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あれは私が高校に入学して間もない頃だった。
学校とC3の両立に慣れてきて、家族から離れた生活に染まってきて、私の中の“吸血鬼”が仇敵になり始めた頃だった。
椿の言う通り、この時に私の運命が変わっていなければ、今も椿のことを憎み続けていただろう。
――運命が変わったきっかけは、下校中に拾った一つの指輪だった。
それは、派手な宝石はないものの精緻な装飾が施されており、手にしただけで高級かつ伝統のある品だと分かった。
そんなものが人気のない裏道に転がっていることに一抹の疑問は過ぎったが、落とし物を交番に届けるべく来た道を引き返そうとしたところで、違和感に気づいた。
右手で握りしめていたはずの指輪が、いつの間にか私の中指にぴったりと嵌まっていたのだ。
瞬時に思い至ったのは、これが吸血鬼の罠という可能性だった――すぐに指輪を引き抜こうとしたが、その前に更なる異変が起こった。
突如、指輪から虹色に揺らめく炎が噴出したのだ。
炎といっても不思議と熱くはなく、むしろ落ち着きをもたらすような温かさがあった。
しかし、正体不明の炎が私の全身を包み込むほどの勢いで燃え上がっていく様は、それを上回る視覚的な恐怖があった。
パニックになりながらも鞄から魔法道具を取り出し臨戦態勢を整えたところで、炎の勢いが収まった。
頭から、足先から、指輪に吸収されるように炎が消えていった。
炎で覆われていた視界もすぐに開けたので、本来であればすぐに状況把握を行い吸血鬼の攻撃に備えて魔法を展開すべきだったのだが、実際には指輪の炎が完全に消失した後も馬鹿みたいに立ち尽くしていた。
C3で教え込まれたルーチンを忘れさせるほどの衝撃が、眼前に広がっていたからだ。
「――えっ?」
私の声は、高所特有の強風にさらわれた。
そう、高所だった。
炎に包まれる前は間違いなく通学路にいたはずなのに、そこは何処かの建物の屋上だった。
見覚えのない建物で、さらに周囲の景色も心当たりのない町並みだったが、当時はまだその絶望に気づかなかった。
私の視線はある一点から動かせなかった――貯水槽の傍に一人の男の子が横たわっていたのだ。
彼は上半身を悠然と起こしながら、鋭い口調で私に向けて言った。
「何してるの? 部外者は立ち入り禁止だよ」
切れ長な瞳が特徴的な端正な顔立ち。
黒い学ランに『風紀』と書かれた腕章がついている。
存在感のある佇まいだが、吸血鬼ではなく人間であると直感した。
「ごめんなさい。私、気づいたらここにいて……――」
なんと説明しようか整理がつかないまま口を開いたが、途中で彼の視線が私の手元に固定されているのに気がついた。
そして、自分の姿を改めて確認したことで、ようやく状況を把握した。
私の手には、魔法道具である三叉槍が握られていたのだ。
部外者どころか武器を所持する不審者と認定されて然るべきである。
なんの申し開きもできず通報されてもおかしくないような事態だったが、せめて武器を放棄して危険思想がないことを伝えようと思い、顔を上げた。
しかし、少年がいたはずの場所には、誰もいなかった。
思考よりも先に身体が動いた。
三叉槍を振りかざした直後、ガキンッという鋭い金属音とともにトンファーが柄にぶつかった。
「ワオ、凄いね」
シチュエーションに似合わない弾んだ声だった。
一拍遅れて、涼しい顔でトンファーを振るった男から発せられたと把握した。
互いの武器を挟んで近距離で見合ったことで、男の顔をはっきりと目撃した。
彼は口元に笑みを湛えていて、その表情は不審者に対する恐怖や敵意とは対極の感情を表していた。
しかも、息つく暇もないほど強烈な連撃を捌けば捌くほど、彼の喜色が深くなっていくのを肌で感じた。
訓練なら人間相手とも戦った経験はあったが、戦いそのものを楽しむ人と対峙したのはこれが初めてだった。
戦いとは、苦痛と哀惜をもたらすものだと思っていた――少なくともC3の人達にとってはそのはずだった。
雲雀恭弥に出会っていなければ、私の運命 は変わらないままだっただろう。
学校とC3の両立に慣れてきて、家族から離れた生活に染まってきて、私の中の“吸血鬼”が仇敵になり始めた頃だった。
椿の言う通り、この時に私の運命が変わっていなければ、今も椿のことを憎み続けていただろう。
――運命が変わったきっかけは、下校中に拾った一つの指輪だった。
それは、派手な宝石はないものの精緻な装飾が施されており、手にしただけで高級かつ伝統のある品だと分かった。
そんなものが人気のない裏道に転がっていることに一抹の疑問は過ぎったが、落とし物を交番に届けるべく来た道を引き返そうとしたところで、違和感に気づいた。
右手で握りしめていたはずの指輪が、いつの間にか私の中指にぴったりと嵌まっていたのだ。
瞬時に思い至ったのは、これが吸血鬼の罠という可能性だった――すぐに指輪を引き抜こうとしたが、その前に更なる異変が起こった。
突如、指輪から虹色に揺らめく炎が噴出したのだ。
炎といっても不思議と熱くはなく、むしろ落ち着きをもたらすような温かさがあった。
しかし、正体不明の炎が私の全身を包み込むほどの勢いで燃え上がっていく様は、それを上回る視覚的な恐怖があった。
パニックになりながらも鞄から魔法道具を取り出し臨戦態勢を整えたところで、炎の勢いが収まった。
頭から、足先から、指輪に吸収されるように炎が消えていった。
炎で覆われていた視界もすぐに開けたので、本来であればすぐに状況把握を行い吸血鬼の攻撃に備えて魔法を展開すべきだったのだが、実際には指輪の炎が完全に消失した後も馬鹿みたいに立ち尽くしていた。
C3で教え込まれたルーチンを忘れさせるほどの衝撃が、眼前に広がっていたからだ。
「――えっ?」
私の声は、高所特有の強風にさらわれた。
そう、高所だった。
炎に包まれる前は間違いなく通学路にいたはずなのに、そこは何処かの建物の屋上だった。
見覚えのない建物で、さらに周囲の景色も心当たりのない町並みだったが、当時はまだその絶望に気づかなかった。
私の視線はある一点から動かせなかった――貯水槽の傍に一人の男の子が横たわっていたのだ。
彼は上半身を悠然と起こしながら、鋭い口調で私に向けて言った。
「何してるの? 部外者は立ち入り禁止だよ」
切れ長な瞳が特徴的な端正な顔立ち。
黒い学ランに『風紀』と書かれた腕章がついている。
存在感のある佇まいだが、吸血鬼ではなく人間であると直感した。
「ごめんなさい。私、気づいたらここにいて……――」
なんと説明しようか整理がつかないまま口を開いたが、途中で彼の視線が私の手元に固定されているのに気がついた。
そして、自分の姿を改めて確認したことで、ようやく状況を把握した。
私の手には、魔法道具である三叉槍が握られていたのだ。
部外者どころか武器を所持する不審者と認定されて然るべきである。
なんの申し開きもできず通報されてもおかしくないような事態だったが、せめて武器を放棄して危険思想がないことを伝えようと思い、顔を上げた。
しかし、少年がいたはずの場所には、誰もいなかった。
思考よりも先に身体が動いた。
三叉槍を振りかざした直後、ガキンッという鋭い金属音とともにトンファーが柄にぶつかった。
「ワオ、凄いね」
シチュエーションに似合わない弾んだ声だった。
一拍遅れて、涼しい顔でトンファーを振るった男から発せられたと把握した。
互いの武器を挟んで近距離で見合ったことで、男の顔をはっきりと目撃した。
彼は口元に笑みを湛えていて、その表情は不審者に対する恐怖や敵意とは対極の感情を表していた。
しかも、息つく暇もないほど強烈な連撃を捌けば捌くほど、彼の喜色が深くなっていくのを肌で感じた。
訓練なら人間相手とも戦った経験はあったが、戦いそのものを楽しむ人と対峙したのはこれが初めてだった。
戦いとは、苦痛と哀惜をもたらすものだと思っていた――少なくともC3の人達にとってはそのはずだった。
雲雀恭弥に出会っていなければ、私の
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