中学一年生
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全中制覇から一か月後の新学期に起こった、ちょっと変わった体験談。
あれは、廊下でたまたま出会った緑間君が、珍しく向こうから声を掛けてくれたのがきっかけだった。
「藍良。ちょっと待て。お前にいいものをやる」
「ん? 何だ? 緑間君」
彼の方からそんな申し出をしてくるとは、今日はよほど機嫌がいいらしい。
今日というより、ここ最近彼の眉間に皺が寄るところを見ていないので、全中勝利の余韻ではないかと分析している。
理由はともかく、あの緑間君から貰える物とは一体何だろうかと待機していると、ふと彼の右手の平に乗ったラッピング用の緑色のリボンロールが目についた。
“それ”を指差しながら、ふと訊いてみる。
「それ、今日のラッキーアイテムか?」
「その通りだが――まさかお前、またおは朝を見ていなかったな?」
台詞の途中で、じろりと睨みつけられた。
しまった、失言だった。
「仕方ないだろ……。その時間は家を出てしまっているんだから」
言い訳がましくなってしまうのは、私の心理状態が関係している。
正直言うと、自分のプロフィールに関する事項に深入りしたくないのだ。
それに、前にも言ったように、緑間君がおは朝を見ていれば何も問題はない。
緑間君が幸せなら、私だって幸せだ。
「ちょっと待て。オレの家より学校から近いのに、何故オレより家を出るのが早いのだよ」
「そりゃあ、学校に行く前にランニングとか町内の見回りとか早朝練習とかあるから」
「……いつも何時に起床しているのだよ」
緑間君からの質問に笑って誤魔化した。
正直に答えたらまた引かれてしまうだろう。
というか、私は君が私の自宅の場所を知っている理由の方を訊きたいのだが。
素朴な疑問を口にする前に、緑間君は渋い顔のまま、おもむろにズボンのポケットからハサミ(むき出しだった!)を取り出した。
そしてリボンを適当な長さに二本切り取ると、それらを私に差し出したのだ。
「仕方ない。特別に今日の蟹座のラッキーアイテムをお前にも分けてやるのだよ」
「え? 私にくれるのか?」
「ああ。藍良もこれをつけて運気を上げろ」
「気持ちは嬉しいが、蟹座のラッキーアイテムが私に効くのか?」
「……何を言っている。お前も蟹座だろう」
「あ、そうか」
素で失念していた。
また緑間君が何か言いたげな顔をする。
しかし結局何も言ってこないのは、緑間真太郎が“藍良莉乃”の性質を普通の人より正しく認識しているからであるように思える。
もしその推測が正しければ、入れ知恵したのは十中八九赤司征十郎だ。
緑間君が私をライバル視していたあの頃、その誤解を解くのに赤司君が暗躍してくれたが――あの時、私の“本質”についての解説がなされたのだろう。
どんな風に説明されたかまでは把握していないが、少なくとも緑間君にいい印象を与えるものではなかったことは確かのようだ。
それからというもの、私の言動によって、このように彼が表情を曇らせることは少なくない。
そして悩ましいことに、解決策は今のところ見つかっていないのだった。
私が変わればそれが一番手っ取り早い解決法なのだが、三つ子の魂百までと言うしなあ。
「ならば、謹んで頂こう。どうもありがとう」
これ以上良くない雰囲気になる前に、リボンに手を伸ばした。
受け取って、それを矯めつ眇めつ眺めてみる。
手芸用品店に売っていそうな、いたって普通のリボンだ。
確か、ラッキーアイテムは身につけた方が効果があるんだったか?
緑間君は『これをつけて運気を上げろ』と言ったので、きっと身につけるのが正解なのだろう。
折角二つ貰ったので、とりあえず髪をツインテールにしてみた。
廊下で立ったまま、しかも手探りで結んだので多少不格好かもしれないが、首筋が随分涼しくなった。
九月の残暑にはうってつけの髪型かもしれない。
しかし、リボンを結んだ途端、何故か周囲がざわめいた気がする。
自分では確認できないので、緑間君に意見を仰いだ。
「……こんな感じでいいのか?」
「ああ。これでお前も今日一日安泰だ」
緑間君は腕を組んで満足げに頷いた。
彼のそんな表情を拝めただけでも、ラッキーアイテムとしての役割は果たしたと言える。
しかしこのリボンこそが、今後立て続けに遭遇する奇妙な出来事の引き金だったのである。
あれは、廊下でたまたま出会った緑間君が、珍しく向こうから声を掛けてくれたのがきっかけだった。
「藍良。ちょっと待て。お前にいいものをやる」
「ん? 何だ? 緑間君」
彼の方からそんな申し出をしてくるとは、今日はよほど機嫌がいいらしい。
今日というより、ここ最近彼の眉間に皺が寄るところを見ていないので、全中勝利の余韻ではないかと分析している。
理由はともかく、あの緑間君から貰える物とは一体何だろうかと待機していると、ふと彼の右手の平に乗ったラッピング用の緑色のリボンロールが目についた。
“それ”を指差しながら、ふと訊いてみる。
「それ、今日のラッキーアイテムか?」
「その通りだが――まさかお前、またおは朝を見ていなかったな?」
台詞の途中で、じろりと睨みつけられた。
しまった、失言だった。
「仕方ないだろ……。その時間は家を出てしまっているんだから」
言い訳がましくなってしまうのは、私の心理状態が関係している。
正直言うと、自分のプロフィールに関する事項に深入りしたくないのだ。
それに、前にも言ったように、緑間君がおは朝を見ていれば何も問題はない。
緑間君が幸せなら、私だって幸せだ。
「ちょっと待て。オレの家より学校から近いのに、何故オレより家を出るのが早いのだよ」
「そりゃあ、学校に行く前にランニングとか町内の見回りとか早朝練習とかあるから」
「……いつも何時に起床しているのだよ」
緑間君からの質問に笑って誤魔化した。
正直に答えたらまた引かれてしまうだろう。
というか、私は君が私の自宅の場所を知っている理由の方を訊きたいのだが。
素朴な疑問を口にする前に、緑間君は渋い顔のまま、おもむろにズボンのポケットからハサミ(むき出しだった!)を取り出した。
そしてリボンを適当な長さに二本切り取ると、それらを私に差し出したのだ。
「仕方ない。特別に今日の蟹座のラッキーアイテムをお前にも分けてやるのだよ」
「え? 私にくれるのか?」
「ああ。藍良もこれをつけて運気を上げろ」
「気持ちは嬉しいが、蟹座のラッキーアイテムが私に効くのか?」
「……何を言っている。お前も蟹座だろう」
「あ、そうか」
素で失念していた。
また緑間君が何か言いたげな顔をする。
しかし結局何も言ってこないのは、緑間真太郎が“藍良莉乃”の性質を普通の人より正しく認識しているからであるように思える。
もしその推測が正しければ、入れ知恵したのは十中八九赤司征十郎だ。
緑間君が私をライバル視していたあの頃、その誤解を解くのに赤司君が暗躍してくれたが――あの時、私の“本質”についての解説がなされたのだろう。
どんな風に説明されたかまでは把握していないが、少なくとも緑間君にいい印象を与えるものではなかったことは確かのようだ。
それからというもの、私の言動によって、このように彼が表情を曇らせることは少なくない。
そして悩ましいことに、解決策は今のところ見つかっていないのだった。
私が変わればそれが一番手っ取り早い解決法なのだが、三つ子の魂百までと言うしなあ。
「ならば、謹んで頂こう。どうもありがとう」
これ以上良くない雰囲気になる前に、リボンに手を伸ばした。
受け取って、それを矯めつ眇めつ眺めてみる。
手芸用品店に売っていそうな、いたって普通のリボンだ。
確か、ラッキーアイテムは身につけた方が効果があるんだったか?
緑間君は『これをつけて運気を上げろ』と言ったので、きっと身につけるのが正解なのだろう。
折角二つ貰ったので、とりあえず髪をツインテールにしてみた。
廊下で立ったまま、しかも手探りで結んだので多少不格好かもしれないが、首筋が随分涼しくなった。
九月の残暑にはうってつけの髪型かもしれない。
しかし、リボンを結んだ途端、何故か周囲がざわめいた気がする。
自分では確認できないので、緑間君に意見を仰いだ。
「……こんな感じでいいのか?」
「ああ。これでお前も今日一日安泰だ」
緑間君は腕を組んで満足げに頷いた。
彼のそんな表情を拝めただけでも、ラッキーアイテムとしての役割は果たしたと言える。
しかしこのリボンこそが、今後立て続けに遭遇する奇妙な出来事の引き金だったのである。