中学一年生
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黒子テツヤへのアドバイスのタイミングは、どうやら間違っていなかったようだ。
その日の自主練帰りに黒子君と青峰君が共に下校するのを確認して、ようやくそう安堵したのだった。
原作のレールに入ったものの、今はまだ本格的に物語が進んでいない空白期間だ。
原作という道標の少ない無法地帯――何処に地雷が埋まっているか分からない危険地帯。
とは言え、原作の情報をもとに自分の行動を決めるという点で、主人公の黒子君は情報量が多いのでまだ難易度が低い方だ。
逆に難易度が高いのは、たとえば原作では部活を頻繁にサボるなどして、他のキャラクターより描写が少なかった人物である。
さらに、現実では教育係という特殊な関係性を付与され、部活以外で接触する頻度が格段に上がった人物は、私にとって最も危険な存在とも言える。
「あーっ! くそっ、また負けかよ!」
さて、その危険人物、もとい灰崎君は、筐体に向かって悪態を吐いてから、銃の形をしたコントローラを乱雑に収納場所に戻した。
黒子君の“原作”を見届けたその足で灰崎君と落ち合った場所は、駅前の賑やかなゲームセンターだ。
灰崎君の行きつけだそうで、四方の筐体から大音量の音楽と眩しい光が飛び交う店内は、彼の派手な雰囲気に似合っている。
何故放課後こんなところで遊んでいるのかと言えば、灰崎君の部活出席を賭けた“ゲーム”のためである。
彼の教育係になった日に取り決めたルール――私が勝てば部活に参加する、負ければ望みを何でも叶えるという約束で、実はあれから毎日続けているのだ。
当初は“鬼ごっこ”だったが、それに飽きた(あるいは勝ち目がないと見込んだ)彼の提案で、最近は勝負内容を定期的に変更している。
彼なりに私の苦手分野を模索しているようで、カラオケやゲーセンなど私が行きそうにない場所を指定されることが多い。
「じゃあ約束通り、明日の部活には遅れるなよ」
「分かってるっつの。……ちっ、こういうゲームなら勝ち目があると思ったんだけどな」
元々ゲームは嫌いではなかったが、さほど得意でもなかった。
そんな私がゲーム巧者の灰崎君に勝ち越せているのは、普段のトレーニングと“この身体”のおかげである。
転生後のこの肉体は、身体能力や回復能力が驚くほど向上しているのだ。
頭で描いたイメージと寸分違わず四肢が動き、どれだけハードスケジュールをこなしても瞬時に疲労や傷が回復する。
転生という異常体験が生み出したバグなのか、明らかに常人のスケールを超越しているのだ。
たとえば今の私が本気でバスケをしたら、キセキの世代にすら『チート』と称されるレベルになってしまうだろう。
もはやスポーツですらなくなってしまう。
そういう事情で決してスポーツ選手にはなれないものの、人を救う目的ではこの上なく重宝している。
この身体を駆使することで、灰崎君とのゲームに完勝し、彼の部活出席率の向上に貢献できているのだから、『灰崎祥吾の教育係』として今のところ順調である。
あくまで“今のところは”だが。
「ガンシューティングゲームやったことねーっつったくせに、なんでオレよりスコア良いんだよ」
「灰崎君が上手かったからこそ、コツを掴みやすかったんだよ」
「学習能力高すぎるだろ。んな褒め方されても嬉しくねーんだよ」
灰崎君の“原作”の中で一番の懸案事項は、部活のサボりや他校生との暴行が原因で来年にバスケ部を退部させられることだ。
今までの経験から、この“原作”は何があっても変わらないはずだ。
さて、ゲームのおかげで無遅刻無欠席を誇る現状から、一体どういう変遷で強制退部に至るのか。
その変遷は、またしても登場人物や物語を歪めるものではないか。
秋の昇格テストの時、私の影響を受けた所為で黒子君が原作よりも辛い絶望を味わってしまったように。
「納得いかねーな。もう一戦するぞ」
「明後日の出席分か? 勿論構わないよ」
「今度は別のゲームにするぞ。筐体はまたオレが選ぶからな」
『灰崎君のサボり癖を改善する』という赤司君からの依頼がある以上、今後もゲームに勝ち続けなければならない。
もしも負けたり、灰崎君が私を相手にしなくなったりしたら(こちらの方が確率が高そうだ)、赤司君の信頼を裏切り“英雄”として死に体同然となる。
とはいえ来年までゲームが続いたとすれば、強制退部の理由はサボり以外でなくては辻褄が合わなくなるが、その理由とは果たして何か。
原作で列挙された理由であればまだいいが、もし藍良莉乃が理由になることがあれば“読者”として失格となる。
当然だが、原作の描写が少ない灰崎祥吾に対しても“英雄”と“読者”を両立させなければならない。
それが叶わないなら、今度こそ死んで償うしかない。
「……あー、じゃ、あれにしようぜ」
灰崎君が指差した先には、リズムゲームの筐体があった。
画面の指示に合わせて、床のセンサーを踏むゲームだ。
「灰崎君はああいうのが得意なのか?」
「ちげーよ。お前が苦手だから選んだんだよ」
「ん?」
身に覚えのない言葉に首を傾げると、灰崎君は勝ち誇ったような顔で応じた。
「オレがあの辺に視線をやった時、表情が曇ったぞ。オレに勝つ自信がねーからだろ」
「あ、いや……」
表情が曇ったのは未来を憂慮していたからで、リズムゲームとは何の因果もない。
しかしそれ以上反論はせず、灰崎君の前で物思いに耽ったことと迂闊に表情を読まれたことを反省した。
万が一にでも、彼の未来を知っていると勘づかれてはならない。
「一人ずつ挑戦して、点数の高い方が勝ちだ。次はお前が先にやれ」
「承知した」
不安を心の底に潜め、隙のない笑顔を作った。
その日の自主練帰りに黒子君と青峰君が共に下校するのを確認して、ようやくそう安堵したのだった。
原作のレールに入ったものの、今はまだ本格的に物語が進んでいない空白期間だ。
原作という道標の少ない無法地帯――何処に地雷が埋まっているか分からない危険地帯。
とは言え、原作の情報をもとに自分の行動を決めるという点で、主人公の黒子君は情報量が多いのでまだ難易度が低い方だ。
逆に難易度が高いのは、たとえば原作では部活を頻繁にサボるなどして、他のキャラクターより描写が少なかった人物である。
さらに、現実では教育係という特殊な関係性を付与され、部活以外で接触する頻度が格段に上がった人物は、私にとって最も危険な存在とも言える。
「あーっ! くそっ、また負けかよ!」
さて、その危険人物、もとい灰崎君は、筐体に向かって悪態を吐いてから、銃の形をしたコントローラを乱雑に収納場所に戻した。
黒子君の“原作”を見届けたその足で灰崎君と落ち合った場所は、駅前の賑やかなゲームセンターだ。
灰崎君の行きつけだそうで、四方の筐体から大音量の音楽と眩しい光が飛び交う店内は、彼の派手な雰囲気に似合っている。
何故放課後こんなところで遊んでいるのかと言えば、灰崎君の部活出席を賭けた“ゲーム”のためである。
彼の教育係になった日に取り決めたルール――私が勝てば部活に参加する、負ければ望みを何でも叶えるという約束で、実はあれから毎日続けているのだ。
当初は“鬼ごっこ”だったが、それに飽きた(あるいは勝ち目がないと見込んだ)彼の提案で、最近は勝負内容を定期的に変更している。
彼なりに私の苦手分野を模索しているようで、カラオケやゲーセンなど私が行きそうにない場所を指定されることが多い。
「じゃあ約束通り、明日の部活には遅れるなよ」
「分かってるっつの。……ちっ、こういうゲームなら勝ち目があると思ったんだけどな」
元々ゲームは嫌いではなかったが、さほど得意でもなかった。
そんな私がゲーム巧者の灰崎君に勝ち越せているのは、普段のトレーニングと“この身体”のおかげである。
転生後のこの肉体は、身体能力や回復能力が驚くほど向上しているのだ。
頭で描いたイメージと寸分違わず四肢が動き、どれだけハードスケジュールをこなしても瞬時に疲労や傷が回復する。
転生という異常体験が生み出したバグなのか、明らかに常人のスケールを超越しているのだ。
たとえば今の私が本気でバスケをしたら、キセキの世代にすら『チート』と称されるレベルになってしまうだろう。
もはやスポーツですらなくなってしまう。
そういう事情で決してスポーツ選手にはなれないものの、人を救う目的ではこの上なく重宝している。
この身体を駆使することで、灰崎君とのゲームに完勝し、彼の部活出席率の向上に貢献できているのだから、『灰崎祥吾の教育係』として今のところ順調である。
あくまで“今のところは”だが。
「ガンシューティングゲームやったことねーっつったくせに、なんでオレよりスコア良いんだよ」
「灰崎君が上手かったからこそ、コツを掴みやすかったんだよ」
「学習能力高すぎるだろ。んな褒め方されても嬉しくねーんだよ」
灰崎君の“原作”の中で一番の懸案事項は、部活のサボりや他校生との暴行が原因で来年にバスケ部を退部させられることだ。
今までの経験から、この“原作”は何があっても変わらないはずだ。
さて、ゲームのおかげで無遅刻無欠席を誇る現状から、一体どういう変遷で強制退部に至るのか。
その変遷は、またしても登場人物や物語を歪めるものではないか。
秋の昇格テストの時、私の影響を受けた所為で黒子君が原作よりも辛い絶望を味わってしまったように。
「納得いかねーな。もう一戦するぞ」
「明後日の出席分か? 勿論構わないよ」
「今度は別のゲームにするぞ。筐体はまたオレが選ぶからな」
『灰崎君のサボり癖を改善する』という赤司君からの依頼がある以上、今後もゲームに勝ち続けなければならない。
もしも負けたり、灰崎君が私を相手にしなくなったりしたら(こちらの方が確率が高そうだ)、赤司君の信頼を裏切り“英雄”として死に体同然となる。
とはいえ来年までゲームが続いたとすれば、強制退部の理由はサボり以外でなくては辻褄が合わなくなるが、その理由とは果たして何か。
原作で列挙された理由であればまだいいが、もし藍良莉乃が理由になることがあれば“読者”として失格となる。
当然だが、原作の描写が少ない灰崎祥吾に対しても“英雄”と“読者”を両立させなければならない。
それが叶わないなら、今度こそ死んで償うしかない。
「……あー、じゃ、あれにしようぜ」
灰崎君が指差した先には、リズムゲームの筐体があった。
画面の指示に合わせて、床のセンサーを踏むゲームだ。
「灰崎君はああいうのが得意なのか?」
「ちげーよ。お前が苦手だから選んだんだよ」
「ん?」
身に覚えのない言葉に首を傾げると、灰崎君は勝ち誇ったような顔で応じた。
「オレがあの辺に視線をやった時、表情が曇ったぞ。オレに勝つ自信がねーからだろ」
「あ、いや……」
表情が曇ったのは未来を憂慮していたからで、リズムゲームとは何の因果もない。
しかしそれ以上反論はせず、灰崎君の前で物思いに耽ったことと迂闊に表情を読まれたことを反省した。
万が一にでも、彼の未来を知っていると勘づかれてはならない。
「一人ずつ挑戦して、点数の高い方が勝ちだ。次はお前が先にやれ」
「承知した」
不安を心の底に潜め、隙のない笑顔を作った。