星を見る少年
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ー初めて出会った日のことは、今も鮮明に覚えている。
「危ねェ!!」
駅のホームで電車を待っていたら、突然、大声と共に腕を力強く掴まれた。
あっ、と思った瞬間には、腕を掴んでいる人の方に勢いよく引き寄せられて、足が自然と2、3歩下がる。
カツカツと響いたヒールの音に、私はようやくこちら側に意識を戻した。
「あんた死ぬ気か?!」
そう怒鳴られてビックリして声の主の方に振り向くと、短髪の学生が立っていた。
何やらひどく怒った様子だ。
初対面の彼がそれほどまでに怒る理由が分からず、私は彼の言葉をオウムのように繰り返した。
「え……? 死ぬ?」
ぽかんとした顔の私に、彼は毒気を抜かれたようになった。
怒っていた顔が次第に困ったような顔になり、私の真意を確認するようにこう言った。
「線路に飛び込みそうに見えたから。自殺するんじゃねぇかと思って」
彼のその言葉でようやく、彼がひどく怒っていた理由が分かった。
上の空でふらふらとホームを歩いていた私の姿は、確かに自殺と間違われても仕方がなかったかもしれない。
「あ…いや、自殺とか…そういうこと考えてたわけじゃなくて……」
確かに今、精神的に参ってるけど。
死のう、だなんて思ってはいない。
「…星が…」
「星?」
「流れ星が、見えた気がして」
ホームの屋根の合間から見える夜空に、きらりと輝き流れていった星を見て。
星に願い事するような可愛い年頃でもないのだけれど、少しでも願いが叶えばと、その姿を追って歩き出したんだ。
ここが駅のホームだということも忘れて、ふらふらと。
そんなことを話すと、学生の彼は「はぁ」となんとも気の抜けた返事をよこした。
いい年した大人が何をやっているのか、と呆れたに違いない。
自分でも何やってるんだかなぁと思うくらいだから。
「…なんか、辛いことでもあったんすか」
見ず知らずの男の子にそんな言葉をかけられて、少し驚いてしまった。
きっと心根の優しい子なんだろう。
誰かに気にかけてもらえるなんて、最近なかったから、心が緩んでしまったのかもしれない。
目の端にじわりと滲んだ涙が、こぼれ落ちていった。
「すんません、なんか俺悪いこと言いました?」
「ううん。ごめんね、ちょっと涙腺ゆるくなってるみたいで」
「…どうぞ」
差し出されたのは、綺麗に折りたたまれた青いハンカチだった。
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