新年のご挨拶/西谷夕
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あ、この人見たことある。
夕の試合を見に行ったとき、一緒に試合に出ていた人だと思う。
ユニフォームを着ていないから感じが違うけれど、たぶん合ってる。
「あの、夕、来ていませんか?」
「ゆう? …もしかしてノヤっさん…西谷のことか?」
こくこくと頷くと、ニット帽の人の目が大きくなった。
「あっ、もしかして、美咲…ちゃん? ノヤさんの隣の家の」
「は、はい。そうです」
何で、私の名前を知っているんだろう。
夕が話したのかな。
「ノヤさんならさっき顔洗いに行ったとこだぜ」
「顔を洗いに……そっか…」
魔除けに乗じて、『潔子さん』除けにならないかな、なんて思って書いた『スキ』の文字。
きっと夕は気付いてない。
水と一緒に流れて消えちゃうような『魔除け』なんて効果薄いと思う。
自信なげに書いた『スキ』の文字は、夕の顔の中で自己主張控えめな小さな文字だったし。
新年早々、フラれるなんて縁起悪いし。
春高応援行きにくくなるし。
毎日、顔合わせづらくなるのも嫌だし。
たくさん理由を並べて、自分の勇気のなさを正当化する。
だってそうでもしないと、押しつぶされちゃいそうで。
「…な、なぁ。アレってさ、やっぱイタズラ?」
「アレ…?」
ニット帽のボンボンがピタッと止まって、またユラユラし始める。
聞きにくそうにしながらも、ニットの男子は興味を隠せないのか再度私に問いかけた。
「ノヤさんの顔に書いてただろ、『スキ』って」
「…っ!!」
えっ。
なんでこの人が知ってるんだろ。
あんなに小さく書いた、自信のない私の気持ちに気が付いちゃったんだろ。
まさか、まさか。
夕にまでバレてないよね。
「えっ、それ、夕は気付いて……?」
「あー…悪い。ノヤさん気付いてなかったけど、俺が教えた」
「……終わった……」
がくんと、膝から力が抜けてった。
へなへなとへたりこんでしまった私に、ニット帽の男子は慌てた様子だった。
「あっ、言っちゃマズかったのか?!」
悪い、本当にスマン! と何度も謝られたけれど、半分意識のとんだまま「気にしなくていいよ」と返す。
書いたのは私だし。
ニットの子が言わなくても、気が付いたかもしれないし。
「龍スマン待たせたな!」
「っ、ノヤさん」
「…美咲? お前なんでここに…」
後ろから夕の声がする。
でも振り返れない。