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「二口先輩!! 相談に乗ってください!!」
朝練終わりの体育館に、黄金川の大きな声が響いた。その大きな声に顔をしかめながら、二口は即座に返答した。
「嫌だ」
あっさりと断られてしまった黄金川は、「なんでですかぁ」と情けない声を出しながら、なおも二口に取りすがった。
「頼んます!! 一生のお願いッス!!」
「お前の一生のお願い何個あんだよ」
「マジで!! マジで一生のお願いッス!!」
「……」
朝から暑苦しく二口にまとわりついているこの人物の名は、黄金川貫至といった。彼は何事にも生真面目なたちで、いつでも全力投球の熱い男だった。
そんな彼に、先輩である二口は少々手を焼いていたし、何より何度目かしれない彼の『一生のお願い』を聞くのはもう懲り懲りだと思っていた。
思ってはいたが、無視をしようにも熱いまなざしで二口から目を離しそうにない黄金川を見て、二口は深いため息をひとつついた。
「……話聞くだけ聞いてやる。いいか、聞くだけだからな?!」
「うぉぉぉ!! ありがたいッス!!! 二口先輩がいれば百人力ッス!!!」
「おい、勘違いするなよ、俺はただ話をだなぁ……」
二口が釘を刺そうと口を挟んだものの、黄金川がうんうんと勢いよく頷くのを見て、二口はそれ以上口を開くのをやめてしまった。これ以上口うるさく話を続けても、今の黄金川は頷くだけで真に理解しようとはしないだろう、と二口は思ったのだ。
「…で。何よ、相談って」
「学校の近くに、コンビニ、あるじゃないッスか。いつも帰りにみんなで寄る」
「あぁ」
「お、俺……そこの店員さんに、一目惚れしたんス!!!」
「……あぁ?」
真っ赤な顔をして二口に自身の恋心を告げる黄金川に、二口の顔はひきつっていた。朝から何を相談されるかと思いきや、まさか後輩の恋愛話を聞かされる羽目になるとは、二口は思いもよらなかった。
「それで……俺、どうしたらいいかなって……」
「はぁ? 相談って、そんなことかよ」
二口は盛大にため息をついた。部活のことで何か悩んでいるのかと思いきや、一目惚れした相手にどうしたらいいのか相談に乗って欲しいだなんて……少しばかり仏の心を見せたのが間違いだった、と二口は思った。
「そんなことって……酷いッス、二口先輩…」
ぐすぐすと涙目になっていく後輩を見て、二口はまた大きなため息をついた。
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