Where are you?
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
図らずも私の来歴を振り返る機会が与えられたので、ベッドの上で大人しく椿の思い出話を聞きながら、脳内で当時を追憶してみようと思う。
ちなみに、途中でやって来た白スーツの下位吸血鬼が、テーブルと共に過去の日記すべてを運んできたのだった――しかも椿にはお茶を用意されたので、すべて読み終わるまで椿は出ていかない気かもしれない。
さて、既に椿自身が明かした通り、私が赤ん坊の頃に実の両親を椿に殺されている。
夫婦揃って魔術師だった彼らは、C3の戦闘員として当時前線で大活躍だったらしい。
だからこそ吸血鬼にとって非常に邪魔な存在として認識され、自宅を襲撃され殺害されたのだと長らく聞かされていたのだが、椿によると、彼の下位吸血鬼を殺した報復のつもりだったらしい。
もしかすると、私に伝えなかっただけでC3もその可能性に配慮していたのかもしれない――戦闘員になって数年経つのに、“憂鬱”だけ一度も戦ったことがないのはやはり不自然だ。
閑話休題、生後一か月で路頭に迷う羽目になった私を引き取ってくれたのが、かの有栖院家である。
聞くところによると、有栖院家と実母の生家は代々親交があった上、実父と養父は友人だったらしい。
実はC3が家系目的で私を保護する案もあったそうだが、結局定期的にC3の魔術師による魔術指導や戦闘訓練を受けるという条件で折り合いをつけたようだ。
「有栖院家の庇護下に入ったから、その後君に手出ししにくくなっちゃったんだよね。君の両親を始末した時に君を攫っておけば、もっとスムーズに事が進んだんじゃないかって今でも考えるよ」
それを聞くと、有栖院家への感謝が一層計り知れないものになった。
あの家にいた頃の思い出は、幸せなものしか存在しない。
六歳年上の御国は突然できた妹をとても可愛がってくれたし、数年後にやってきた弟も懐いてくれた。
義父母はそんな兄弟と私を分け隔てなく大事にしてくれた。
家の使用人達に慈しまれ、幼い吸血鬼達と毎日のように遊んでいた。
――御伽噺のように嘘みたいな、幸福な家だった。
事情を知った今でもさすがにすべて嘘だったとは言わないが、色欲と嫉妬を覆い隠した結果、虚飾と幻覚が混じった日々だったと評せざるを得ない。
まさに箱庭だった。
それでも育ての親を心から愛しているのは事実だ――椿に当てこすりを言われて否定できない程度には、赤ん坊の頃に死別した実の両親よりも大切に想っている。
血の繋がりもない義父とお父さんと呼び、血の繋がりもない義母をお母さんと呼び、血の繋がりもない義兄をお兄ちゃんと呼び、血の繋がりもない義弟を実弟のように愛している。
ただし、そんな顔も知らない肉親だが、その存在を常に身近に感じていたのだった――とは言え、この話はもう少し先にしよう。
幸せだった故に特筆する事件もなかったので、椿と出会ったという七歳まで一気に遡ることにする。
今回の発端とも言える“パーティ”についてだが、生憎と私の記憶に全く残っていないので、椿の供述を全面的に参考にしなければならない。
ただし、記憶には残っていなくても、記録には残っていた――しかし、当時を書き留めた唯一の資料である私の日記には、以下のような駄文しか記されていなかった。
『今日はお父さんの知り合いのパーティに行きました。御園が熱を出して寝込んでしまったので、お父さんとお兄ちゃんと三人で行きました。お母さんが買ってくれた新しいドレスを着ました。「名前は何を着ても可愛いね」とお兄ちゃんが褒めてくれました。今度は御園も一緒に行けたらいいです。』
こんな具合に、肝心のパーティの様子が微塵も描写されていなかったのだ。
椿が「ほらこれ! この日に会ったんだよ!」と興奮しながらページを見せてくれたが、これでは誰のどんなパーティだったかすら思い出せない。
「この時のパーティは、ほんの暇潰しのつもりで参加したんだよ。そしたら君に出会って、一目で気に入ったんだ。前に殺した魔術師の娘だと分かったのはその後だけど、知った時は運命だと思ったよ。絶対僕のお嫁さんにしようって決めたんだ」
七歳の私に、一目で結婚設計を抱かせるほどの魅力があったのかは疑わしい。
当時の御国曰く『何を着ても可愛い』らしいが、身内の贔屓目ほど当てにならないものはない。
吸血鬼だから嗜好も思考も特殊なのだろう。
このように、彼曰く運命的な出会いを果たしたことで、将来私を手元に置くことを心に決め、以降ストーキングを始めたという。
ストーキング――ぞっとする単語だが、聞けば聞くほどそう表現するしかない行動だった。
彼が申告したように、邂逅した日から今日までずっと、私の動向を観察していたらしい――それも敵側の調査目的ではなく、純粋な恋心からの行為だと、椿は自慢げに語った。
彼の並々ならぬ執着心と根気も恐ろしいが、十年近く気づかずにいた自分の無知はもっと恐ろしい。
ちなみに、観察だけに飽き足らず、私の誕生日に差出人を偽装してプレゼントを贈ったことがあるらしく、その内容を聞いたら今も手元に残っている物があったので、無事に帰れたら処分しようと思う。
とは言っても、当時は椿の不穏な影がつきまとっていることなど露知らず、本当に幸せな日々だったのだ。
義母 が死んで、御国が家を出るまでは。
ちなみに、途中でやって来た白スーツの下位吸血鬼が、テーブルと共に過去の日記すべてを運んできたのだった――しかも椿にはお茶を用意されたので、すべて読み終わるまで椿は出ていかない気かもしれない。
さて、既に椿自身が明かした通り、私が赤ん坊の頃に実の両親を椿に殺されている。
夫婦揃って魔術師だった彼らは、C3の戦闘員として当時前線で大活躍だったらしい。
だからこそ吸血鬼にとって非常に邪魔な存在として認識され、自宅を襲撃され殺害されたのだと長らく聞かされていたのだが、椿によると、彼の下位吸血鬼を殺した報復のつもりだったらしい。
もしかすると、私に伝えなかっただけでC3もその可能性に配慮していたのかもしれない――戦闘員になって数年経つのに、“憂鬱”だけ一度も戦ったことがないのはやはり不自然だ。
閑話休題、生後一か月で路頭に迷う羽目になった私を引き取ってくれたのが、かの有栖院家である。
聞くところによると、有栖院家と実母の生家は代々親交があった上、実父と養父は友人だったらしい。
実はC3が家系目的で私を保護する案もあったそうだが、結局定期的にC3の魔術師による魔術指導や戦闘訓練を受けるという条件で折り合いをつけたようだ。
「有栖院家の庇護下に入ったから、その後君に手出ししにくくなっちゃったんだよね。君の両親を始末した時に君を攫っておけば、もっとスムーズに事が進んだんじゃないかって今でも考えるよ」
それを聞くと、有栖院家への感謝が一層計り知れないものになった。
あの家にいた頃の思い出は、幸せなものしか存在しない。
六歳年上の御国は突然できた妹をとても可愛がってくれたし、数年後にやってきた弟も懐いてくれた。
義父母はそんな兄弟と私を分け隔てなく大事にしてくれた。
家の使用人達に慈しまれ、幼い吸血鬼達と毎日のように遊んでいた。
――御伽噺のように嘘みたいな、幸福な家だった。
事情を知った今でもさすがにすべて嘘だったとは言わないが、色欲と嫉妬を覆い隠した結果、虚飾と幻覚が混じった日々だったと評せざるを得ない。
まさに箱庭だった。
それでも育ての親を心から愛しているのは事実だ――椿に当てこすりを言われて否定できない程度には、赤ん坊の頃に死別した実の両親よりも大切に想っている。
血の繋がりもない義父とお父さんと呼び、血の繋がりもない義母をお母さんと呼び、血の繋がりもない義兄をお兄ちゃんと呼び、血の繋がりもない義弟を実弟のように愛している。
ただし、そんな顔も知らない肉親だが、その存在を常に身近に感じていたのだった――とは言え、この話はもう少し先にしよう。
幸せだった故に特筆する事件もなかったので、椿と出会ったという七歳まで一気に遡ることにする。
今回の発端とも言える“パーティ”についてだが、生憎と私の記憶に全く残っていないので、椿の供述を全面的に参考にしなければならない。
ただし、記憶には残っていなくても、記録には残っていた――しかし、当時を書き留めた唯一の資料である私の日記には、以下のような駄文しか記されていなかった。
『今日はお父さんの知り合いのパーティに行きました。御園が熱を出して寝込んでしまったので、お父さんとお兄ちゃんと三人で行きました。お母さんが買ってくれた新しいドレスを着ました。「名前は何を着ても可愛いね」とお兄ちゃんが褒めてくれました。今度は御園も一緒に行けたらいいです。』
こんな具合に、肝心のパーティの様子が微塵も描写されていなかったのだ。
椿が「ほらこれ! この日に会ったんだよ!」と興奮しながらページを見せてくれたが、これでは誰のどんなパーティだったかすら思い出せない。
「この時のパーティは、ほんの暇潰しのつもりで参加したんだよ。そしたら君に出会って、一目で気に入ったんだ。前に殺した魔術師の娘だと分かったのはその後だけど、知った時は運命だと思ったよ。絶対僕のお嫁さんにしようって決めたんだ」
七歳の私に、一目で結婚設計を抱かせるほどの魅力があったのかは疑わしい。
当時の御国曰く『何を着ても可愛い』らしいが、身内の贔屓目ほど当てにならないものはない。
吸血鬼だから嗜好も思考も特殊なのだろう。
このように、彼曰く運命的な出会いを果たしたことで、将来私を手元に置くことを心に決め、以降ストーキングを始めたという。
ストーキング――ぞっとする単語だが、聞けば聞くほどそう表現するしかない行動だった。
彼が申告したように、邂逅した日から今日までずっと、私の動向を観察していたらしい――それも敵側の調査目的ではなく、純粋な恋心からの行為だと、椿は自慢げに語った。
彼の並々ならぬ執着心と根気も恐ろしいが、十年近く気づかずにいた自分の無知はもっと恐ろしい。
ちなみに、観察だけに飽き足らず、私の誕生日に差出人を偽装してプレゼントを贈ったことがあるらしく、その内容を聞いたら今も手元に残っている物があったので、無事に帰れたら処分しようと思う。
とは言っても、当時は椿の不穏な影がつきまとっていることなど露知らず、本当に幸せな日々だったのだ。