これからの話をしよう/天童覚
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天童君の目がぎょろりと黒板の方に向いて、すぐに私の顔へと戻った。
「黒崎さん」
「…よろしく、天童君」
このクラスになって2か月経ったけれど、まだ話したことのない人はたくさんいたし、そもそも人見知りで目立たない地味な方。
もしかしたら同じクラスだって知らない人もいるかもしれない、って自分で思ってしまうくらいだから、天童君が私の名前を知らなくても無理はないと思う。
だけど、私が天童君の名前を口にした時の、彼の表情にはちょっと傷ついた。
名前を知っていることにビックリした顔をしていたから。
「…さすがに、苗字くらいは知ってるよ」
「そーだよね、ごめーん」
天童君の「ごめーん」は、何に対しての謝罪なのだろうか。
ビックリした顔をしたことに対するものなのか。
それとも私の苗字を知らなかったことに対するものなのか。
いまいち彼の言動は掴みにくくて、私は面倒になってそのまま黙り込んでしまった。
けれど天童君はそれをさして気に留める風でもなく、前後の席の男子達と話し始めた。
…賑やかだ。とても。
席替えする前の席も、隣の席の女の子がいつも賑やかにしていたけれど。
それに輪をかけて賑やかだ。
これからしばらくは、この賑やかな中で過ごさなければならないのかと思うと、小さなため息が出た。
たかが席替え、されど席替え。
同じ賑やかなのだったら、まだ隣が女子の方がマシだったかもしれない。
私が横に居てもお構いなしに繰り出される下ネタの数々に、耳を塞ぎたくなる。
ただこの時の私は、まだそれほどこの席替えに対して何の感慨も抱いてはいなかった。
耳に飛び込んでくる下ネタに、心の中で顔をしかめながらも読書することは出来ていたのだ。
席替えをした当初は―……。
******
席替えの翌日。
日本史の授業が始まってしばらくして、隣の天童君が妙にソワソワしているのが目の端にうつった。
ちら、と横目で確認すると、天童君の手は机の中をごそごそと探っている。
時折机の中から何か取り出してはまた戻し、そしてまたごそごそと手を動かす。
……忘れ物でもしたのかな。
机の上には授業のセット一式揃っているように思えるけれど…。