春風/田中龍之介
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「そうだねぇ。今日はずっと緊張してたから余計に疲れちゃった。……田中くんは、どう?」
「お前真面目だもんなー! ちっとは肩の力抜けよ? 俺は……」
「お前はもう少し肩に力入れた方がいいな、田中」
田中くんの背後に、大柄のお巡りさんが現れた。田中くんの肩に手をかけて、にっこり笑みを浮かべている。それを見た田中くんの顔に緊張が走るのが分かった。
「っ、すんません!」
「巡回行くから準備しろよ」
「はいっ!……悪ぃ、またな、黒崎」
「ううん。お仕事の邪魔してごめんね。頑張ってね」
「おう、ありがとよ!」
言って田中くんは先ほどの大柄なお巡りさんと一緒に、自転車に乗って巡回に出て行った。彼の後ろ姿を見送って、私は家路へと着いた。
その日から、朝の通勤時と夕方の帰宅時にはその交番前を通るのが楽しみになった。
新入社員ということもあってか、入社してしばらくは残業させられることもなく、大体毎日決まった時間に交番前を通っていた。
田中くんは仕事中だから、あまり長々と話すことは出来なかったけれど、それでも二言三言、会話を交わす日々が続いた。
******
慣れない環境の中で慌ただしく時間は過ぎていき、季節は春から夏へと移ろうとしていた。
日も落ちて随分経つというのに、蒸し暑い夜のこと。
少しずつ任される仕事も増え、残業することも多くなってその日は少し遅い時間の帰宅だった。湿気をはらんだ空気に、雨が降り出しそうな気配を感じる。
「降り出す前に帰ろ」
少し足早に、駅を出る。いつもより遅い時間だからか、改札を出る人の数も少なかった。
いつもなら帰宅を急ぐサラリーマンやOLと共に歩く帰り道。街灯はあるものの、家までの道のりは薄暗い。じとっとした重たい空気に、なんだか気分まで落ち込みそうだった。
早く家に帰って、湯船に浸かりたい。一日ヒールを履いていた足は悲鳴をあげそうだ。
そんなことを思いながら歩みを進めていると、ふと背後に気配を感じた。気になって振り返ってみるけれど、誰もいない。猫か何かだったのかな、そう思ってまた前に向き直って歩き出す。
コツコツと鳴る私のヒールの音に混じって、別の足音が聞こえた。
私はまた後ろを振り返ったものの、やはりそこには誰の姿もなかった。じわりと背中に嫌な汗をかく。
「お前真面目だもんなー! ちっとは肩の力抜けよ? 俺は……」
「お前はもう少し肩に力入れた方がいいな、田中」
田中くんの背後に、大柄のお巡りさんが現れた。田中くんの肩に手をかけて、にっこり笑みを浮かべている。それを見た田中くんの顔に緊張が走るのが分かった。
「っ、すんません!」
「巡回行くから準備しろよ」
「はいっ!……悪ぃ、またな、黒崎」
「ううん。お仕事の邪魔してごめんね。頑張ってね」
「おう、ありがとよ!」
言って田中くんは先ほどの大柄なお巡りさんと一緒に、自転車に乗って巡回に出て行った。彼の後ろ姿を見送って、私は家路へと着いた。
その日から、朝の通勤時と夕方の帰宅時にはその交番前を通るのが楽しみになった。
新入社員ということもあってか、入社してしばらくは残業させられることもなく、大体毎日決まった時間に交番前を通っていた。
田中くんは仕事中だから、あまり長々と話すことは出来なかったけれど、それでも二言三言、会話を交わす日々が続いた。
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慣れない環境の中で慌ただしく時間は過ぎていき、季節は春から夏へと移ろうとしていた。
日も落ちて随分経つというのに、蒸し暑い夜のこと。
少しずつ任される仕事も増え、残業することも多くなってその日は少し遅い時間の帰宅だった。湿気をはらんだ空気に、雨が降り出しそうな気配を感じる。
「降り出す前に帰ろ」
少し足早に、駅を出る。いつもより遅い時間だからか、改札を出る人の数も少なかった。
いつもなら帰宅を急ぐサラリーマンやOLと共に歩く帰り道。街灯はあるものの、家までの道のりは薄暗い。じとっとした重たい空気に、なんだか気分まで落ち込みそうだった。
早く家に帰って、湯船に浸かりたい。一日ヒールを履いていた足は悲鳴をあげそうだ。
そんなことを思いながら歩みを進めていると、ふと背後に気配を感じた。気になって振り返ってみるけれど、誰もいない。猫か何かだったのかな、そう思ってまた前に向き直って歩き出す。
コツコツと鳴る私のヒールの音に混じって、別の足音が聞こえた。
私はまた後ろを振り返ったものの、やはりそこには誰の姿もなかった。じわりと背中に嫌な汗をかく。