マカロンにまつわるエトセトラ/東峰旭
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先ほどまでの雰囲気は一変して、またいつもの空気感が2人の間に流れ始める。
胃のあたりをおさえて唸る東峰に、黒崎は苦笑しながら小さくため息をついた。
坂ノ下商店のあたりまで来ると、総菜パンや弁当を手にした烏野の生徒達とすれ違うようになった。
烏野高校付近にはコンビニの類は存在せず、この坂ノ下商店がその代わりを果たしていた。
昼時になれば生徒向けにパンやインスタントラーメンなどが店の軒先に並ぶ。
「おー、東峰」
「鳥養さん、こんにちは」
軒先で烏野生相手に接客をしていた鳥養が東峰の姿を見るなり声をかける。
「お前就職決まったんだって?良かったな!」
「はい、なんとか」
「なんだよ、もっと自信もっていけよ?お前試合だと別人みたいに頼もしいのになぁ」
カッカッと豪快に鳥養が笑う。
それに対して東峰は後頭部をぽりぽり搔きながら乾いた笑いを返すだけだった。
「あ、お前町内会チーム入る気ねぇか?!お前攻撃も守備もいけるしチーム入ってくれるとスッゲェ心強ぇんだけど」
「え、あ、はい」
「お?マジか!助かるぜ!!」
押しの強い鳥養に強引に勧誘されて流されるまま承諾したようにも思えたが、東峰が嬉しそうに頷く姿を見て、そうではなかったのだと黒崎は悟った。
東峰が嬉しそうにしているのを見ると、黒崎の胸もじんわりあたたかくなっていく。
「試合する時は教えてね、東峰。応援行くよ」
「うん。ありがとう」
「ん?なんだなんだ、彼女か?お前も隅に置けねぇな、東峰」
鳥養がからかうように口端だけあげて笑う。
東峰はにやついた鳥養の言葉にどぎまぎと返答に窮してしまう。
隣に佇む黒崎の顔色をうかがいつつ、力ない小さな声音で鳥養の言葉を否定にかかった。
「あ、いや、黒崎はそういう関係じゃ……」
「あ?なんだ?違うのか」
「は、はぁ……」
歯切れの悪い返事をする東峰の姿を見て、年かさの鳥養にはピンとくるものがあった。
自身の高校時代の苦い思い出が一気に蘇り、鳥養は渋い顔でタバコを勢いよく吸いこんだ。
(友達以上恋人未満ってヤツか?卒業まで時間ねぇってのに……。東峰らしいっちゃらしいが……ここはいっちょ俺がケツ叩いてやっか)
思いきり吸い込んだ煙を盛大に吐き出しながら、鳥養は東峰に鋭い目つきで視線を送った。