このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ハリポタ(腐



自分の意志と関係なく、気づけばトライウィザードコンテストに出ることになっていた。
ただでさえ18歳以下は出場できないという特例ルールで鬱憤が溜まっていたろうに、僕はそこに体良く差し出された生贄になってしまった。おかげでこの頃毎日、全校生徒から非難の目で見られるようになった。
廊下を歩くだけで神経を酷使する。もともと交友は狭いほうだったが、さらに孤独を深めた気分だ。

日課の読書も、すっかり敏感になってささくれだった僕の心を慰める行為に成り果てた。
僕は純粋な心で本を読み、ものを感じたいのに。

小さなズレは少しずつ、悪質細胞のようにいろいろなところに転移し影響を及ぼした。
うずたかく積まれた本の塔のようにもろく、それでも安定していた生活のリズムが崩れていくのがわかった。

ロンは手のひらを返すように僕に冷たい目を向けるようになって(でもロンのことだから事態が収束したらしれっと元の鞘に収まると思う)、ハーマイオニーだけは僕を心配してそばに居てくれた。

そんなとき、唐突にロンに呼び出されたかと思えば、しかもなかなか口を開かず、同行させていたハーマイオニーに言伝をしてやっと、僕にコンテストの初めの競技はドラゴンを使うということを教えてくれた。
普段ならやり過ごせるロンのめんどくささが、なんだか無性に今の僕をいらいらさせた。

でもその小さな情報で、コンテストに対する漠然とした不安はたしかに和らいだし、(僕はコンテストなんて適当にやり過ごせばいいと思っていたのだけれど、結局たくさんの人に迷惑をかけることになってしまったし、なんだか真剣にやらないといけない雰囲気になってしまったので、そこそこの結果を出さなければと気負っていた)ロンはやっぱり心のどこかで僕のことを思ってくれていることがわかったので、よかったと思う。

不安。。
不安といえば、不安に思っているのは僕だけではないことに気づいた。
自分のことで頭がいっぱいですっかり抜け落ちていたが、ホグワーツのもう1人の、正規の代表がいた。
選手決めの夜、多くの人に慕われ応援されながら席を立った彼、セドリックを思い浮かべる。
僕は遠くから彼の顔を見て、少し前にクィディッチのワールドカップを見に行ったときに、姿くらましでよろけた僕に親切に手を差し伸べてくれた青年と同じ人物であることに驚いた。
あのとき僕は彼のことをロンの父親の友人の息子が何かかなくらいとしか思っていなくて、でも何となく僕とは正反対の、陽の光の中を歩いている人種で、加えてとても聡明そうだと思っていた。

その彼も同じホグワーツ代表なのだから、仲間といっていいはずだ。
彼ならもしかするととっくに情報を知っているかもしれないけれど。。
僕が彼に情報を教える理由は十分ある。

どこか言い訳がましくなってしまうのは、それが純粋な好意だけではないとわかっているからだ。
僕は彼のすっとした眉と、僕より一回り大きいしっかりした体躯と、寛容そうな唇を思い浮かべていた。
僕はとにかく、心の救いを求めていた。
ぎゅっと目を閉じ、借りてきたばかりの本を抱き締めた。


どうして僕はあんな馬鹿げたことを考えたのだろう。
中庭にいるセドリックの元にいくには、その取り巻きたちの冷たい視線を避けられない。
それにセドリックも迷惑に違いない。ほとんど話したことの無い彼は僕のことをどう思っているんだろう。

つぎつぎとマイナスの考えが浮かんでは僕の心を侵食していく。
でもここまで来たら仕方ない。僕はなるべく周りを見ないようにしてセドリックに近づいた。

心底驚いた顔の彼を見て、僕は声を出す気力さえ搾り取られるような気がした。
口を開こうとすると、彼は慣れた仕草で僕の肩に手を置き取り巻きから離れたところへエスコートした。

「あ、あの、ごめん。最初の種目、ドラゴンを使うみたい。ハグリッドに見せてもらったから、ほんとだと思う」

がんばろうねとぞんざいに付け足して終わりにしようと思ったところを、セドリックが腕を軽くつかんでひきとめた。

そこで初めてちゃんと彼の目を見た。案に相違して彼の目はまっすぐに僕に注がれていて、まるで噂でも微かな記憶の中の僕でもない、本当の僕を探ろうとしているかのようで、僕は涙が零れそうになった。

「それ ほんと?ありがと」

彼はまだ何か言いたげな表情をしていて、僕はどうしたらいいかわからず彼を見つめ返した。

「お互い、がんばろうな」

心の底から絞り出したように彼はそう言った。控えめに向けられた手のひらに、こわごわといった感じで僕はハイタッチした。

まだ何か言いたげな顔をしていたけど、間に耐えられなくなって僕は軽く手を振ってその場を後にした。

1/1ページ
    スキ