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普段歌詞の意味などあまり気に留めない黄金川だが、今は違った。
黒崎の声が紡ぐ言葉、一つ一つを噛みしめるように歌を聴いていた。
片想いの切なさを綴った歌詞は、黄金川の心情と重なる部分もあり、気が付けば黄金川の目からは涙がこぼれていた。
ぽろぽろと流れ落ちる涙を拭う黄金川の姿を目にした黒崎は少しだけ大きく目を開いて、すぐに伏せた。
目を瞑ったまま最後まで黒崎は歌い上げた。
曲が終わる頃には黄金川の涙腺は崩壊し、人目も憚らず涙をこぼしていた。
「なぁ、声かけてみねぇ? ご飯誘ってみようぜ」
「お、行ってみる?」
黄金川の横で歌を聴いていた2人組の男達がそう言うのを聞いて、黄金川の顔は自然と厳しいものになっていた。
涙と鼻水まみれの長身の男がガンを飛ばしてきたのに気が付いて、2人組は危険を察知してその場から逃げるように立ち去った。
「貫至くん! 来てくれたんだね! ありがとう」
駆け寄ってきた黒崎の方へ振り向いたときには、黄金川の険しい顔はどこかへ消えていた。
代わりにほんのり赤くなった顔が現れていた。
「ッス! 部活で遅くなって、最後しか聴けなかったッスけど…」
「ううん、聞きに来てくれただけですごく嬉しいよ。ありがとう」
「俺、めちゃくちゃカンドーしました! 声もスゲー綺麗だし、スゲー歌上手いし…」
「ふふ、ありがとう」
本当はもっと、色んな言葉を並べて黒崎の歌を褒めたかった。
だけど、今の黄金川にはごくありきたりの言葉で褒めることしか出来なかった。
「歌詞もスゲーカンドーして! いつもはああいう曲聴かないんすけど、スゲー良かったっす! …すんません、俺さっきからスゲーしか言ってねぇ…」
うまく思いを伝えられないことに黄金川はもどかしさを感じていた。
黒崎の歌がどれだけ自分の心を揺り動かしたのかもっと言葉で彼女に伝えたかった。
けれど黒崎はううん、と首を振って微笑んだ。
「貫至くんの顔を見れば充分、気持ちは伝わってるから」
黄金川の目は真っ赤で、頬には涙のあとが残っている。
言葉はなくとも、黄金川の流した涙だけで、黒崎にとっては充分だったに違いない。
「…貫至くんの涙を見て、私も泣きそうになっちゃった。自分の歌で、人の心に触れられたらいいなって、ずっと思ってたから」