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砂糖菓子みたいな

すずしいね。
何を言えばいいのかわからなくなって、そう口にした。
思えば彼がどんな性格で、どんなことに興味があるのか、読書感想文を見た以外知らないからどんなことを話せばいいのかわからない。

そうだねと言って彼は前を向いた。
答えを急いだり、話しかけられたことに戸惑ったり、怪訝に思われたりしなかったことにほっとした。
初めて、ただ眺めるだけで交わらなかった糸が結ばれた気がした。

歩道橋を渡りながら本の話をした。本が好きなのかと聞いたら、今借りてる本を貸してくれた。
歩道橋のはしっこで、わざわざランドセルを下ろして本を出してくれた。
僕は傍に膝をついて、いつもゆっくり動く彼がちょっと焦った手つきで取り出すのを見ていた。

誰かが読んで思いを馳せた本を、手に取ることがなんだか不思議だった。
僕は分厚くてところどころ透明のフィルムがはげているその本を、ぎゅっと抱き締めた。

僕と彼はまるでそうである運命だったかのように、心がすぐに寄り添いあった。
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