたような暖かさが、今日もここにあった。
指先にひだまり end.
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