中学一年生
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現状を原作と照らし合わせた結果、恐らく私が来る前にこんなことがあったと思われる。
部活後、青峰大輝はいつも通り居残り練習しようとするが、一軍専用の体育館は人が多いので、三軍の体育館へと移動した。
それが、最近お化けが出ると噂されている第四体育館である(驚くことに、この“お化け”を除霊してほしいという依頼が数件来ていた。私は霊媒師か)。
電気のついた体育館からはボールの音とスキール音が聞こえてくるのに、青峰君が扉を開けると室内には誰も見当たらなかった。
青ざめる彼のすぐ近くで第三者の声がしたので、震えながら恐る恐るそちらを向くと、そこにいたのは部員にすら気づかれないほど影の薄い少年――黒子テツヤだった。
これが、二人の出会いである。
彼らは互いに自己紹介を済ませた後、こう約束したのだった。
「いつか一緒にコートに立とうぜ」
そして、二人は十年来の親友のように拳を合わせた――その時、新たな来訪者があった。
そう、何を隠そうこの私である。
改めて状況を確認しても、なんて間の悪い登場だろうかと絶句してしまう。
もう少し早く来れば歴史的な出会いに立ち会えたし、もう少し遅ければ二人を邪魔することはなかった。
青峰君は、まさか私が現れると思っていなかったのか、瞠目して固まったままだ。
私も私で、体育館に一歩も入れずに立ち尽くしている。
ただ青峰君と違うのは、驚きだけでなく、感動も含んでいる点だ。
――今日だったのか、青峰君と黒子君が出会ったのは。
漫画通りの展開、原作通りの状況。
やはり、ここは漫画の世界だ。
ただ一つ違うのは、二人が私なんかに注目していることだ。
「藍良さん、お疲れ様です。今日もご指導よろしくお願いします」
私達の微妙な空気にまだ気づいていないらしく、黒子君は普段通り律儀に頭を下げた。
その言葉で、青峰君はようやく私達の関係性を悟ったようだ。
「あ? お前ら知り合い……? てか、『指導』って……」
「藍良さんには全中後から時間が空いている時に練習を見てもらっているんです」
「なっ!」
確認を取るようにこちらを振り向いたので、私も肯定した。
「ああ。最近ここで一緒に居残っているんだよ」
「……マジかよ」
何故か、ショックを受けたように項垂れる青峰君。
その姿を見て、やっと身体の硬直が解けた。
遅ればせながら室内に足を一歩踏み入れたところで、青峰君に鬼気迫る顔で睨みつけられた。
「……さっき、オレも毎日ここで練習するって決めたんだよ」
「そうなのか」
知っている。
「だからよ、お前、暇な時にオレと勝負しろ」
真剣な表情で何を言うかと思えば、そんなことだった。
これまでに何十回とこちらの事情などお構いなしに挑まれた勝負を、一度たりとも断ったことがないのに。
「そんなこと改めて言わなくても、今までだっていつだってワンオンワンしてるだろ」
「それはそうなんだけどよ!」
青峰君が苛立ったように足音を響かせながら近づいてくるので、反射的に一歩後ずさってしまった。
体育館から押し出された私の眼前に、人差し指を突きつけられる。
「悔しいんだよ!! 何度も挑んでるのに一度も勝てねーし!!」
「え?」
青峰君の言葉に、黒子君が反応した。
青峰君の身体越しに視線を向けると、黒子君は目を丸くしていた。
「青峰君でも藍良さんに勝てないんですか?」
「ああ。最初の頃はいい勝負だったのに、今では全く勝てねえ」
「藍良さんってそんなに強いんですか?」
「それどころか、コイツが負けるとこ見たことねーな」
「……本当ですか」
黒子君が一歩退いた。
これはまずい。
誤解されないようにと、慌てて弁明を試みる。
「そうは言っても、赤司君には何度か負けているよ」
「あの赤司にも何度か勝ってんだろ」
「つまり互角なんですね、あの赤司君と」
棘のある視線が両方向から突き刺さる。
喋れば喋るほど追い込まれていく。
おかしい、赤司君の名前を出して状況が悪化したことなど、これまで一度だってなかったのに。
二人からは全く信用されていないが、本当に彼らと私の間に実力差があるわけではないのだ。
ただ、向こうがゲーム感覚の勝負に対して、こちらは命懸けで挑んでいるだけだ。
こういう気持ちの差が結果に大きく影響を与えるのは言うまでもない。
それに、赤司君とよく勝負をしているのは、お互いの実力が拮抗し、かつ利害が一致しているからである。
彼は私以外の人に負けないように、私は今以上に多くの人の役に立てるように――自分達の能力を向上させるのが目的だ。
それに、決して負けられないと焦燥に駆られなくていい相手は、互いにとって貴重な存在なのである。
あの赤司君と私を同列に語るほど不遜ではないが、それだけは私達の数少ない共通点だ。
だからこそ、あの人は私の恐怖心を理解できるのだと思う。
しかしそんな理由を正直に二人に説明できるはずがなく、苦笑いで誤魔化した。
欲を言うと、青峰君も赤司君のような心構えで私とのワンオンワンに挑んでくれると助かるのだが。
とにかくそろそろ体育館に入らせてもらえないだろうか、と私抜きで進んでいく会話を眺めて呑気に考えながら、私の存在の有無など関係なく、滞りなく進んでいく原作のレールの偉大さを、残酷さを、静かに噛み締めるのだった。
絶望の采配まで、あと少しだ。
部活後、青峰大輝はいつも通り居残り練習しようとするが、一軍専用の体育館は人が多いので、三軍の体育館へと移動した。
それが、最近お化けが出ると噂されている第四体育館である(驚くことに、この“お化け”を除霊してほしいという依頼が数件来ていた。私は霊媒師か)。
電気のついた体育館からはボールの音とスキール音が聞こえてくるのに、青峰君が扉を開けると室内には誰も見当たらなかった。
青ざめる彼のすぐ近くで第三者の声がしたので、震えながら恐る恐るそちらを向くと、そこにいたのは部員にすら気づかれないほど影の薄い少年――黒子テツヤだった。
これが、二人の出会いである。
彼らは互いに自己紹介を済ませた後、こう約束したのだった。
「いつか一緒にコートに立とうぜ」
そして、二人は十年来の親友のように拳を合わせた――その時、新たな来訪者があった。
そう、何を隠そうこの私である。
改めて状況を確認しても、なんて間の悪い登場だろうかと絶句してしまう。
もう少し早く来れば歴史的な出会いに立ち会えたし、もう少し遅ければ二人を邪魔することはなかった。
青峰君は、まさか私が現れると思っていなかったのか、瞠目して固まったままだ。
私も私で、体育館に一歩も入れずに立ち尽くしている。
ただ青峰君と違うのは、驚きだけでなく、感動も含んでいる点だ。
――今日だったのか、青峰君と黒子君が出会ったのは。
漫画通りの展開、原作通りの状況。
やはり、ここは漫画の世界だ。
ただ一つ違うのは、二人が私なんかに注目していることだ。
「藍良さん、お疲れ様です。今日もご指導よろしくお願いします」
私達の微妙な空気にまだ気づいていないらしく、黒子君は普段通り律儀に頭を下げた。
その言葉で、青峰君はようやく私達の関係性を悟ったようだ。
「あ? お前ら知り合い……? てか、『指導』って……」
「藍良さんには全中後から時間が空いている時に練習を見てもらっているんです」
「なっ!」
確認を取るようにこちらを振り向いたので、私も肯定した。
「ああ。最近ここで一緒に居残っているんだよ」
「……マジかよ」
何故か、ショックを受けたように項垂れる青峰君。
その姿を見て、やっと身体の硬直が解けた。
遅ればせながら室内に足を一歩踏み入れたところで、青峰君に鬼気迫る顔で睨みつけられた。
「……さっき、オレも毎日ここで練習するって決めたんだよ」
「そうなのか」
知っている。
「だからよ、お前、暇な時にオレと勝負しろ」
真剣な表情で何を言うかと思えば、そんなことだった。
これまでに何十回とこちらの事情などお構いなしに挑まれた勝負を、一度たりとも断ったことがないのに。
「そんなこと改めて言わなくても、今までだっていつだってワンオンワンしてるだろ」
「それはそうなんだけどよ!」
青峰君が苛立ったように足音を響かせながら近づいてくるので、反射的に一歩後ずさってしまった。
体育館から押し出された私の眼前に、人差し指を突きつけられる。
「悔しいんだよ!! 何度も挑んでるのに一度も勝てねーし!!」
「え?」
青峰君の言葉に、黒子君が反応した。
青峰君の身体越しに視線を向けると、黒子君は目を丸くしていた。
「青峰君でも藍良さんに勝てないんですか?」
「ああ。最初の頃はいい勝負だったのに、今では全く勝てねえ」
「藍良さんってそんなに強いんですか?」
「それどころか、コイツが負けるとこ見たことねーな」
「……本当ですか」
黒子君が一歩退いた。
これはまずい。
誤解されないようにと、慌てて弁明を試みる。
「そうは言っても、赤司君には何度か負けているよ」
「あの赤司にも何度か勝ってんだろ」
「つまり互角なんですね、あの赤司君と」
棘のある視線が両方向から突き刺さる。
喋れば喋るほど追い込まれていく。
おかしい、赤司君の名前を出して状況が悪化したことなど、これまで一度だってなかったのに。
二人からは全く信用されていないが、本当に彼らと私の間に実力差があるわけではないのだ。
ただ、向こうがゲーム感覚の勝負に対して、こちらは命懸けで挑んでいるだけだ。
こういう気持ちの差が結果に大きく影響を与えるのは言うまでもない。
それに、赤司君とよく勝負をしているのは、お互いの実力が拮抗し、かつ利害が一致しているからである。
彼は私以外の人に負けないように、私は今以上に多くの人の役に立てるように――自分達の能力を向上させるのが目的だ。
それに、決して負けられないと焦燥に駆られなくていい相手は、互いにとって貴重な存在なのである。
あの赤司君と私を同列に語るほど不遜ではないが、それだけは私達の数少ない共通点だ。
だからこそ、あの人は私の恐怖心を理解できるのだと思う。
しかしそんな理由を正直に二人に説明できるはずがなく、苦笑いで誤魔化した。
欲を言うと、青峰君も赤司君のような心構えで私とのワンオンワンに挑んでくれると助かるのだが。
とにかくそろそろ体育館に入らせてもらえないだろうか、と私抜きで進んでいく会話を眺めて呑気に考えながら、私の存在の有無など関係なく、滞りなく進んでいく原作のレールの偉大さを、残酷さを、静かに噛み締めるのだった。
絶望の采配まで、あと少しだ。