春風/田中龍之介
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「予約してくれてたの?」
「おう。なんか人気の店らしくてよ。平日でも満席になんだと」
「そうなんだ。田中くん、こういうお店よく来るの?」
「全然。俺1人だとラーメンとか定食屋とか、そーいう店ばっか」
「確かに、田中くんのイメージはそっちかなぁ」
普段行かないようなお店をわざわざ選んでくれたのは、何故だろう。私に合わせようとしてくれたのかな、なんて少し自惚れる。
料理はとても美味しかった。どれも綺麗に盛り付けられていて、食べてしまうのが勿体ないくらいだった。
料理に合うように店員さんがワインを選んでくれて。初めてのワインは大人の味だった。じわりと口中に広がる苦みを美味しいと思えるようになるには、もう少し時間が必要そうだと思った。
「仕事、もう慣れたか?」
「ううん、まだまだ覚えることいっぱいあって。毎日ひぃひぃ言ってるよ」
「そっか。お前もか。俺も毎日先輩にしごかれて、ひぃひぃ言ってる」
「……働くって、思ってたより大変だよね。精神がどんどんすり減っていく気がする」
「だなぁ。体力は有り余ってるはずなのに、仕事終わるとどっと疲れ出るもんなぁ……」
「温泉とか行きたくならない?」
「なる! 家の狭い浴槽じゃなくて、デッケェ浴場で足伸ばして浸かりてぇわ」
「部屋で上げ膳据え膳してもらってさー、美味しいものお腹いっぱい食べてさー。早起きもせず昼まで爆睡してさー」
「うぉい、ヤメロ!! マジで行きたくなんじゃねぇか!!」
「あはは」
お酒の力もあってか、少しずつ打ち解けて話せるようになった。勢いで温泉に行こうよ、なんて誘いそうになった時は、さすがに言葉を飲み込んだけど。
「あっ、そういえば! この間テレビに影山くん出てたね!」
「おー! あれだろ『情熱大海』! すげぇよな、あいつ。同じチームでプレーしてたの信じらんねぇくらい出世しやがって」
「烏野も映ってたね。体育館とか懐かしかったなぁ」
「駄目なんだよなぁ……校舎とか見るとなんつーかこう、ぐっとくるもんあってよ」
「センチメンタルな気分になるよね」
「色々思い出すよな……」
高校時代。私は田中くんと同じクラスだった。
初めて会った時の田中くんの印象は、『怖い』『ヤンキー』『近寄りがたい』だった。坊主だったし、自分で手入れしてそうな細眉だったし、よくガン飛ばしてたし。