わすれもの
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卒業式を明日に控えた放課後。
さすがに活動している部活はなく、校舎内はしんと静まり返っていた。
そんな中で、私の足音だけがパタパタと響く。
ずっと返し忘れていた本。
それをふと思い出した私は、その本を胸に抱いて、オレンジ色に染まる廊下を急いでいた。
がらりと勢いよく扉を開けて、図書室へ飛び込む。
きっともう誰もいないから、このままこっそり棚に戻してしまおう。
そう思って、私は壁沿いに目当ての棚を探す。
「ねぇ、返却ならこっちなんだけど」
その時、不意に聞こえた声に思わず肩が跳ねる。
ゆっくりと振り向くと、カウンターで頬杖をついているリョーマの姿があっった。
『リョーマ……』
「もう返しにこないかと思ってた」
リョーマの手には、私の名前の貸し出しカード。
私は引き寄せられるように、カウンターまで戻る。
『返却、お願いします』
私が本を差し出すと、タイトルと日付を確認して、リョーマが返却のスタンプを押す。
私は一連の作業をこなす彼の手元をぼんやりと眺めていた。
リョーマは部活の後輩。
最初はただの生意気な1年だと思ってた。
でも、一緒に過ごすうちにどんどん惹かれて……
気が付いたら好きになってた。
その気持ちを伝えられないまま、私たち3年は部活を引退した。
それ以降はもう会う理由もなくて。
会いたいと思いながらも、会えないままだった。
「はい、返却完了」
リョーマが貸し出しカードを差し出す。
これを受け取ったら、本当にもう会う理由がなくなっちゃう……
僅かに震える手で、リョーマの手からカードを受け取る。
が、リョーマがカードの端を放してくれない。
私は思わずリョーマを見た。
「さくら先輩、やっとこっち向いた」
『え?』
リョーマの目が、少しだけ自信なさげに揺れる。
「もう、会えないかと思ってた」
ぽつりと小さく吐き出された言葉に、私の心がざわつく。
それって、リョーマも私に会いたいと思ってくれてたってこと……?
誰もいない図書室で、胸の鼓動だけが妙に大きく聞こえた。
『ずっと、好きだった……』
思わず零れ落ちた言葉。
もう卒業なのに。
言わないって決めてたのに。
私は慌てて口を押さえた。
でも、その言葉はしっかりとリョーマの耳に届いていたらしい。
「……だった?」
少し棘のある、小さな声が返ってきた。
「過去形なの?」
『……現在進行形、です』
沈黙が流れる。
さっきよりも傾いた夕陽が、リョーマの顔を優しく照らす。
「……俺も」
たった、それだけ。
でも、それで十分だった。
「さくら先輩」
『ん?』
「俺、もう遠慮しないから」
リョーマの顔には、いつもの自信たっぷりな笑みが戻っていた。
わすれもの end.
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