中学一年生
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私は愚鈍だが馬鹿ではない(と思いたい)ので、もうさすがに彼らの意図に気づき始めていた。
私のつけるリボンに、自分達のイメージカラーを勧める彼らの意図に――緑間君は例外ということにしておこう、彼にとってラッキーアイテムは絶対なのだから。
とは言え、気づいたところで、彼らの思考も、嗜好も、にわかには受け入れがたいものだ。
より直接的な表現をすれば、考えたくないものだ。
なるべく自分の都合のいいように解釈したとしても、少なくとも私の存在価値が崩れかける内容であることは間違いない。
だが、いくら目を逸らして現実逃避しようとしても、ポケットの中に収まっているリボン達の存在感は無視できないものだ。
だから、せめてこれ以上、ポケットの重みが増えないようにと気を張り詰めていたのだが――その気構え自体は悪くなかったと思うが、それでもまだ甘かったのだ。
もし万が一、残りに控える者達が自分のイメージカラーのリボンを携えて来た時どう対応しようかと、そればかりを考えていたのがいけなかったのだろう。
それしか考えてなかったのがいけなかったのだろう。
休み時間の終わりに教室に戻ってきた私の目に、自分の机の上の見慣れない包みが映った時、そう強く猛省した。
手の平サイズの透明な袋でラッピングされた、青色のリボンを目撃した瞬間に。
「………」
その手があったか、と素直に感心してしまった。
そのすぐ後に、何故軽々に席を離れてしまったのかと後悔した。
袋の上には、可愛らしいデザインのメッセージカードが貼ってある。
『前にお菓子作り教えてくれたお礼だよ。
私を助けると思って受け取って!
大ちゃんのことよろしくね!
桃井さつき』
……なるほど、送り主はさつきちゃんだったか。
青色を見た瞬間安直に“彼”の仕業かと考えたが、確かにこの丁寧なラッピングのイメージにはそぐわない。
ラッピングだけでなく、渡し方も、メッセージの文章も、実に彼女らしく計算し尽くされている。
『私を助けると思って』か。
文末の『よろしくね』は、何をよろしくされたのかよく分からないが。
なんとなく、分かってはいけないような気がする。
「ついさっき、桃井がその包みを置いていったが――」
自分の席で日誌をつけていた赤司君が、筆を止めて目を眇めた。
「その様子だと、引き取らせた方が良かったか?」
「……いや、大丈夫だ」
大丈夫。
まだ、そうと決まったわけではない。
そう自分に言い聞かせるも一向に袋を取ろうとしない様子を見るに見かねたのか、赤司君が手を伸ばした。
「その袋、ちょっと見てもいいか?」
「ああ。どうぞ」
私の返答を受けて、彼は身を乗り出して机上の袋を手に取った。
そして中身を精査するように包みの角度を変え、裏返し、その拍子に袋ががさがさと鳴る。
「そういえば、他にもリボンを貰ったらしいな。それも見せてくれないか」
「分かった」
ポケットの中からリボンの束を引き出して、自分の手の上に乗せる。
黄色と紫、それぞれ二本ずつ。
私の弱さの象徴だ。
しかし、赤司君はそれらには触らず一瞥しただけで、その上ありがとう、と言って袋を戻してしまった。
「もういいのか?」
「ああ。もう終わった」
「そうか。……ん?」
「どうした?」
「いや、何か違和感があるような……」
口に出してすぐ、違和感の正体が分かった。
赤司君から受け取った袋の中身が、先ほどと微妙に変わっているのだ。
机にあった時は青色のリボンしかなかったはずなのに、今袋の中には赤色のリボンも入っている。
これは一体どういうことだ?
赤といえば目の前の彼のイメージカラーだが、そんなものがどうして少し目を離した隙に現れたんだ?
「なあ、赤司君。さっきまで、袋の中には青色のリボンしかなかったよな?」
「……いいや。赤色のリボンも入っていたよ」
「えっ? そうだったか?」
驚いて思わず疑うような発言をしてしまったが、赤司君が言うのならそうに違いない。
てっきりリボンが増えたかと思ったが、私の記憶違いだったのか。
「ラッピングの所為でよく見えなかったんじゃないか?」
「なるほどな。きっとそうだ」
私と赤司君のどちらを信じるかと問われれば、私も読者も迷わず彼を選ぶ。
「私の勘違いだった。変なことを言ってすまなかった」
「いいや。オレの方こそ」
彼が謝る理由は何処にもないのに、そんな言い回しをする謙虚な人だった。
さて、誤解が解けてすっきりしたが、肝心の問題は何も解決していない。
しかも、当初はてっきり彼らは広告塔のように自分の色を私に身につけさせようとしていると推察していたのに、さつきちゃんが全く関係のない青色と赤色を持って来たことで訳が分からなくなってしまった。
彼らは一体どういう意図でこんなことをしているんだ?
それとも、今五色のリボンが集結しているのは、ただの偶然なのか?
「所詮ただのリボンだろう。深く考えずに受け取ったらいい」
私の心を読んだかのように、赤司君が優しくアドバイスをくれた。
「折角の貰いものだ。つけてみればいいんじゃないか?」
「だが、五色もあるぞ?」
「好きな色を選べばいい。藍良の好きな色を」
そう言われて視線を落とし、手の中のリボンを見る。
そして、今は見えないが、髪を結っている緑色のリボンも思い浮かべる。
なんとも難しい助言だ。
それに、揚げ足を取るようだが、貰いものと言っても大半は押し付けられたもので、うち一つは自分で購入したものなのだ。
もう何が何だか分からない。
しかし、どんなに扱いに困ろうとも、友達の好意を無下にするなどできないし、友達の助言を無視するなどもっとできない。
数秒悩んだ末、私は、ひとつ選び取った。
私のつけるリボンに、自分達のイメージカラーを勧める彼らの意図に――緑間君は例外ということにしておこう、彼にとってラッキーアイテムは絶対なのだから。
とは言え、気づいたところで、彼らの思考も、嗜好も、にわかには受け入れがたいものだ。
より直接的な表現をすれば、考えたくないものだ。
なるべく自分の都合のいいように解釈したとしても、少なくとも私の存在価値が崩れかける内容であることは間違いない。
だが、いくら目を逸らして現実逃避しようとしても、ポケットの中に収まっているリボン達の存在感は無視できないものだ。
だから、せめてこれ以上、ポケットの重みが増えないようにと気を張り詰めていたのだが――その気構え自体は悪くなかったと思うが、それでもまだ甘かったのだ。
もし万が一、残りに控える者達が自分のイメージカラーのリボンを携えて来た時どう対応しようかと、そればかりを考えていたのがいけなかったのだろう。
それしか考えてなかったのがいけなかったのだろう。
休み時間の終わりに教室に戻ってきた私の目に、自分の机の上の見慣れない包みが映った時、そう強く猛省した。
手の平サイズの透明な袋でラッピングされた、青色のリボンを目撃した瞬間に。
「………」
その手があったか、と素直に感心してしまった。
そのすぐ後に、何故軽々に席を離れてしまったのかと後悔した。
袋の上には、可愛らしいデザインのメッセージカードが貼ってある。
『前にお菓子作り教えてくれたお礼だよ。
私を助けると思って受け取って!
大ちゃんのことよろしくね!
桃井さつき』
……なるほど、送り主はさつきちゃんだったか。
青色を見た瞬間安直に“彼”の仕業かと考えたが、確かにこの丁寧なラッピングのイメージにはそぐわない。
ラッピングだけでなく、渡し方も、メッセージの文章も、実に彼女らしく計算し尽くされている。
『私を助けると思って』か。
文末の『よろしくね』は、何をよろしくされたのかよく分からないが。
なんとなく、分かってはいけないような気がする。
「ついさっき、桃井がその包みを置いていったが――」
自分の席で日誌をつけていた赤司君が、筆を止めて目を眇めた。
「その様子だと、引き取らせた方が良かったか?」
「……いや、大丈夫だ」
大丈夫。
まだ、そうと決まったわけではない。
そう自分に言い聞かせるも一向に袋を取ろうとしない様子を見るに見かねたのか、赤司君が手を伸ばした。
「その袋、ちょっと見てもいいか?」
「ああ。どうぞ」
私の返答を受けて、彼は身を乗り出して机上の袋を手に取った。
そして中身を精査するように包みの角度を変え、裏返し、その拍子に袋ががさがさと鳴る。
「そういえば、他にもリボンを貰ったらしいな。それも見せてくれないか」
「分かった」
ポケットの中からリボンの束を引き出して、自分の手の上に乗せる。
黄色と紫、それぞれ二本ずつ。
私の弱さの象徴だ。
しかし、赤司君はそれらには触らず一瞥しただけで、その上ありがとう、と言って袋を戻してしまった。
「もういいのか?」
「ああ。もう終わった」
「そうか。……ん?」
「どうした?」
「いや、何か違和感があるような……」
口に出してすぐ、違和感の正体が分かった。
赤司君から受け取った袋の中身が、先ほどと微妙に変わっているのだ。
机にあった時は青色のリボンしかなかったはずなのに、今袋の中には赤色のリボンも入っている。
これは一体どういうことだ?
赤といえば目の前の彼のイメージカラーだが、そんなものがどうして少し目を離した隙に現れたんだ?
「なあ、赤司君。さっきまで、袋の中には青色のリボンしかなかったよな?」
「……いいや。赤色のリボンも入っていたよ」
「えっ? そうだったか?」
驚いて思わず疑うような発言をしてしまったが、赤司君が言うのならそうに違いない。
てっきりリボンが増えたかと思ったが、私の記憶違いだったのか。
「ラッピングの所為でよく見えなかったんじゃないか?」
「なるほどな。きっとそうだ」
私と赤司君のどちらを信じるかと問われれば、私も読者も迷わず彼を選ぶ。
「私の勘違いだった。変なことを言ってすまなかった」
「いいや。オレの方こそ」
彼が謝る理由は何処にもないのに、そんな言い回しをする謙虚な人だった。
さて、誤解が解けてすっきりしたが、肝心の問題は何も解決していない。
しかも、当初はてっきり彼らは広告塔のように自分の色を私に身につけさせようとしていると推察していたのに、さつきちゃんが全く関係のない青色と赤色を持って来たことで訳が分からなくなってしまった。
彼らは一体どういう意図でこんなことをしているんだ?
それとも、今五色のリボンが集結しているのは、ただの偶然なのか?
「所詮ただのリボンだろう。深く考えずに受け取ったらいい」
私の心を読んだかのように、赤司君が優しくアドバイスをくれた。
「折角の貰いものだ。つけてみればいいんじゃないか?」
「だが、五色もあるぞ?」
「好きな色を選べばいい。藍良の好きな色を」
そう言われて視線を落とし、手の中のリボンを見る。
そして、今は見えないが、髪を結っている緑色のリボンも思い浮かべる。
なんとも難しい助言だ。
それに、揚げ足を取るようだが、貰いものと言っても大半は押し付けられたもので、うち一つは自分で購入したものなのだ。
もう何が何だか分からない。
しかし、どんなに扱いに困ろうとも、友達の好意を無下にするなどできないし、友達の助言を無視するなどもっとできない。
数秒悩んだ末、私は、ひとつ選び取った。