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「……気に入らなかったのよ」
「何が」
黄金川の剣幕に怯えながら、女は舌打ちする。
顎をしゃくり上げて威嚇する黄金川に、女はしぶしぶといった顔で答える。
「…オーナーがやたらあんたのこと気に入って、私のことなんて見向きもしてくれなかった。ずっといなくなればいいって思ってた」
思いを口にしたら止まらなくなったのか、女は自分の気持ちを吐き出すように語り始めた。
「あんたがコンビニ辞めて清々してたのに、こいつがあんたのこと聞きに来て、またオーナーはあんたのことで頭いっぱいにさせてた! それなのにあんたはのんきな顔でこいつと楽しそうにしてて……!」
「んだよ、それ。逆恨みじゃねぇか!」
「分かってるわよ! …妬ましくて、羨ましくて、仕方なかったのよ…!」
女の言い分はひどく身勝手なものだった。
自分の想いが伝わらない憤りを、黒崎に転嫁していただけだった。
あっけない事件の幕引きだったが、黄金川も黒崎も気分がすっきりと晴れることはなかった。
そのうちにやってきた警察に身柄を拘束され、女は2人の前から姿を消した。
******
「…貫至くん、本当にありがとう。…怪我させてごめんなさい」
「なんで美咲さんが謝るんすか! 悪いのはあの女の人っすよ。それにこんなかすり傷、怪我のうちに入らねぇッス」
「……でも、私も原因の一因だから」
「そんなこと」
黄金川の言葉に、黒崎はぶんぶんと首を振る。
ぐっと噛みしめた唇は今にも震えだしそうだった。
「私が、オーナーに曖昧な態度取ってたから。…知らないフリしてたけど、本当は気づいてたんだ。シフトとか休みとか融通してもらってたし、オーナーの好意を利用してた所、あるから」
「……」
「貫至くん、前に助けてくれようとしたことあったよね。オーナーから。あの時は、あんな拒否の仕方してごめんね。本当は嬉しかったんだ。貫至くんが『やめろ』って言ってくれて」
「美咲さん…」
オーナーにセクハラまがいのことをされて、じっと耐えていた彼女の姿が黄金川の脳裏によみがえる。
あの時義憤に駆られて口出ししたことは、やはり間違いではなかったのだ。
「…私、もう間違わない。もう、ずるいことはしない。相手の気持ちにつけこむようなこと、もうしない。だから、貫至くん……」