春風/田中龍之介
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「男子とは馬鹿騒ぎばっかしてたけどな!」
「それ、胸張って言う事?」
田中くんの顔に思わず笑ってしまう。
なんでもっとあの頃、田中くんと話をしなかったんだろうと思ったけれど。
今の私達だから、こうやって話せているのかもしれない。
お互い年を重ねて、経験を重ねて。あの頃の私達では、こんな関係を築くのは難しかったのだろう。
それから、私と田中くんは食事に行ったり、少し遠出をしたり。時には日帰りで温泉に行ったりもした。
友達、として。お互い一言も「付き合おう」とか「好き」とかそんな言葉は口にしなかった。私はどこかで田中くんが私に好意を持ってくれてないかな? って期待はしていたけど。
それまで、異性の友達はおろか、彼氏すらいたことが無かったから、私と田中くんの関係は何なのかよく分からないままだった。
******
田中くんと曖昧な関係のまま、時間は過ぎて行き……
季節は再び、2人が出会った春を迎えた。
いつものように、2人で食事に行った日のこと。
お通夜みたいに沈んだ顔の田中くんに、何かあった事は間違いないと思うのだけれど、尋ねてみても彼はなかなか口を割らなかった。
そんな田中くんを見るのは初めてで、なんだか嫌な予感がした。
もしかして、彼女とか。好きな人が出来たとか。
もう2人きりで会うのは辞めにしよう、って言われるんじゃないだろうか。そんなことばかりが頭をぐるぐると駆け巡った。
「あのよ……。俺、今度異動が決まったんだ」
「異動……そっか、転勤、あるんだっけ」
「おう。だから、お前とこうやって飲めるのも今日が最後だと思う」
「……そうなんだ……」
最後。そう言い切られてしまうと、何も言えなかった。
私達は別に付き合ってるわけじゃないし、友達以外の何物でもない。それ以上の感情をぶつけたって、きっと田中くんは困惑するだけだろう。
気持ちを押し殺して、努めて明るい顔を見せる。変に気遣わせてもいけないし、これでいいのだと自分に言い聞かせながら。
「やーでも寂しくなるなー!今日はぱーっと飲まないとね!! 私奢るからさ! 飲も飲も!!」
「……」
田中くんは答えてくれない。沈んだ顔のまま、私の目も見ない。
やだ、なんでそんな顔しているの。勝手に期待しちゃうから、いつもみたいに笑ってよ、田中くん。