走れサンタ!/二口堅治
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「ケーキ、いかがっすかー!」
片手に持ったベルを鳴らしながら、道行く人々に向かって声を張り上げているサンタクロースがいた。真っ赤な衣装に身を包んではいるものの、サンタの定番の白い髭は見当たらない。
そのおかげでずいぶんと若いサンタに見える。サンタの帽子からはみ出た茶色の髪は、いかにも今どきの若者だ。
「本日に限り焼き菓子のおまけ付きですよー!!」
近くにトナカイはいないが、若いサンタの鼻頭は赤鼻のトナカイよろしく真っ赤になっていた。それもそのはず、彼はここ2時間ずっと寒空の下で立ちっぱなしだった。
いまやケーキ屋に限らずコンビニでまでもクリスマスケーキが予約できる時代。クリスマス当日にホールケーキを買う人の姿はまばらだ。道行く人のほとんどが帰宅を急いでいるか、街中のイルミネーションを楽しんでいるかだった。
大通りの真ん中に設置された大きなクリスマスツリーの周りは、家族連れやカップルで賑わっている。七夕でもないのに、ハート形の短冊がツリーの傍に置かれていて、願い事を書き込むカップルの姿を、若いサンタは白い息を吐きながら眺めていた。
「はー……なんでクリスマスの日にバイトしてんのかね、俺」
本当だったら、若いサンタは今日は彼女と過ごす予定だった。それが突然その予定は白紙になってしまった。
原因は、すごくつまらないもので、若いサンタは深いため息とともに後悔の念にかられていた。
ちょっとした喧嘩が、ここまで尾を引くことになるとは、若いサンタは思っていなかったのだ。喧嘩の内容も取るに足らないくだらない事。
たまたま二人の虫の居所が悪かっただけ。どちらか一方が悪いということはなく、どちらにも非があった。長い付き合いだったから、お互いどこか相手に対してぞんざいになっていたところがあったからかもしれない。
「……幸せそうなことで」
サンタの視線の先には一組のカップルの姿があった。
女性がツリーにハート形の短冊を飾ろうとしたが、飾る場所が無くて困った顔をする。するとその女性の彼氏らしき人物が、彼女から短冊を受け取って、高い場所にくくりつけた。
彼氏の行動をぱあっと顔を輝かせて見ている女性の姿に、若いサンタは彼女の姿を重ねてしまっていた。
『にろちゃん、すごいね! さすが伊達の鉄壁なだけある!』
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