序章
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
さて、本題に入る前に、少し私の半生に触れておこう。
というのも、今後私の過去を話す機会はほとんどないだろうし、たとえあったとしても、それは随分先になるだろうからだ。
恐らく誰も興味はないだろうが、一応この物語の登場人物の端くれとして、自己紹介くらいはしておかなければならない。
私が何処の誰で、何者であるか、ここで明示しておく必要があるだろう。
要点だけを簡潔にまとめるよう心掛けるので、飽きずに最後まで聞いて欲しい。
私は前世で愛読していた漫画“黒子のバスケ”の世界に転生(あるいはトリップと言うべきか)した。
まとめてしまうと、要点はこの一点に尽きる。
こうすると至ってシンプルに思えるが、実際に状況を分析しようとすると、これほど複雑な事例はない。
輪廻転生の考え方に基づけば、私はこれまでに何度も生死を繰り返しているということになるが、何故今回に限り前世の記憶を持ったまま転生したのか、そして何故転生先が漫画の世界なのかは分からない。
分からない。
分からないまま、訳が分からないまま、今日まで生きている。
訳も分からず生きるという点は、前世でも割と似通ったところがあったのだが、転生して暫くは自分が陥っている状況を受け入れることができなかった。
そりゃそうだろうと共感してくれると話が進めやすい。
もっとも、共感するような境遇にいる人が存在するかはともかくとして。
具体的には、自分は何のために生まれてきたのだろうとか、そんなことをずっと悩んでいた。
そんな思春期特有の悩みは、やはり時間が解決してくれたが――具体的には、小学二年生の時に解決したが、当時は相当苦悩したものだ。
前世を含め何十年も生きてきた私が思春期など今更にも程があるが。
どれだけ成長していないんだ、と思う。
とは言え、転生し、私にとっては二度目の家族や周囲の環境に戸惑った時期は確かにあった。
前世と現世の違いというかずれのようなものに、気持ち悪いと感じていた時期もあったのだ。
私にとっては赤の他人を新しく“家族”としなければならなかったので、そういった感情を少なからず抱いてしまったことは大目に見てほしい。
しかし、あくまで彼ら自身はあまり特筆するようなプロフィールはない、有り体に言えば普通の両親なので、ここでは割愛させて頂く。
いずれ話すかもしれない時にとっておいて、私のプロフィールの話に戻ろう。
小学校は普通に地元の学校に通ったが、ある時期に家庭の都合で一度転校し、卒業までその学校で過ごした。
家庭の都合、と言ったが、それは親の転勤とか引っ越しとかそういうものではなく、まあそれなりに複雑な事情があったのだが、ここで私が言いたいのは、転校先は前の学校からそう遠い場所ではなかったということだ。
地区は違ったが、距離的にそう離れてはいなかった。
わざわざそんな話を折り込んだのは、これが後の伏線になっているからに他ならないので、少し頭に入れておいてほしい。
そして、小学校を無事に卒業し、私は帝光中学校に入学した。
小学校は親の意向に従ったが、中学だけは自分から志願し、半ば親の反対を押し切る形で入学したのだった。
その理由については、今更語る必要もないだろう。
“黒子のバスケ”愛読者にとって、帝光中学校は間違いなく憧れの学校としてトップクラスに属するだろう。
私も例外なく、憧れて入学したのだった。
この頃には、この世界に憧れるだけの心の余裕ができていた。
もっと言えば、この世界を楽しむだけのゆとりがあったのだ。
楽しんだ結果、世界はとんでもないことになってしまったのだが。
もったいぶらずに結論を述べると、この世界は、私が知っている“黒子のバスケ”のストーリーとはかけ離れてしまったのだ。
私というイレギュラーが介入し、好き勝手振る舞った結果、特に“キセキの世代”の彼らの未来を大きく変化させてしまった。
いや、『変化させてしまった』という表現はここでは相応しくないだろう。
これでは、まるで私にその気が全くなく、ただの不注意で、不可避の事態を生じさせてしまったかのような言い草だ。
申し訳ない、訂正しよう。
私が、意図的に彼らの運命を捻じ曲げたのだ。
あるべきはずの未来を、人生を、私が身勝手な都合で変化させたのだ。
私は後に世間から、というより世界から“帝光中の英雄”と呼ばれることになる。
崇められ、讃えられ、敬われ――受け入れられることになる。
それは私の献身であり、功績であり、精神であり、その他何やらを評し、あるいは表した異名なのだが、前世の原作の愛読者からすれば、私の行為は“暴君”の一言に尽きるだろう。
勝手に話を作り替えた異端者 にすぎない。
当初、中学時代のエピソードを述べる場は先送りし、高校時代――私が誠凛高校に通い、黒子テツヤやその仲間達と共に楽しく高校生活を送る話を進めるつもりでいたが、やはりそれは不誠実だと判断したのだ。
私には、何よりもまず優先して、あの時期について最低限状況説明をする義務があると思っている。
言い訳がましく聞こえるかもしれないが、それで私の犯した罪が消えるわけでも軽くなるわけでもないことは重々承知だ。
これはただの昔語りにすぎないということを踏まえて、長らくお待たせしたが、帝光中時代の話をしよう。
ここまで付き合ってくれてありがとう。
それでは、まだ彼らが天才と呼ばれる前、まだ私が英雄と呼ばれる前、そして、まだかろうじて世界が歪む前の話を始めよう。
はじまりはじまり。
(序章 了)
というのも、今後私の過去を話す機会はほとんどないだろうし、たとえあったとしても、それは随分先になるだろうからだ。
恐らく誰も興味はないだろうが、一応この物語の登場人物の端くれとして、自己紹介くらいはしておかなければならない。
私が何処の誰で、何者であるか、ここで明示しておく必要があるだろう。
要点だけを簡潔にまとめるよう心掛けるので、飽きずに最後まで聞いて欲しい。
私は前世で愛読していた漫画“黒子のバスケ”の世界に転生(あるいはトリップと言うべきか)した。
まとめてしまうと、要点はこの一点に尽きる。
こうすると至ってシンプルに思えるが、実際に状況を分析しようとすると、これほど複雑な事例はない。
輪廻転生の考え方に基づけば、私はこれまでに何度も生死を繰り返しているということになるが、何故今回に限り前世の記憶を持ったまま転生したのか、そして何故転生先が漫画の世界なのかは分からない。
分からない。
分からないまま、訳が分からないまま、今日まで生きている。
訳も分からず生きるという点は、前世でも割と似通ったところがあったのだが、転生して暫くは自分が陥っている状況を受け入れることができなかった。
そりゃそうだろうと共感してくれると話が進めやすい。
もっとも、共感するような境遇にいる人が存在するかはともかくとして。
具体的には、自分は何のために生まれてきたのだろうとか、そんなことをずっと悩んでいた。
そんな思春期特有の悩みは、やはり時間が解決してくれたが――具体的には、小学二年生の時に解決したが、当時は相当苦悩したものだ。
前世を含め何十年も生きてきた私が思春期など今更にも程があるが。
どれだけ成長していないんだ、と思う。
とは言え、転生し、私にとっては二度目の家族や周囲の環境に戸惑った時期は確かにあった。
前世と現世の違いというかずれのようなものに、気持ち悪いと感じていた時期もあったのだ。
私にとっては赤の他人を新しく“家族”としなければならなかったので、そういった感情を少なからず抱いてしまったことは大目に見てほしい。
しかし、あくまで彼ら自身はあまり特筆するようなプロフィールはない、有り体に言えば普通の両親なので、ここでは割愛させて頂く。
いずれ話すかもしれない時にとっておいて、私のプロフィールの話に戻ろう。
小学校は普通に地元の学校に通ったが、ある時期に家庭の都合で一度転校し、卒業までその学校で過ごした。
家庭の都合、と言ったが、それは親の転勤とか引っ越しとかそういうものではなく、まあそれなりに複雑な事情があったのだが、ここで私が言いたいのは、転校先は前の学校からそう遠い場所ではなかったということだ。
地区は違ったが、距離的にそう離れてはいなかった。
わざわざそんな話を折り込んだのは、これが後の伏線になっているからに他ならないので、少し頭に入れておいてほしい。
そして、小学校を無事に卒業し、私は帝光中学校に入学した。
小学校は親の意向に従ったが、中学だけは自分から志願し、半ば親の反対を押し切る形で入学したのだった。
その理由については、今更語る必要もないだろう。
“黒子のバスケ”愛読者にとって、帝光中学校は間違いなく憧れの学校としてトップクラスに属するだろう。
私も例外なく、憧れて入学したのだった。
この頃には、この世界に憧れるだけの心の余裕ができていた。
もっと言えば、この世界を楽しむだけのゆとりがあったのだ。
楽しんだ結果、世界はとんでもないことになってしまったのだが。
もったいぶらずに結論を述べると、この世界は、私が知っている“黒子のバスケ”のストーリーとはかけ離れてしまったのだ。
私というイレギュラーが介入し、好き勝手振る舞った結果、特に“キセキの世代”の彼らの未来を大きく変化させてしまった。
いや、『変化させてしまった』という表現はここでは相応しくないだろう。
これでは、まるで私にその気が全くなく、ただの不注意で、不可避の事態を生じさせてしまったかのような言い草だ。
申し訳ない、訂正しよう。
私が、意図的に彼らの運命を捻じ曲げたのだ。
あるべきはずの未来を、人生を、私が身勝手な都合で変化させたのだ。
私は後に世間から、というより世界から“帝光中の英雄”と呼ばれることになる。
崇められ、讃えられ、敬われ――受け入れられることになる。
それは私の献身であり、功績であり、精神であり、その他何やらを評し、あるいは表した異名なのだが、前世の原作の愛読者からすれば、私の行為は“暴君”の一言に尽きるだろう。
勝手に話を作り替えた
当初、中学時代のエピソードを述べる場は先送りし、高校時代――私が誠凛高校に通い、黒子テツヤやその仲間達と共に楽しく高校生活を送る話を進めるつもりでいたが、やはりそれは不誠実だと判断したのだ。
私には、何よりもまず優先して、あの時期について最低限状況説明をする義務があると思っている。
言い訳がましく聞こえるかもしれないが、それで私の犯した罪が消えるわけでも軽くなるわけでもないことは重々承知だ。
これはただの昔語りにすぎないということを踏まえて、長らくお待たせしたが、帝光中時代の話をしよう。
ここまで付き合ってくれてありがとう。
それでは、まだ彼らが天才と呼ばれる前、まだ私が英雄と呼ばれる前、そして、まだかろうじて世界が歪む前の話を始めよう。
はじまりはじまり。
(序章 了)