スモーキー・ブルース/烏養繋心
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黒崎さんが家に来なくなってから1週間くらいたった頃、俺はじいさんの見舞いに病院へと向かっていた。
母ちゃんに渡された着替えと、病室の花瓶に生ける花を持って病院の前まで来た時だった。
病院のすぐそばには、ちょっとした広場があって、入院患者やその見舞客が散歩したりしている。
その広場の花壇から、花を引き抜こうとしている子供が目に入った。
小学校低学年くらいの子供は、きょろきょろとあたりを見回しては、花壇の花に手を伸ばす。
綺麗に伸びた花の茎が音をたててちぎれていく。
「ごらぁ! お前何してんだ!!」
俺の大声に驚いた子供は、小さな目をまんまるにさせたかと思うと、次の瞬間には顔を歪ませて泣き始めた。
「ごめんなざいぃ~!!!」
「やっていい事と悪い事の区別くらいつく年だろ。なんでそんな事やったんだ」
「う゛う゛……っ!! お、おがあざんに、お、おはな……」
ボロボロと涙をこぼしながら、子供は懸命にワケを話そうとしていた。
切れ切れに聞こえる単語の断片をつなぎ合わせていくと、どうも入院中の母親に花を持っていこうとしていたところだったらしい。
花壇の花を持って行ったって、母親は喜ばないだろうに、子供ってのはたまに短絡的な思考に陥る生き物だ。
…いや、子供に限らない。
短絡的思考に陥るのは、大人だってそうだ。
ただ目の前のことしか見えていないから、そんなことをしてしまうのだろう。
「理由はよく分かった。だけどな、お前がやってたのは泥棒だろ。そんな花もらったって、母ちゃん喜ばねぇぞ。……これ、持って行け」
じいさん用に持ってきた花を、子供に差し出す。
子供は涙を流しながら、困った顔になった。
「え……でも……」
「いいから。やる」
受け取りきらない子供に、半ば押し付けるようにして花を渡す。
俺が持つとそうでもないが、子供には少し大きかったのか、両腕で抱えるようにして子供は大事にそうに花に目を落とした。
「あ、あの……」
「ん?」
「お花、ありがとう……!」
「ん。ちゃんとお礼言えて偉いじゃねぇか」
軽く子供の頭を撫でて、俺は病室へと向かった。