スモーキー・ブルース/烏養繋心
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「いらっしゃいませー!!」
細い体のどこから出たのかと思うほどの大声が、隣の黒崎さんから飛び出した。
驚いた顔で彼女を見ると、まぶしいくらいの笑顔を見せてくれた。
「私、飲食店でバイトしてたことあるんで! 声量には自信があるんです」
「そっすか……」
「はい!」
別に褒めてやしないのに、嬉しそうに黒崎さんは笑う。
やって来た高校生達に対して、彼女は笑顔を絶やすことなく、手際よく会計を済ませていった。
いつもは俺1人でこなす、この昼時のラッシュ。
1人でこなせない人数じゃないが、2人いればずいぶんと手早くお客をまわすことが出来る。
何より黒崎さんの接客は速いのに丁寧で、仏頂面の俺が接客するより、心なしか高校生達の表情も明るいように見えた。
あっという間にワゴンの商品はなくなり、それと時を同じくして生徒達の波も静かに引いていった。
「どうですか、繋心さん! 私と結婚するとお得ですよ!」
腰に手をあてて、そう胸を張る黒崎さんに、俺は思わずプッと噴き出してしまった。
「…ふはっ、確かにな」
「! では、結婚する気になりましたか?」
「それとこれとは話が別だ」
「ええーっ!」
いや、『ええーっ!』じゃねぇだろう。
どんなに接客がうまかろうが、俺は結婚する気、ないんだって。
……こいつは、どうしたら諦めてくれるんだろうか。
困ったもんだ。
「何度も言ってるが、俺は今は結婚する気ねぇんだ」
「……そうですか……」
お。
ようやく諦めてくれるのか?
「…では、今日のところはお暇しますね」
「はいはい、じゃあな...ん? 今日のところは?」
「また明日うかがいます」
「明日も来んのかよ......」
駄目だ。
こいつは駄目だ。
諦める気がないらしい。
「“今は”結婚する気がないんでしょう? もう少ししたら、結婚する気になるかもしれません」
「アンタなぁ、そんな屁理屈こねんなよ」
「黒崎美咲です。美咲で構いませんよ」
名前で呼んでほしいのか、そうアピールする彼女に、深いため息をつく。
名前なんか呼んだ日には、絶対調子乗るだろコイツ。
呼ぶとしても苗字だ。名前は絶対呼ばない。