スモーキー・ブルース/烏養繋心
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吐息がかかりそうなほど近づいて、彼女に囁いた。
「弄ぶだけ弄んで捨てるかもしれねぇぞ」
彼女を下に見るように、視線を落とすと、若干彼女の顔がこわばった。
と思ったのもつかの間、黒崎さんはパァッと何か閃いたといった顔になった。
「…なるほど! 既成事実ってやつですね!」
「は……?」
「そうか、その手があったか……」
「いや、おい……」
しまった。
おかしなことをふきこんでしまった。
怯えさせるどころか、逆に変な知恵をつけさせてしまった。
うろたえる俺に、黒崎さんはニッコリと微笑みを向けた。
「冗談ですよ!」
「……だと、いいが……」
結局、俺は車内で彼女を説得することは出来ず、後は終始無言でそのまま家まで送っていった。
「ここです。ありがとうございます」
彼女の家は、昔ながらの日本家屋で、立派な門構えだ。
庭もあるのだろう。
これまた立派な松の木が植わっているのが見える。
…莫大な財産って話は、あながち嘘じゃないのかもしれない。
思わずそんなことを考えてしまうほどの家に、ますます彼女に対して謎が深まるばかりだった。
けれどそんな立派な家には明かりが付いていない。
家の前に車を停めても、中から人が出てくる気配もない。
「あー…一応、親御さんに一言……」
「両親は、いないんです」
「どっか出かけてんのか」
「いえ…私が小さい頃に、事故で亡くなってて」
マジか。
今の今までそんなこと一言も聞いてない。
知らずに踏み抜いてしまった地雷に、思わず頭を掻く。
「…そうなのか。悪い」
「いいえ! 大丈夫です。小さすぎて私はよく覚えていないんで。…今日は送ってくださってありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる黒崎さんに、ひらひらと手を振る。
「ん……戸締りちゃんとしとけよ」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
バックミラーを見ると、黒崎さんは俺の車の行方を家の前でずっと見つめていた。
角を曲がるまで、彼女の姿はミラーの中にあった。