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「でも、バス…」
ちらりと横目で見やったバスの運転手と黄金川の目が合った。
『ご乗車されますか?』
運転手にそう尋ねられ、黄金川はぶんぶんと首を振った。
扉を閉めたバスは、雨の中走り去っていく。
どんどん遠くなっていくバスを見送って、黒崎がぽつりと言った。
「…良かったの? 乗らなくて」
黄金川はすぐには返事が出来なかった。
今日は嬉しい出来事が重なったからといって、いささか調子に乗りすぎたのではないか、と内心冷や汗をたらしまくっていた。
ガツガツ行き過ぎたら、ひかれてしまうのではないか。
せっかく連絡先を交換するまで進展したのに、欲張りすぎたかもしれない。
「まだバスあるんで…。その…時間遅いし、女の人1人で帰らすの危ないかなって…思ったんすけど…」
下心を隠すように最もらしい理由を並べる。
けれど最もらしい理由を述べた割には、黄金川の声は自信なさげだった。
いつもの元気良さはどこへやら。
「じゃあお言葉に甘えようかな」
返ってきた言葉に、黄金川は思わずガッツポーズをしそうになった。
すんでのところでなんとかこらえたものの、口元はうれしさで緩みそうだった。
「…実はね、最近誰かにつけられてる気がしてて。ちょっと怖かったんだ」
黄金川が傘をさそうと留め具を外している時に、黒崎はそうこぼした。
その瞬間、あのオーナーの顔が黄金川の脳内に浮かんだ。
「マジっすか! そんな事あったんだったら遠慮なんかしないでくださいよ!…っつっても、コンビニで会っただけの俺信用してってのも、難しい話でしょうけど」
「…そんな事ないよ。貫至くんはいい人だって、分かるよ」
「そうッスか?」
「うん、目を見たら分かるの。貫至くんは真っ直ぐな目をしてる。悪い人はそんな真っ直ぐな目、してないから」
じっと目を覗きこまれて、黄金川は固まってしまった。
黒崎が期待する『いい人』からはみ出さないように、下心を気取られないように、気持ちを隠すのに黄金川は必死だった。
「…それにしても、貫至くんホントに背高いね。あ、身長は伸びた?」
「あっ、ハイ! 2ミリ伸びました!!」
ぐんぐんバー効果なのかただの成長期なのか判別しがたい身長の伸びに、黒崎はクスッと笑った。