中学一年生
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今更言うまでもないことではあるが、帝光中学のバスケ部は一軍、二軍、三軍に分かれている。
このクラス分けは入部時に行ったクラス分けテストに基づいているのだが、たとえ三軍に振り分けられても昇格の機会は定期的に与えられている。
その最初の機会である夏季昇格テストが今日行われたらしい。
『らしい』という曖昧な表現になってしまうのは、最上級クラスである一軍では関係なく通常の練習を消化していたからだ。
一軍専属という役職は確かにやりがいを感じるが、どうしてもそれ以外の近況に疎くなってしまうのが難点だ。
当然、仕事にかこつけてそんな体たらくは許されるはずがないので、練習後に二軍と三軍のそれぞれのコーチに昇格した選手の名簿を拝見させてもらった。
すると、まず気づいたのは、以前私がアドバイスしたクラスメイトが見事二軍に昇格したというめでたい事実だった。
勿論当人の努力が勝ち取った結果なのだが、練習に関わった立場からすると自分の成功のように嬉しく思う。
明日教室で会ったら祝福しようと考えながら、すらすら名簿に目を通していく。
昇格した全員の名前を確認し、同時に黒子テツヤの名前が何処にもないことも確認した。
やはりというか、今回彼は昇格できなかったようだ。
原作通りなら次回の秋季昇格テストも残念な結果に終わってしまうのだが……。
そこまで考えて、あることを思いついた。
黒子君とは一軍専属になってから必然的に会う回数が減ってしまったので、彼の現在の様子は人づてでしか知らない。
だからというわけではないが、無性に彼に会いたくなったのだ。
公私混同は避けるべきだと分かってはいるが、私は『黒子君に会いたい』という実に私的な理由で、一緒に帰ろうと誘ってくれたさつきちゃんにわざわざ断りを入れた後、三軍の体育館に向かったのだった。
第四体育館の扉の前まで辿り着いて、ふと建物の外観を眺める。
体育館は真っ暗だった。
どうやら中の電気は消えているようだ。
「……まあ、電気をつけずに練習しているのかもしれないよな」
少し大きめの声で自分に言い聞かせる。
暗闇の中でバスケとはなかなか斬新な練習法じゃないか。
今度私もやってみよう。
そんなことを考えながら、満を持して重い扉をゆっくり開ける。
開け放たれた扉の隙間から、渡り廊下の蛍光灯の光が体育館内に差し込んだ。
誰もいなかった。
誰一人居残って練習していない。
ボールのドリブル音もバッシュのスキール音もしない、静寂の空間がそこにあった。
「……帰るか」
誰に言うでもない独り言が、空っぽの体育館に反響する。
というか、本当は扉を開ける前から薄々気づいていた。
漫画の中でも、黒子君はいつも体育館の電気をつけて練習していたのだから。
電気が消えていれば、中には誰もいないのだ。
分かりきっていることだった。
体育館の扉を閉めながら、先ほどまでの自分の行動を猛省する。
きっとこの結末は、自分の欲望を満たそうとした罰が当たったのだろう。
お前は今後も他人のためだけに生きろ、という世界からの通告なのかもしれない。
黒子君の連絡先は一応把握しているが、元々バスケ部の連絡網として入手したものなので、部活の用事でも緊急でもない今の状況では使用できない。
だからもう手詰まりだ。
私の願いは叶わない。
この夢のような世界は、決して読者 に都合のいいようにできてはいないのだ。
物語のシナリオやエンディングが読者の望んでいた形と異なることなんて多々ある。
そんな今に始まったことではない当たり前の事実を再確認したところで、一人で帰路についた。
自戒のため今日のトレーニングはいつもの倍にしようと計画を練りながら、自宅までの道のりを歩いていく。
話は変わるが、以前描写したように、通学路の途中にはバスケットコートが併設された公園がある。
普段の自主練には地区外のコートを使用しているので、その公園は通学中に通り過ぎるだけなのだが、私にとっては特別な場所だ。
忘れもしない、初めて黒子テツヤと出会った場所なのだから。
あの時は彼の影の薄さにまだ慣れておらず、フェンス越しにやっと見つけたのだった。
今では朝礼中の体育館でも休み時間中の廊下でも彼を発見できるようになったのが密かな自慢である。
その能力は暫く彼に会っていなくても衰えていないようで、今回は公園の入り口を通り過ぎる前に気がついた。
フェンスの向こう、バスケコートを眺めるようにベンチに座る黒子テツヤの姿に、気がついた。
このクラス分けは入部時に行ったクラス分けテストに基づいているのだが、たとえ三軍に振り分けられても昇格の機会は定期的に与えられている。
その最初の機会である夏季昇格テストが今日行われたらしい。
『らしい』という曖昧な表現になってしまうのは、最上級クラスである一軍では関係なく通常の練習を消化していたからだ。
一軍専属という役職は確かにやりがいを感じるが、どうしてもそれ以外の近況に疎くなってしまうのが難点だ。
当然、仕事にかこつけてそんな体たらくは許されるはずがないので、練習後に二軍と三軍のそれぞれのコーチに昇格した選手の名簿を拝見させてもらった。
すると、まず気づいたのは、以前私がアドバイスしたクラスメイトが見事二軍に昇格したというめでたい事実だった。
勿論当人の努力が勝ち取った結果なのだが、練習に関わった立場からすると自分の成功のように嬉しく思う。
明日教室で会ったら祝福しようと考えながら、すらすら名簿に目を通していく。
昇格した全員の名前を確認し、同時に黒子テツヤの名前が何処にもないことも確認した。
やはりというか、今回彼は昇格できなかったようだ。
原作通りなら次回の秋季昇格テストも残念な結果に終わってしまうのだが……。
そこまで考えて、あることを思いついた。
黒子君とは一軍専属になってから必然的に会う回数が減ってしまったので、彼の現在の様子は人づてでしか知らない。
だからというわけではないが、無性に彼に会いたくなったのだ。
公私混同は避けるべきだと分かってはいるが、私は『黒子君に会いたい』という実に私的な理由で、一緒に帰ろうと誘ってくれたさつきちゃんにわざわざ断りを入れた後、三軍の体育館に向かったのだった。
第四体育館の扉の前まで辿り着いて、ふと建物の外観を眺める。
体育館は真っ暗だった。
どうやら中の電気は消えているようだ。
「……まあ、電気をつけずに練習しているのかもしれないよな」
少し大きめの声で自分に言い聞かせる。
暗闇の中でバスケとはなかなか斬新な練習法じゃないか。
今度私もやってみよう。
そんなことを考えながら、満を持して重い扉をゆっくり開ける。
開け放たれた扉の隙間から、渡り廊下の蛍光灯の光が体育館内に差し込んだ。
誰もいなかった。
誰一人居残って練習していない。
ボールのドリブル音もバッシュのスキール音もしない、静寂の空間がそこにあった。
「……帰るか」
誰に言うでもない独り言が、空っぽの体育館に反響する。
というか、本当は扉を開ける前から薄々気づいていた。
漫画の中でも、黒子君はいつも体育館の電気をつけて練習していたのだから。
電気が消えていれば、中には誰もいないのだ。
分かりきっていることだった。
体育館の扉を閉めながら、先ほどまでの自分の行動を猛省する。
きっとこの結末は、自分の欲望を満たそうとした罰が当たったのだろう。
お前は今後も他人のためだけに生きろ、という世界からの通告なのかもしれない。
黒子君の連絡先は一応把握しているが、元々バスケ部の連絡網として入手したものなので、部活の用事でも緊急でもない今の状況では使用できない。
だからもう手詰まりだ。
私の願いは叶わない。
この夢のような世界は、決して
物語のシナリオやエンディングが読者の望んでいた形と異なることなんて多々ある。
そんな今に始まったことではない当たり前の事実を再確認したところで、一人で帰路についた。
自戒のため今日のトレーニングはいつもの倍にしようと計画を練りながら、自宅までの道のりを歩いていく。
話は変わるが、以前描写したように、通学路の途中にはバスケットコートが併設された公園がある。
普段の自主練には地区外のコートを使用しているので、その公園は通学中に通り過ぎるだけなのだが、私にとっては特別な場所だ。
忘れもしない、初めて黒子テツヤと出会った場所なのだから。
あの時は彼の影の薄さにまだ慣れておらず、フェンス越しにやっと見つけたのだった。
今では朝礼中の体育館でも休み時間中の廊下でも彼を発見できるようになったのが密かな自慢である。
その能力は暫く彼に会っていなくても衰えていないようで、今回は公園の入り口を通り過ぎる前に気がついた。
フェンスの向こう、バスケコートを眺めるようにベンチに座る黒子テツヤの姿に、気がついた。