春風/田中龍之介
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佐々木さんに叱られて、田中くんはしゅんと小さくなってしまった。確かに少し怖い思いはしたけれど、私のことを思ってやってくれたことだ。
誤解がとけた今は、田中くんの好意が素直に嬉しかった。
「……あの、ありがとう。心配、してくれて」
「えっ。お、おう。でも怖がらせてしまってスマンかった!」
定規で図ったみたいな綺麗なお辞儀をして、田中くんは私に謝ってきた。
「ううん、いいよ。もう気にしないで。佐々木さん、お騒がせしてすみませんでした。私の早とちりで」
「いや、本当に不審者だったかもしれないしね。気にしなくていいよ。……田中、お前ちゃんと家まで送って行ってやれよ」
「うす」
「送り狼には、なるなよ」
「な、何言ってるんスか!? なりませんよ!!」
「どうだかな」
ははっと佐々木さんは笑った。田中くんは顔を真っ赤にしながら、送ってく、とぼそりと呟く。ありがとう、と返すと田中くんはまた赤くなってしまった。佐々木さんが変な事を言うものだから、二人意識してしまって交番からしばらくは沈黙が続いた。
「……道、どっち?」
二股に分かれるところまで来て、田中くんが口を開く。家まで送るとは言っても、田中くんは私の家を知らない。そんな当たり前のことも忘れるくらい、私は緊張してしまっていたのかな。
「あ、ごめん。こっちだよ」
それから、家までの道のりを田中くんと共に歩いた。ぽつりぽつりと会話をするだけで、初めて二人で帰った夜道はしんと静かだった。緊張しいな性格は、本当に学生時代から変わっていない。朝晩と交番で交わす挨拶は自然にできるのに、こうやって二人だけでいざ話をするとなると、うまく言葉が出てこなかった。
そうこうしているうちに家に着いて。玄関前で、田中くんに再度お礼を言った。田中くんは「いいってことよ」と答えて、すぐにそのまま帰るそぶりを見せた。
あぁ、このままだったら、高校の時と同じだ。このまま何もしなければ、私は田中くんと挨拶を交わすだけの仲のまま。
もう、あの日みたいに、後悔するのは嫌だ。
「……あ、あの。良かったらお茶でも飲んでいく?」
「へっ?!」
勇気を振り絞って出した私の誘いに、田中くんは予想以上の動揺を見せた。目をしろくろさせて口をぱくぱくさせている。
「えっ、あっ、やぁ……」