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「……いや、付き合う。もったいねぇもん」
「……そっすか……普通は、引くと思うんすけどね……」
思った答えが鎌先から返ってこなかった為に、二口は毒気を抜かれたように語気が弱まってしまった。自分の提案を頭から否定されてしまった鎌先は、口をへの字に曲げて二口を睨み付けた。
「そんなに言うならよ。お前の考え、言ってみろよ。俺の提案よりさぞかしいい考えがあるんだろうな?」
結局、こうなるのか。と、二口はため息をついた。
こうなるんだったら、始めから黄金川の相談に素直に乗ってあげた方がマシだったかもしれない、と思いながら、二口は急かす鎌先に自分の考えを聞かせることにした。
「…まずは、顔覚えてもらわなきゃ話になんないんで。毎日コンビニ通って、毎回同じ物買いますね、俺なら。それで少しずつ天気の話とかから始めて、距離つめていく感じっすかね」
「なんだよ。結構普通じゃねぇか。つまんねぇ」
鎌先の言葉に、二口はムッとした顔になった。確かに二口の提案は至極王道なものであった。けれど王道こそ、確実で安全な唯一の方法であると二口は思っていた。
鎌先のようにインパクト重視でいく手もあるだろうが、それでは黄金川の恋が成就する確率は数パーセントにも満たないだろう。
なんだかんだと文句を言いつつも、後輩の、黄金川の恋が実るように、二口は真面目に考えてしまっていたのである。普段何かと意地悪な顔を見せる二口だったが、その実、彼の心根は優しかった。
「普通でいいんすよ。『単純接触効果』って知らないんすか? 人間って顔を合わせる機会が多い相手に好意を抱きやすいんすよ。だからまずはとにかく、『会う』『顔を合わせる』ってのが大事だと、俺は思うんすよね」
「…さすが二口先輩ッス!! めちゃくちゃ参考になります!! 俺、今日から毎日同じ商品買い続けます!!」
「お、おう…力になれたんなら、良かったぜ」
目を輝かせて喜ぶ黄金川に、二口はひきつった笑顔を見せた。
「ちょっと待て黄金。俺の提案は却下かよ」
「すんません!! お詫びに校庭100周してきます!」
「…いや、別にそこまでしなくてもいいけどよ……」
体育館から本当に飛び出して行きそうになった黄金川を、鎌先がやんわりと引き留める。勢いよく頭を下げる黄金川を見ながら、鎌先も二口も小さくため息をついたのだった。