スモーキー・ブルース/烏養繋心
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本音を彼女に話すしか、俺には策は無かった。
「…俺が今、高校のバレー部のコーチやってんのは知ってるだろ?」
「はい」
「外部コーチって扱いで、一応金はもらってるが、微々たるもんでよ。ほぼボランティアみてーなもんだ。実家の商売だって、めちゃくちゃ売り上げがあるわけじゃねぇ」
結婚に、夢を見ている年頃なのかもしれない彼女には、こういった現実的な話がどこまで響くのか分からない。
だけど、避けては通れない話だ。
なるだけ俺の本気が伝わるように、声のトーンを落として言葉を続ける。
「食うに困るほど、金がねぇわけじゃねぇけど、嫁さんもらって、家庭をもって、子供できて、って先のこと考えたら、どうしても金が必要になってくんだろ」
「そうですね」
「俺は今、コーチの方に力を注ぎたい。しばらくは今みたいな生活が続くと思う。……だから、基盤がねぇのに『結婚』っていうのは考えられない」
俺が話し終えると、車内はしん、と静かだった。
さすがに真面目な話に頭が冷えたのか。
チラ、と彼女を横目で見ると、難しい顔をして考え込んでいる。
「……実は……」
黒崎さんが重い口を開いた。
俺と同じ真面目なトーンだったから、何事かと少し身構える。
「ん? なんだ」
「……実は、私は莫大な財産を……」
雲行きが怪しい気がする。
真面目な話のはずなのに、どこか胡散臭い気がするのは俺だけだろうか。
「……持ってんのか?」
「いえ」
「持ってねぇのかよ」
こっちが真剣に話してるっていうのに、コイツは。
真面目な顔で話を聞いていた俺が馬鹿みたいだ。
「お金はありませんが、私も働きますから。お金の心配はせずとも」
「そりゃあ、ありがたい話だけどよ」
「今は共働きも当たり前の時代ですし。私、なんでもやります」
「その気負いだけは買うがな。……だけどよ」
あたりはひっそりと静まり返っている。
人通りもなく、街灯の数も少ない。
ちょうどいいところだと思い、俺は車を路肩に止めた。
シートベルトをおもむろに外した俺を、きょとんとした顔で黒崎さんは見ている。
「黒崎さん、アンタ、俺が悪い男だったらどうする?」
言って、ぐっと顔を彼女に近づけた。
近づくほどに彼女の目が真ん丸になっていく。