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SSS

「ねえ、影二。好きって言ってよ。だってさ、同僚たちが……言うんだよ。みんな。わたしの片想いだって。そんなことないよねえ?」
「どうであろうな」
 酒気をおびて見上げてくる、とろんとした、あるいはどこか情けないような瞳を一瞥してから、影二はふいとそっぽを向いた。前後不覚になるまで飲んだ挙げ句、ビリーに抱えられて帰ってきたユナに文句のひとつでも言ってやりたい気持ちも少なからずある――とはいえ、舌先に生まれた言葉は声には出さず喉の奥に戻した。ひとつでも口にしてしまえば際限なく女々しい恨み言を言ってしまいそうな気がしたからだ。
「いずれにしろ強いられて言うつもりはない」
 代わりにぴしゃりと言って、 不機嫌に口を噤む。と、
「そっかあ」
 落胆した彼女の声が聞こえてきた。なにを勝手に納得したのかと問い返す暇もなく、ソファに体を投げ出している。
「わたしは、大好きなんだけどなあ」
「ユナ――」
「強いられてって言うけどさ。強いなきゃ言ってくれないじゃん」
 眠りに落ちる直前に放られた呟きを苦い心地で噛みながら、影二はそっと嘆息した。


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