スモーキー・ブルース/烏養繋心
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けれどやはりお互いまた沈黙で。
どちらが先に口を開くか、と事態が膠着しかけたところで、横から「あっ」と大きな声が聞こえた。
「お父さん、この人だよ! お花をくれたの!!」
見れば、さっき病院前で花束を渡してやった子供が、後ろに父親らしい男性を連れて立っている。
「先ほどこの子から話を聞きました。私の教育不足でよそ様に注意させてしまい、申し訳ありませんでした」
「おじさん、ごめんなさい」
父親と子供は2人して深々と頭を下げた。
『おじさん』には少々引っかかったものの、丁寧に謝罪をよこすその姿勢に免じて目をつむることにした。
「その上立派なお花までいただいてしまって。どなたかのお見舞いにお持ちになったものでしょう? これ、少ないですが……」
言って父親は茶色い封筒を寄越そうとする。
中身は、なんて聞かなくても分かる。
いくらか包んであるのだろう。
「いえ、いいです。こうしてお礼を言ってもらえただけで十分です」
父親が差し出した封筒を手のひらでそっと押し返す。
瞬間、父親の顔が困った顔になる。
「そうは言いましても」
「本当に、お気持ちだけで結構です」
俺も父親も譲らなかった。
封筒の押し付け合いが数度あり、最終的にはカフェの支払いを父親が持つということで決着した。
「本当にありがとうございました」
そう言って父親と子供は立ち去って行った。
親子の後ろ姿を見つめたまま、黒崎さんが口を開く。
「繋心さん、やっぱり貴方は繋心さんなんですね」
彼女の言葉の意味がすぐには理解できなかった。
俺が俺だって、どういう事なのか。
至極当たり前のことを言っているわけではなさそうだった。
彼女の言葉にこめられた真意を探るように、黒崎さんの顔をじっと見つめた。
「……私、繋心さんにひとつだけ嘘をついていたんです。ごめんなさい」
「嘘?」
バツの悪そうな顔で、俺の顔を上目遣いで見ている。
彼女が俺に嘘をついていた、そう言われても見当がつかない。
先ほどの発言からして、黒崎さんの言わんとしている事がいまいち理解できない。
含みを持った言い方をするなんて、彼女らしくない。