春風/田中龍之介
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特別親しかったわけじゃないから、田中くんが覚えてないのも無理はない。だけど忘れられているのはちょっぴり寂しくて、自分で言っておいて胸がちくんと痛んだ。
「黒崎?! えっ、嘘だろオイ!! 覚えてるよ!!」
「ホント?」
「本当だって! めちゃめちゃ綺麗になってっから気付かなかったぜ! 高校の時、お前眼鏡だったろ?」
綺麗。お世辞でも、田中くんにそう言われて嬉しかった。
田中くんの言う様に、高校時代はずっと眼鏡で、短大入学を期にコンタクトデビューした。
そっか、コンタクトだから私だって分からなかったのかな。眼鏡だったら、私だってすぐ気づいてくれたのかな。
「いやーそれにしてもすごい偶然だな! 俺ついこないだこの交番に配属されたばっかでさ。お前この辺に勤めてんの?」
私を助け起こしてくれたキリリとした警察官の田中くんはどこかへ吹っ飛んでしまったよう。高校時代と変わらない元気な田中くんが目の前にはいた。トレードマークだった坊主頭は今では爽やかな短髪になっていたけど、細い眉はあの頃の田中くんと一緒だ。
「本当、すごい偶然だね。勤め先はここから三駅先の所。家がこの近所なの。今から電車通勤……」
そこまで言って、腕時計を確認すれば予定してた電車の時刻はとっくに過ぎてしまっていた。
「ごめん田中くん! 今度ゆっくり話そう! じゃあね!!」
「おう! 転ばねぇよう気ぃつけろよー!」
大きく手を振る田中くんに別れを告げて、私は駅へと急いだ。
会社には、なんとか予定時刻前に着いた。元々余裕をもって早めの電車に乗るつもりでいたから、何本か遅れても平気だったんだけど……ただ通勤ラッシュが一番酷い時間に当たってしまった。やっぱり明日からも早めに家を出よう、と私は心に誓った。
緊張し通しだった初仕事からようやく解放されて、私は電車に揺られていた。
まだ少し早い時間だからか、朝のような混雑は見られない。空いていた席に腰を下ろして、目的地までぼうっと向かいの窓の外を眺めて時間を過ごした。
「お疲れさん! どうだったよ、初勤務は!」
交番の前を差し掛かると、朝と変わらず元気な田中くんが声をかけてきた。緊張しっぱなしで心労からぐったりしていた私の顔を見て、彼は苦笑いしている。
「あー、まぁやっぱしんどいよなー。慣れるまではしょーがねーよ」
「黒崎?! えっ、嘘だろオイ!! 覚えてるよ!!」
「ホント?」
「本当だって! めちゃめちゃ綺麗になってっから気付かなかったぜ! 高校の時、お前眼鏡だったろ?」
綺麗。お世辞でも、田中くんにそう言われて嬉しかった。
田中くんの言う様に、高校時代はずっと眼鏡で、短大入学を期にコンタクトデビューした。
そっか、コンタクトだから私だって分からなかったのかな。眼鏡だったら、私だってすぐ気づいてくれたのかな。
「いやーそれにしてもすごい偶然だな! 俺ついこないだこの交番に配属されたばっかでさ。お前この辺に勤めてんの?」
私を助け起こしてくれたキリリとした警察官の田中くんはどこかへ吹っ飛んでしまったよう。高校時代と変わらない元気な田中くんが目の前にはいた。トレードマークだった坊主頭は今では爽やかな短髪になっていたけど、細い眉はあの頃の田中くんと一緒だ。
「本当、すごい偶然だね。勤め先はここから三駅先の所。家がこの近所なの。今から電車通勤……」
そこまで言って、腕時計を確認すれば予定してた電車の時刻はとっくに過ぎてしまっていた。
「ごめん田中くん! 今度ゆっくり話そう! じゃあね!!」
「おう! 転ばねぇよう気ぃつけろよー!」
大きく手を振る田中くんに別れを告げて、私は駅へと急いだ。
会社には、なんとか予定時刻前に着いた。元々余裕をもって早めの電車に乗るつもりでいたから、何本か遅れても平気だったんだけど……ただ通勤ラッシュが一番酷い時間に当たってしまった。やっぱり明日からも早めに家を出よう、と私は心に誓った。
緊張し通しだった初仕事からようやく解放されて、私は電車に揺られていた。
まだ少し早い時間だからか、朝のような混雑は見られない。空いていた席に腰を下ろして、目的地までぼうっと向かいの窓の外を眺めて時間を過ごした。
「お疲れさん! どうだったよ、初勤務は!」
交番の前を差し掛かると、朝と変わらず元気な田中くんが声をかけてきた。緊張しっぱなしで心労からぐったりしていた私の顔を見て、彼は苦笑いしている。
「あー、まぁやっぱしんどいよなー。慣れるまではしょーがねーよ」