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黄金川の表情の変化に、オーナーはおや、と目を付けたようで、黒崎と黄金川を幾度か交互に見やった。
「…なぁに。君、もしかして美咲ちゃんの彼氏、とか?」
一瞬、空気がしんと静まり返った。
何故このオーナーがそんな個人的なことを聞いてくるのか。
後になって思えばおかしいと気づきそうなものだったが、この時の黄金川はそこまで頭が回らなかった。
ただ、自分の恋心が他人に知れるのが恥ずかしくて、ぶんぶんと首を振ってしまっていた。
「ちっ、違うッス!!」
「そうなんだ。ごめんねぇ、変なこと聞いて。いやぁね、ちょっと前にこの子につきまとう変なお客さんがいてねぇ。私は心配でねぇ。ほら、大事なスタッフだからねぇ」
『大事なスタッフ』と言いながら、肩から腕へと手をすべらせていくその様子は黄金川以外の者の目にも奇異に映っていた。
オーナーにされるがままになっている黒崎は、唇を噛みしめてぐっと我慢しているようだった。
オーナーの黒崎に対する妙な視線と言動は、『セクハラ』そのものだ。
俯いてじっと耐えている黒崎の姿に、黄金川は義憤に駆られた。
たとえ相手が意中の人でなかったとしても、嫌がっている人を見過ごすことは、黄金川には出来なかっただろう。
「…ちょっと、アンタ。黒崎さん、嫌がってるじゃないっすか」
「うぅん? 何を?」
それまでにやついていたオーナーの顔は、黄金川に「アンタ」と呼ばれて一瞬だけ崩れた。
垣間見えたオーナーの本性に、黄金川の義憤はますます燃え上っていた。
「…しらばっくれるつもりっすか?」
オーナーを睨み付けだした黄金川に対して、黒崎はふるふると小さく首を振る。
それは黄金川の行為に対して拒絶を意味していて、驚いた黄金川は「でも」と小さく口にした。
黄金川の言葉に対しても黒崎はまた首を振る。
被害を受けている当の本人に拒まれてしまっては、黄金川はそれ以上オーナーを追い詰めることは出来なかった。
何故彼女が我慢をするのかさらさら理解できなかったものの、本人が望んでいないことを押し通すのはよくないと、黄金川はそのまま押し黙ってしまった。
「……お会計、しますね」
重苦しい空気の中、黒崎はいつものように淡々とレジをこなす。