走れサンタ!/二口堅治
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『ダーメ。だって今がちょうどいいんだもん』
『ちょうどいい?』
『うん。ほらこうやってギュってするのにちょうどいい』
――俺がぎゅっと美咲を抱きしめると、美咲の頭はちょうど胸あたりにくる。そこに顎を乗せてギュッと抱きしめるのが、大好きだった。すっぽりと自分の腕の中に収まってしまう彼女のぬくもりを全身で感じられる時間が、俺は何より好きだった。
『もう、にろちゃんってばすぐそうやって抱き着くんだから!』
『なんでいいじゃん。俺達付き合ってるんだし』
『……そうだけど、すぐ変なとこ触るんだもん』
『それはしゃーないでしょ。高校生男子ですから、俺』
――恥ずかしがる美咲の顔を見るのもめちゃくちゃ好きだ。その顔見たさについつい意地悪をしてしまうんだけど、美咲は分かってないみたいで、赤い顔で頬を膨らませながら文句を言ってくるんだよな。その顔がさらに煽ってるんだけどな、なんて思いながら、またギュッと抱きしめて美咲の髪の匂いをかいでしまうあたり、俺も大概やらしいやつだなと思う。
「あーっ、ぬくもりが欲しい!!」
道行く人が何事かと驚いた顔で二口に視線をやる。二口の眼前のカップルなぞ、彼氏が彼女を二口の目から隠すようにしてそそくさと立ち去って行った。
何も事情を知らない周囲の人間からすれば二口は、クリスマスに1人寂しくジングルベルを鳴らしている哀れなサンタにしか見えないのだろう。
周囲に溢れるカップルを羨ましそうに妬ましそうに見ている二口の姿は、どう弁明しようとも『哀れなサンタ』だった。
白い息とともにむなしさとやるせなさを吐き出して、二口は再びベルを片手にケーキを買ってくれ、と道行く幸せそうな人々に声を張り上げた。
大きく開けた口に、冷たいものがヒヤリと舞い降りた時には二口の鼻頭は先ほどよりさらに赤くなっていた。
「げっ、マジかよ……雪降ってきやがった」
口に入ったものは小さな白い雪だった。見上げれば真っ暗な空からしんしんと雪が舞い降り始めている。
道行く恋人たちから、わぁっと歓声が上がる。彼らにしてみればホワイトクリスマスという特別感のあるクリスマスになってさぞやいい思い出になるだろう。
「こっちは寒いだけだっての」
誰に向けたわけでもないその言葉は、雪とともに地面に降っていく。
『ちょうどいい?』
『うん。ほらこうやってギュってするのにちょうどいい』
――俺がぎゅっと美咲を抱きしめると、美咲の頭はちょうど胸あたりにくる。そこに顎を乗せてギュッと抱きしめるのが、大好きだった。すっぽりと自分の腕の中に収まってしまう彼女のぬくもりを全身で感じられる時間が、俺は何より好きだった。
『もう、にろちゃんってばすぐそうやって抱き着くんだから!』
『なんでいいじゃん。俺達付き合ってるんだし』
『……そうだけど、すぐ変なとこ触るんだもん』
『それはしゃーないでしょ。高校生男子ですから、俺』
――恥ずかしがる美咲の顔を見るのもめちゃくちゃ好きだ。その顔見たさについつい意地悪をしてしまうんだけど、美咲は分かってないみたいで、赤い顔で頬を膨らませながら文句を言ってくるんだよな。その顔がさらに煽ってるんだけどな、なんて思いながら、またギュッと抱きしめて美咲の髪の匂いをかいでしまうあたり、俺も大概やらしいやつだなと思う。
「あーっ、ぬくもりが欲しい!!」
道行く人が何事かと驚いた顔で二口に視線をやる。二口の眼前のカップルなぞ、彼氏が彼女を二口の目から隠すようにしてそそくさと立ち去って行った。
何も事情を知らない周囲の人間からすれば二口は、クリスマスに1人寂しくジングルベルを鳴らしている哀れなサンタにしか見えないのだろう。
周囲に溢れるカップルを羨ましそうに妬ましそうに見ている二口の姿は、どう弁明しようとも『哀れなサンタ』だった。
白い息とともにむなしさとやるせなさを吐き出して、二口は再びベルを片手にケーキを買ってくれ、と道行く幸せそうな人々に声を張り上げた。
大きく開けた口に、冷たいものがヒヤリと舞い降りた時には二口の鼻頭は先ほどよりさらに赤くなっていた。
「げっ、マジかよ……雪降ってきやがった」
口に入ったものは小さな白い雪だった。見上げれば真っ暗な空からしんしんと雪が舞い降り始めている。
道行く恋人たちから、わぁっと歓声が上がる。彼らにしてみればホワイトクリスマスという特別感のあるクリスマスになってさぞやいい思い出になるだろう。
「こっちは寒いだけだっての」
誰に向けたわけでもないその言葉は、雪とともに地面に降っていく。