離れてもすきなひと/黄金川貫至
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そう感じた俺の第六感は正しかったことが証明されてしまった。
「俺じゃなくても他にいっぱいいるだろ。作並とか吹上とかよぉ」
「みんな断られましたっ!!! 二口先輩が最後の砦っす!!」
そんな物語を左右するような重要人物みたいに言われても困る。
『鉄壁』だけに『砦』ってか、やかましいわ。
……なんて脳内で一人ノリツッコミをするくらいには、変な余裕があった。
「勝手に会いに行けばいーじゃねーか。ライブ会場んとこで張ってりゃいいじゃん。出待ち? みたいな」
「俺は歌も聴きたいんス!!!」
「お前の希望は知らねーよ!」
なんで俺が黄金の為に東京くんだりまでついていかなきゃなんねーんだ。
それも彼女に会うためだろ? しかもバレンタインの日に。
なんだ、お前当てつけか? と思わざるを得なかった。
ちょうどこの間、俺は彼女と別れたばっかりだったから。
「お願いします!! 旅費は全額出すんで!!」
「はぁ? マジで言ってんの?」
「マジっす!! お年玉と小遣い前借りでいけるっス!!」
正直ちょびっとだけ心が揺れた。
こないだ雑誌で見た、古着の店が東京にある。
こっちじゃ売ってないような服もあったから、本音をいうと東京には行きたい。
だけどコイツと2人きりで東京まで旅行っつーのは。
「これが最後の一生のお願いっス! 二口先輩!!」
「っまえ、ホントにいくつあんだよ“一生のお願い”
その彼女と付き合う前もそんなこと言ってたじゃねーかっ」
「マジで!! 今回が最後なんでっ!!」
長身の黄金川が必死に頭を下げて、俺に頼み込む。
そうだ、コイツはいつもそうやって俺の小さな親切心にすがろうとすんだ。
黄金が今の彼女と付き合えてるのは、俺のおかげでもある。
俺の助言のおかげで、コンビニ店員だった彼女と黄金は顔見知りになった。
その後だって、顔見知りからその先へ進めるように、時折相談にのってやったし助言もしてやった。
……おい、俺ってめちゃくちゃ優しい先輩じゃね?
「でもな、もうお前の一生のお願いは聞いてやったからな」
「そんな! 頼んます、二口先輩!!」
大きな図体した男が、今にも泣きそうな顔で必死に頼み込んでくる姿はなんともシュールだ。
東京行きに心はほんの少し揺れながらも、俺は首を縦に振らなかった。