中学一年生
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購買前で偶然出会った黄瀬君は、私を見るなりその場に崩れ落ちた。
「莉乃っちのツインテール超可愛い……!」
出会い頭に何を言っているんだ、この人は。
そろそろ彼の精神状態が心配になってくるな。
仲間内から弄られる姿は漫画でよく描写されていたが、私如きにまで道化を演じなくてもいいのに。
黄瀬君は周囲の冷たい視線を浴びながらふらふらと立ち上がり、気を取り直すように笑顔を見せた。
「今日はどうしたんスか? イメチェン?」
「いや、ちょっとラッキーアイテムが……」
「ラッキーアイテム? 何スかそれ?」
何かと問われれば、よく分からないと答えるしかない。
拙い説明で事情を話すと、変わった人がいるんスねえ、と当たり障りのない返事があった。
それでひとまず理解してもらえたはずだが、黄瀬君は何故か納得いかないという顔をしている。
顎に手を当て、私を見て唸った。
「うーん、髪型は完璧なんスけど、そのリボンの色がイマイチっスね」
「色?」
リボンの端を摘まみ上げ、確認する。
鮮やかな新緑は初夏の爽やかさを想起させ、とてもいい配色だと思うのだが、彼のセンスには合わないようだ。
黄瀬君は暫く腕を組んで思案したかと思うと、ちょっと待ってて、と言い残して購買に駆け込んでしまった。
待機すること五分。
戻って来た彼の手に握られているのは、黄色のリボンだ。
しかも二本。
そういえば、購買には手芸用のリボンが数色並んでいて、レジで指定した長さだけカットしてもらえるシステムがある。
学校でリボンを買う奴なんているのかと思っていたが、どうやら需要はあるようだ。
黄瀬君はその購入したばかりのリボンを私に手渡した。
「はい。その緑のは外して、こっちのリボンつけて」
「え? なんで?」
「莉乃っちは黄色の方が似合うっスよ、絶対!」
私に何色が似合うかなんて心底どうでもいい。
そもそも“緑色の”リボンがラッキーアイテムなのであり、それを取ったら本末転倒だ。
何の意味もなくツインテールを披露する事態になってしまう――と、この人に主張できたらどんなに楽だろうか。
きらきらした瞳で私を見つめる彼に対して、『こんなものはいらない』と突っぱねる勇気はないのだった。
結局黄色いリボンを受け取ってしまい、しかも代金を払おうとしたが拒否された。
黄瀬君が満足そうに去ってから途方に暮れていたところに、更なる試練が襲い掛かった。
「あれ~、藍ちんじゃん。こんなとこで何やってんの?」
間延びした喋り方で私をあだ名で呼ぶ人間は、この学校で一人しかいない。
振り向くと、スナック菓子の袋を片手に、紫原君が見下ろしていた。
確か彼は、この時間帯に持参のお菓子を消費し尽くし、購買で新たに調達する習慣がある。
私を見て何か言おうとし、ある一点を凝視すると口を閉ざした。
その不思議な反応が気になって尋ねてみる。
「どうしたんだ? 紫原君」
「……なんかそのリボン、ミドチンを思い出して嫌なんだけど」
「まさしく緑間君から貰ったものだよ。今日の蟹座のラッキーアイテムらしい」
「……ふーん」
相槌のトーンが普段より低くなった。
これは不機嫌な時のサインだが、何故リボン一つで機嫌が急下降したのか。
もしリボンが周囲の人間の気分を害するようなアイテムなら、緑間君には悪いが即刻外さなくてはならない。
紫原君の視線が下がり、今度は私の手元に移った。
「で、そっちのリボンは?」
「これは友達から貰ったんだよ。わざわざ購買で買ってくれたんだ」
「ふーん」
先ほどと同じ返事だが、声は少しだけ明るくなった。
そして、首を右に傾げ、続いて左に倒し、首の位置を戻してから口元を緩めた。
「購買って、確か紫のリボンも売ってたよね?」
「ああ。色の種類はかなり豊富だったと思うが」
「じゃあさー、緑の代わりに紫のを買ってつけなよ」
「……ん?」
今度は私が首を傾げる番だった。
強烈な既視感。
しかし、次こそきちんと主張しなくては。
緑間君という共通の知人がいる分、難易度は高くない……はずだ。
「……あのな、紫原君。ラッキーアイテムは緑のリボンでなくては意味ないんだよ」
「でも藍ちんっておは朝興味なさそうじゃん。なら何色でもいいよね?」
確かに紫原君の言う通りおは朝にもラッキーアイテムにも興味ないが、何でもいいならそもそもこんな髪型にしていない。
私の髪型の変化など、部活中にポニーテールにする程度で充分である。
というか、そもそもこれは一体どういう状況だ?
まず緑間君から緑色のリボンを貰い、次に黄瀬君に黄色のリボンを渡され、その上自分で紫色のリボンを買いに行くのか?
こんな間抜けな展開はない。
そう思っていても、紫原君にじゃあ約束ねー、と言われてしまうと、悲しいかな唯々諾々と従うしかないのだった。
私如きが彼らに意見しようなど百年早いということだろう。
彼と別れた後に紫色のリボンをレジに通しながら、頼むからもうリボンが増えないようにと強く祈った。
残念ながら、私の祈りは届かなかった。
「莉乃っちのツインテール超可愛い……!」
出会い頭に何を言っているんだ、この人は。
そろそろ彼の精神状態が心配になってくるな。
仲間内から弄られる姿は漫画でよく描写されていたが、私如きにまで道化を演じなくてもいいのに。
黄瀬君は周囲の冷たい視線を浴びながらふらふらと立ち上がり、気を取り直すように笑顔を見せた。
「今日はどうしたんスか? イメチェン?」
「いや、ちょっとラッキーアイテムが……」
「ラッキーアイテム? 何スかそれ?」
何かと問われれば、よく分からないと答えるしかない。
拙い説明で事情を話すと、変わった人がいるんスねえ、と当たり障りのない返事があった。
それでひとまず理解してもらえたはずだが、黄瀬君は何故か納得いかないという顔をしている。
顎に手を当て、私を見て唸った。
「うーん、髪型は完璧なんスけど、そのリボンの色がイマイチっスね」
「色?」
リボンの端を摘まみ上げ、確認する。
鮮やかな新緑は初夏の爽やかさを想起させ、とてもいい配色だと思うのだが、彼のセンスには合わないようだ。
黄瀬君は暫く腕を組んで思案したかと思うと、ちょっと待ってて、と言い残して購買に駆け込んでしまった。
待機すること五分。
戻って来た彼の手に握られているのは、黄色のリボンだ。
しかも二本。
そういえば、購買には手芸用のリボンが数色並んでいて、レジで指定した長さだけカットしてもらえるシステムがある。
学校でリボンを買う奴なんているのかと思っていたが、どうやら需要はあるようだ。
黄瀬君はその購入したばかりのリボンを私に手渡した。
「はい。その緑のは外して、こっちのリボンつけて」
「え? なんで?」
「莉乃っちは黄色の方が似合うっスよ、絶対!」
私に何色が似合うかなんて心底どうでもいい。
そもそも“緑色の”リボンがラッキーアイテムなのであり、それを取ったら本末転倒だ。
何の意味もなくツインテールを披露する事態になってしまう――と、この人に主張できたらどんなに楽だろうか。
きらきらした瞳で私を見つめる彼に対して、『こんなものはいらない』と突っぱねる勇気はないのだった。
結局黄色いリボンを受け取ってしまい、しかも代金を払おうとしたが拒否された。
黄瀬君が満足そうに去ってから途方に暮れていたところに、更なる試練が襲い掛かった。
「あれ~、藍ちんじゃん。こんなとこで何やってんの?」
間延びした喋り方で私をあだ名で呼ぶ人間は、この学校で一人しかいない。
振り向くと、スナック菓子の袋を片手に、紫原君が見下ろしていた。
確か彼は、この時間帯に持参のお菓子を消費し尽くし、購買で新たに調達する習慣がある。
私を見て何か言おうとし、ある一点を凝視すると口を閉ざした。
その不思議な反応が気になって尋ねてみる。
「どうしたんだ? 紫原君」
「……なんかそのリボン、ミドチンを思い出して嫌なんだけど」
「まさしく緑間君から貰ったものだよ。今日の蟹座のラッキーアイテムらしい」
「……ふーん」
相槌のトーンが普段より低くなった。
これは不機嫌な時のサインだが、何故リボン一つで機嫌が急下降したのか。
もしリボンが周囲の人間の気分を害するようなアイテムなら、緑間君には悪いが即刻外さなくてはならない。
紫原君の視線が下がり、今度は私の手元に移った。
「で、そっちのリボンは?」
「これは友達から貰ったんだよ。わざわざ購買で買ってくれたんだ」
「ふーん」
先ほどと同じ返事だが、声は少しだけ明るくなった。
そして、首を右に傾げ、続いて左に倒し、首の位置を戻してから口元を緩めた。
「購買って、確か紫のリボンも売ってたよね?」
「ああ。色の種類はかなり豊富だったと思うが」
「じゃあさー、緑の代わりに紫のを買ってつけなよ」
「……ん?」
今度は私が首を傾げる番だった。
強烈な既視感。
しかし、次こそきちんと主張しなくては。
緑間君という共通の知人がいる分、難易度は高くない……はずだ。
「……あのな、紫原君。ラッキーアイテムは緑のリボンでなくては意味ないんだよ」
「でも藍ちんっておは朝興味なさそうじゃん。なら何色でもいいよね?」
確かに紫原君の言う通りおは朝にもラッキーアイテムにも興味ないが、何でもいいならそもそもこんな髪型にしていない。
私の髪型の変化など、部活中にポニーテールにする程度で充分である。
というか、そもそもこれは一体どういう状況だ?
まず緑間君から緑色のリボンを貰い、次に黄瀬君に黄色のリボンを渡され、その上自分で紫色のリボンを買いに行くのか?
こんな間抜けな展開はない。
そう思っていても、紫原君にじゃあ約束ねー、と言われてしまうと、悲しいかな唯々諾々と従うしかないのだった。
私如きが彼らに意見しようなど百年早いということだろう。
彼と別れた後に紫色のリボンをレジに通しながら、頼むからもうリボンが増えないようにと強く祈った。
残念ながら、私の祈りは届かなかった。