デートの後で…/鎌先靖志
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「何か用か?」
自分の名を呼んで、近づいてきているのだから用があるのは間違いない。けれどほぼ面識のない人間に、険しい顔で近づかれるのはいい気分がしなかった。自然と鎌先の態度も、近づいてきた生徒達と似たようなものになる。
「……裏切り者、覚悟!」
「はぁ?!」
鎌先は、飛び掛かってきた生徒を反射的に避けたものの、避けた先にいた他の生徒に腕を強く捕まれてしまった。そのまま拘束されて、ずるずるとホームの端っこに連れていかれてしまう。
『裏切り者』その言葉が鎌先の脳内を何度も巡る。何か自分が裏切るようなことがあっただろうか。鎌先はいつでも自分に素直に生きていたから、裏切る、なんて行為には縁が薄いはずだった。
「なんだよ、何を裏切ったってんだ?!」
鎌先の言葉に、取り囲む伊達工生の目はまん丸になった。
「鎌先、お前あんだけ俺達を煽っておいて、ちゃっかりチョコもらってんじゃねーよ!」
「挙句かわいい彼女作ってんじゃねーよ!」
「……あ、あー……そういやそんなことやったな……」
時代を牽引するかの如く、壇上にあがって声高らかに演説をした先日の自分の姿が、鎌先の脳裏によみがえる。
あの時の鎌先はまさか自分がチョコを―それも本命のチョコを―もらえるとは思ってもいなかったから、勢いに任せて「バレンタインなんてくそくらえ」と声高に叫んでいた。それなのに、あっさりその言動を無かったことにしてしまっているのだから、鎌先の主張に同意して盛り上がった彼らからしたら面白くないのは当然のことだろう。
「悪ぃ、俺もまさかこうなるとは思ってなくてよ……」
拘束を解かれた鎌先がじりじりと後ずされば、生徒達は鎌先を追い詰める様ににじり寄ってくる。もう逃げ場はない。漢鎌先は、覚悟を決めた。
鎌先の幸せなバレンタインデーは、こうして幕を閉じたのであった……。
―end―
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