新年のご挨拶/西谷夕
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「さっきまで新年初勝負をしてたからな! 龍もやろうぜ!」
「おういいぜ。…けどよ、一回顔洗った方がいいんじゃねぇか? もう書くとこねぇじゃん」
「俺に墨塗る気でいるのか、龍」
「当たり前だろ」
龍め。甘いな。
俺はさっき美咲の技を習得してきたんだぜ。
テニス部仕込みのサーブで負かしてやる!
「ふっふっふ、俺には必殺技があるからな。悪いが一点も龍にはやらねぇぜ」
「スゲー自信満々じゃねぇか! じゃあ見せてみろよ、その必殺技とやらをよ!」
龍がいい感じに煽ってくれたから、俺も自然と気合いが入った。
美咲のサーブを頭の中で思い出しながら、高く羽根を投げ上げて、手首のスナップをきかせて打つ!
ぺちっ。
「……あれ」
「なははは! ノヤっさん、こけおどしかよ! はい罰ゲーム」
「しゃーねぇな」
ポケットの筆ペンを渡すと、龍はどこに書こうかニヤついた顔で俺を見ている。
「新年初勝負、ノヤさん負けたのか? こんな顔真っ黒にしてよ」
「いや引き分け。それより早く書け、龍! 今度こそ俺のサーブが火を噴くぜ!!」
「分かった分かった。っつってもほんとスペースが……。……おい、ノヤさん。ひとつ、聞いてもいいか」
途中から龍の声の雰囲気が変わった。
すごく真剣な顔をしていたから、何事かと思う。
「ノヤさん、新年初勝負した相手って、女子か……?」
「おう。隣の家のな。それがどうかしたか」
「……これ、ノヤさん気付いてねぇよな……」
こっちに質問しておきながら龍は一人でぶつぶつ何か言い始めた。
なんだよ、気になるじゃねぇか。
「あん? 何の話だ」
「……ええと…口で説明するより見てもらった方が早ぇわ」
「?」
話の見えない俺に、龍はスマホを取り出して何度か画面を触った後、スマホを俺の顔に向けてきた。
画面に表示されているのは、さっき龍が撮った墨だらけの俺の顔。
「これが何だってんだよ」
「よく見てみろよ」
「……?」
「こうしたら分かりやすいか?」
言って龍の指がスマホの画面に触れ、写真が大きくなった。
俺の右頬あたりが大きく表示され、じっと見ると、小さく『スキ』と書かれていた。
俺の顔に墨を入れたのは、ただ一人。
美咲しかいない。
あいつが、俺のことを、『スキ』?