漆黒の人魚姫
名前変換
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苗字名前の心的外傷 は、彼女の生まれた環境に起因する。
もしも、一般社会と隔絶された世界で生まれていたら、名前を制御 できる者が傍にいたら、名前はその事象を“心的外傷 ”とは認識しなかっただろう。
しかし、名前が生まれた先は、ごく平凡な一般家庭だった。
世間並みな感覚を持ち合わせた両親と、彼女より四年早く生まれた兄がいる家族だった。
彼らは最後まで、名前の完璧な美貌と才覚を自分達の血統とは受け入れられず、名前の神仏と見紛うほどの風格を人間扱いできなかった。
名前のことを息子と同じ存在とは到底認められなかった両親は、程なくして彼女を虐待するようになった。
ただし、虐待そのものは名前にとっては些事だった――異物であることは自認していたし、虐待が両親の精神バランスを保つための行為であると理解していたので、何を言われても何をされても平然と過ごしていた。
一方で、どんな暴言も暴力も歯牙にもかけない高尚さが、逆に両親を追い詰め虐待を苛烈にさせていたことは察知できなかったため、悪循環は誰にも止められなかった。
そんな歪な日々に終止符を打ったのは、名前の兄だった。
物心ついた時から名前との共存を余儀なくされ、両親の実妹への虐待を間近で目撃し続け、その反動のように両親から病的な溺愛を享受した結果、彼が最初に壊れたのだ。
「―――」
ある日、兄が名前に放った一言が、名前を打ちのめした。
この時に自身は異物ではなく異常なのだとようやく理解したのである。
兄の崩壊を悟った直後に出奔したので、その後の家族がどうなったかは名前の知るところではない。
ただ、唯一明らかなのは、名前が兄に償う機会は永久に訪れないという現実である。
それが思いのほか罪悪感となってのし掛かっていたことを、名前は最近になって自覚した。
――君、一人なの? 大丈夫? 行く処がないのなら……――
孤独に生きていくと決めた矢先に中島敦に手を差し伸べられた時から、名前はある決意をした。
偶然にも、敦は兄と同じ年齢だった。
もしも、一般社会と隔絶された世界で生まれていたら、名前を
しかし、名前が生まれた先は、ごく平凡な一般家庭だった。
世間並みな感覚を持ち合わせた両親と、彼女より四年早く生まれた兄がいる家族だった。
彼らは最後まで、名前の完璧な美貌と才覚を自分達の血統とは受け入れられず、名前の神仏と見紛うほどの風格を人間扱いできなかった。
名前のことを息子と同じ存在とは到底認められなかった両親は、程なくして彼女を虐待するようになった。
ただし、虐待そのものは名前にとっては些事だった――異物であることは自認していたし、虐待が両親の精神バランスを保つための行為であると理解していたので、何を言われても何をされても平然と過ごしていた。
一方で、どんな暴言も暴力も歯牙にもかけない高尚さが、逆に両親を追い詰め虐待を苛烈にさせていたことは察知できなかったため、悪循環は誰にも止められなかった。
そんな歪な日々に終止符を打ったのは、名前の兄だった。
物心ついた時から名前との共存を余儀なくされ、両親の実妹への虐待を間近で目撃し続け、その反動のように両親から病的な溺愛を享受した結果、彼が最初に壊れたのだ。
「―――」
ある日、兄が名前に放った一言が、名前を打ちのめした。
この時に自身は異物ではなく異常なのだとようやく理解したのである。
兄の崩壊を悟った直後に出奔したので、その後の家族がどうなったかは名前の知るところではない。
ただ、唯一明らかなのは、名前が兄に償う機会は永久に訪れないという現実である。
それが思いのほか罪悪感となってのし掛かっていたことを、名前は最近になって自覚した。
――君、一人なの? 大丈夫? 行く処がないのなら……――
孤独に生きていくと決めた矢先に中島敦に手を差し伸べられた時から、名前はある決意をした。
偶然にも、敦は兄と同じ年齢だった。
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