これからの話をしよう/天童覚
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晴れが続くという天気予報が出た今週は、背景などの大道具制作にみんなで励んでいる。
大きな木の板に刷毛で絵具を塗っていく。
塗っては乾かし、またその上から色を重ね、時折遠くから眺めてはまた色を塗る。
ひたすらその繰り返しだった。
ずっとしゃがみこんでの作業だったから、休憩の時間にはすっかり腰が痛くなってしまった。
「しんどいねー、さすがに」
「ねー。暑いしね、今日」
「だよね。うわっ、この暑いのに外走ってる人いるよー」
「あれ何部?」
休憩中、他の部員達がそう話しているのが聞こえてなんとなしに彼女たちの視線の先を追った。
見覚えのあるシルエットが、延々と運動場のトラックを走っている。
「おーい!! てんどー!! もう戻っていいってさー!!」
体育館から出てきた大柄な人が、運動場に向けて大声で叫んだ。
運動場を1人走っていた天童君は、その声に手を振って応え、すぐさまこちらの方へと駆け出してきた。
…天童君、私が部屋を飛び出して行った後、どうしたんだろう。
もしかして、1人で片付けしたんだろうか。
ちくりと、少しだけ罪悪感で胸が痛んだ。
あんなことがあったから、思わず逃げてしまったけれど、多田野先生に雑用を命じられたのは天童君だけじゃなかったのに。
あっという間に運動場から戻ってきた天童君は、私に気付くとニコッと笑った。
「あれ、黒崎さん。帰ったのかと思ってた」
「て、んどう君。…ごめん、片付け…」
「んーん。ダイジョブ、ちゃんと終わったから。…俺もゴメンね?」
「っ…」
天童君の謝罪に、「ううん、いいよ」とは言えなかった。
ごめん、と言われても。許せる許せないの前に、いまだにあの時の天童君の行動が理解できずにいたから、なんと答えていいのか分からなかった。
「あ、ついてる」
「え?」
ふいに伸びてきた天童君の指先が、口元に触れる。
彼の親指がゆっくりと私の肌を撫でてゆく。
その間、天童君の大きな目が、私の表情を観察するようにじっと見つめていた。
「とれた!」
天童君は嬉しそうに親指をこちらに向ける。
こちらを向いた親指は青色に染まっていた。
先ほど使っていた絵具が顔についていたのだろう、そして天童君はそれを拭ってくれた。
そういう事なのだと、理解はできた。