スモーキー・ブルース/烏養繋心
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小刻みに震える体はまるで小動物のようで、俺はそこでようやく彼女が本心から怖がっていることを理解した。
「……アンタ、もしかして男に抱かれるの初めてか」
「……」
返事は無かった。
だけど悔しそうに唇を結んだ彼女は、小さく頷いた。
耳まで真っ赤にさせて震える黒崎さんに、それ以上無体を働く気にはなれなかった。
「…………俺が悪い男じゃなくて良かったな」
「……っ…」
押さえていた手首を離してやると、黒崎さんはすぐさまシャツの襟を押さえて俺に背を向けた。
まだ小さく震えている後ろ姿を見て、少しやりすぎたかと反省した。
始めから、最後までやるつもりはなかった。
煽ってきたことを後悔させてやろうと思って少し脅かしたつもりだった。
けれど、ここまで怯えさせるつもりはなくて。
このまま彼女が男性不信にでもなったら俺の責任じゃねぇか。
自分で自分の首を絞めるようなことをしてしまったと後悔してももう遅い。
…だが、これで良かったんじゃないか。
このまま俺のことを怖がって近づかなくなれば。
そう、俺は望んでいたはずだろう?
なのに、何故。
彼女の小さな背中を見るだけで、こんなに胸が締め付けられるんだ。
「……」
黒崎さんに何か言葉をかけようと、彼女の背に手を伸ばすと。
気配を感じてか、ビクッと大きく体を震わせた。
これ以上手を伸ばせば、俺はまた彼女を不用意に怖がらせてしまう。
そう思うと、彼女に触れることが出来なかった。
伸ばしかけた手を静かにひっこめて、黒崎さんに布団をかぶせ、俺は黙って部屋を出た。
**********
翌朝。
トントントンと、規則的な音が響く。
うっすらと目をあけると、ほのかにみそ汁の匂いが漂っていた。
ぼんやりと天井の染みを見つめて、首だけ台所の方に向けると、黒崎さんの後ろ姿が見えた。
窓から差し込む朝日のせいか、彼女の輪郭はぼやけて見える。
もう朝か。
いつ寝たかすら定かではないぼんやりとした頭のまま、のそっと起き上がると、気配を感じてか黒崎さんが振り返った。
「おはようございます」
「……おはよ」
ニコッと微笑む黒崎さんは普段と何も変わらなかった。
昨晩の事をどう思っているのかは、その表情や態度からは分からない。