中学一年生
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灰崎祥吾。
言わずと知れたバスケ部きっての問題児。
彼は原作通りすぐに一軍入りを果たしたので、当然一軍専属マネージャーである私とは浅からぬ縁があるのだが、それ以上の関係が今この場で生じそうなのである。
これまで碌に会話もしなかった彼と、現在互いに緊張した面持ちで対面している。
灰崎祥吾の教育係。
それが、今回私に課せられた新しい肩書きである。
そう、中二の時に黒子テツヤが黄瀬涼太に対して行ったあの役目なのだが、それが今回私に白羽の矢が立ったのだ。
何故そんな事態になったのか――事の始まりは、以前の食堂での赤司君との会話である。
「それはそうと」
紫原君の話題が一段落し食事を再開した時、赤司君はそう切り出した。
「灰崎祥吾を知っているな」
「当然だ」
先日一軍に昇格した彼のバスケ技術は言うまでもなくハイレベルで、“それだけなら”コーチ達からも一目置かれる存在である。
「なら話は早い。あいつのサボり癖をなんとかしてほしいんだ」
そう言って、赤司君が渋い顔で頭を下げた。
こちらも原作通りと言えばそうなのだが、彼はとにかく部活の出席率が悪いのだ。
一軍でありながらこれまで灰崎君とほとんど関わりを持てなかったのは、これが大きな要因である。
しかも、部活を休んで何をやっているかと言えば、近くのゲームセンターで遊んでいたり他校の生徒に喧嘩を売ったりして過ごしているらしい――こちらも原作通りだ。
「全中の予選まであと二か月だ。全中では灰崎も充分戦力になるだろうとコーチも判断している。そのため今の不真面目な部活態度では都合が悪いんだ」
そういえば、もうすぐ白金監督主導の練習が始まる頃だ。
それまでに改善させたいというのが、コーチや赤司君の本音なのだろう。
白金耕造監督――私を一軍専属マネージャーに抜擢した張本人のうちの一人。
「実は、本題はこちらだったんだ」
そう語る赤司君の顔には少し疲れが見えている気がする。
そんな精神状態で私の相談に乗ってくれたというのだから、罪悪感が募るばかりだ。
せめて勤務態度で報いたい。
「でも大丈夫か? 私、人に厳しくするのは得意じゃないんだが」
むしろ甘やかす方が得意だ。
「藍良のやり方で構わない。こちらは藁にもすがる思いなんだ」
「……分かった。そういうことなら任せてくれ」
貴重な赤司君の懇願を断る理由はないので、私はその場で引き受けたのだった。
勿論今回の任命は光栄で名誉なことではあるのだが、これは私にとって計算外の展開でもある。
灰崎祥吾の教育、あるいは更生は、私の人生計画には載っていなかったのだ。
赤司君に話を持ちかけられた時から頭をフル回転させて対策を思案しているものの、実はこれといった名案が浮かばないでいる。
昔からこういうアドリブに弱いのだ。
値踏みするような視線を浴びながら自己紹介を終えると、灰崎君は開口一番こんな評価を下した。
「へえ、いい女じゃねえか」
「お褒めに預かり光栄だ」
「だがつまんなそーだな」
「かもしれないな」
「……はっ」
鼻で笑われた。
呆れられたのかもしれない。
「そもそも部活って義務じゃねーだろ。ちょっとサボったくらいでこんなに大事にすんなよ」
「……確かに一理あるな」
「はあ?」
灰崎君の意見に神妙に頷いてみせると、彼は訝しげに顔を歪めた。
「……お前、オレをサボらせねーように言われたんじゃねーの?」
「その通りだが、力づくで部活に参加させても身が入らないだろう。だったらそうだな……私とゲームでもしないか?」
「ゲーム?」
灰崎君の鸚鵡返しに笑顔で頷きながら、必死に脳内で言葉を組み立てる。
「制限時間は互いが登校してからその日の授業が終わるチャイムが鳴るまで。その間に私の体に一度でも触れることができれば、その日の部活は出なくていい。私からコーチに責任もって伝えておく。だが、叶わなければ問答無用で参加しろ。その時は強引でも乱暴でも連れて行く。部活に参加する以上、適当に練習を流すことも禁止する」
ルールを説明すると、灰崎君の顔色が徐々に変化していった。
名案どころか、こんなものはほとんどその場の思いつきだ。
それでも、私は精一杯挑発するように口の端を上げる。
「私を超えてみろ、灰崎君」
もしこの場に第三者がいて私の言葉を聞いていたなら、真っ先に止めに入っただろう。
後から思い返しても突拍子のない提案だったが、意外にも灰崎君は承諾してくれた。
楽しそうな玩具でも見つけたかのような、期待に満ちた笑みを浮かべながら。
「前言撤回するわ。アンタ面白れーな」
「そうか?」
「けど、一つだけ条件追加だ。オレが勝ったら、何でも一つ言うことを聞け。この条件なら乗ってやる」
「君がそれでいいなら、私は構わないよ」
「言ったな」
我が意を得たりというように、にやりと笑う灰崎君。
「なら、オレと付き合え」
「そんなことでいいのか? 君は謙虚だな」
「謙虚って……」
理解できないというように、ため息を吐かれた。
「何でも言うことを聞け、だなんて大仰に言うから、巨万の富を寄越せとか永遠の命を与えろとか、そういう類の願いかと思ったよ」
「……もし願ったら叶えられんのかよ」
「ひとまず全力を尽くすよ」
永遠の命はともかく巨万の富なら努力次第でなんとかなりそうだ。
願いを叶えると約束したのに、灰崎君は更に複雑な顔になった。
「オレが言うのも何だが、いいのかよ?」
「何がだ?」
「オレと付き合うことだよ。アンタ、噂じゃ彼氏とか作んねーんだろ? アンタを頼ってる生徒を裏切ることになるかもしれねーぜ」
試すようなその言葉に、私は堂々と受け答えた。
「問題ないよ。そんなことにはならないからな」
言わずと知れたバスケ部きっての問題児。
彼は原作通りすぐに一軍入りを果たしたので、当然一軍専属マネージャーである私とは浅からぬ縁があるのだが、それ以上の関係が今この場で生じそうなのである。
これまで碌に会話もしなかった彼と、現在互いに緊張した面持ちで対面している。
灰崎祥吾の教育係。
それが、今回私に課せられた新しい肩書きである。
そう、中二の時に黒子テツヤが黄瀬涼太に対して行ったあの役目なのだが、それが今回私に白羽の矢が立ったのだ。
何故そんな事態になったのか――事の始まりは、以前の食堂での赤司君との会話である。
「それはそうと」
紫原君の話題が一段落し食事を再開した時、赤司君はそう切り出した。
「灰崎祥吾を知っているな」
「当然だ」
先日一軍に昇格した彼のバスケ技術は言うまでもなくハイレベルで、“それだけなら”コーチ達からも一目置かれる存在である。
「なら話は早い。あいつのサボり癖をなんとかしてほしいんだ」
そう言って、赤司君が渋い顔で頭を下げた。
こちらも原作通りと言えばそうなのだが、彼はとにかく部活の出席率が悪いのだ。
一軍でありながらこれまで灰崎君とほとんど関わりを持てなかったのは、これが大きな要因である。
しかも、部活を休んで何をやっているかと言えば、近くのゲームセンターで遊んでいたり他校の生徒に喧嘩を売ったりして過ごしているらしい――こちらも原作通りだ。
「全中の予選まであと二か月だ。全中では灰崎も充分戦力になるだろうとコーチも判断している。そのため今の不真面目な部活態度では都合が悪いんだ」
そういえば、もうすぐ白金監督主導の練習が始まる頃だ。
それまでに改善させたいというのが、コーチや赤司君の本音なのだろう。
白金耕造監督――私を一軍専属マネージャーに抜擢した張本人のうちの一人。
「実は、本題はこちらだったんだ」
そう語る赤司君の顔には少し疲れが見えている気がする。
そんな精神状態で私の相談に乗ってくれたというのだから、罪悪感が募るばかりだ。
せめて勤務態度で報いたい。
「でも大丈夫か? 私、人に厳しくするのは得意じゃないんだが」
むしろ甘やかす方が得意だ。
「藍良のやり方で構わない。こちらは藁にもすがる思いなんだ」
「……分かった。そういうことなら任せてくれ」
貴重な赤司君の懇願を断る理由はないので、私はその場で引き受けたのだった。
勿論今回の任命は光栄で名誉なことではあるのだが、これは私にとって計算外の展開でもある。
灰崎祥吾の教育、あるいは更生は、私の人生計画には載っていなかったのだ。
赤司君に話を持ちかけられた時から頭をフル回転させて対策を思案しているものの、実はこれといった名案が浮かばないでいる。
昔からこういうアドリブに弱いのだ。
値踏みするような視線を浴びながら自己紹介を終えると、灰崎君は開口一番こんな評価を下した。
「へえ、いい女じゃねえか」
「お褒めに預かり光栄だ」
「だがつまんなそーだな」
「かもしれないな」
「……はっ」
鼻で笑われた。
呆れられたのかもしれない。
「そもそも部活って義務じゃねーだろ。ちょっとサボったくらいでこんなに大事にすんなよ」
「……確かに一理あるな」
「はあ?」
灰崎君の意見に神妙に頷いてみせると、彼は訝しげに顔を歪めた。
「……お前、オレをサボらせねーように言われたんじゃねーの?」
「その通りだが、力づくで部活に参加させても身が入らないだろう。だったらそうだな……私とゲームでもしないか?」
「ゲーム?」
灰崎君の鸚鵡返しに笑顔で頷きながら、必死に脳内で言葉を組み立てる。
「制限時間は互いが登校してからその日の授業が終わるチャイムが鳴るまで。その間に私の体に一度でも触れることができれば、その日の部活は出なくていい。私からコーチに責任もって伝えておく。だが、叶わなければ問答無用で参加しろ。その時は強引でも乱暴でも連れて行く。部活に参加する以上、適当に練習を流すことも禁止する」
ルールを説明すると、灰崎君の顔色が徐々に変化していった。
名案どころか、こんなものはほとんどその場の思いつきだ。
それでも、私は精一杯挑発するように口の端を上げる。
「私を超えてみろ、灰崎君」
もしこの場に第三者がいて私の言葉を聞いていたなら、真っ先に止めに入っただろう。
後から思い返しても突拍子のない提案だったが、意外にも灰崎君は承諾してくれた。
楽しそうな玩具でも見つけたかのような、期待に満ちた笑みを浮かべながら。
「前言撤回するわ。アンタ面白れーな」
「そうか?」
「けど、一つだけ条件追加だ。オレが勝ったら、何でも一つ言うことを聞け。この条件なら乗ってやる」
「君がそれでいいなら、私は構わないよ」
「言ったな」
我が意を得たりというように、にやりと笑う灰崎君。
「なら、オレと付き合え」
「そんなことでいいのか? 君は謙虚だな」
「謙虚って……」
理解できないというように、ため息を吐かれた。
「何でも言うことを聞け、だなんて大仰に言うから、巨万の富を寄越せとか永遠の命を与えろとか、そういう類の願いかと思ったよ」
「……もし願ったら叶えられんのかよ」
「ひとまず全力を尽くすよ」
永遠の命はともかく巨万の富なら努力次第でなんとかなりそうだ。
願いを叶えると約束したのに、灰崎君は更に複雑な顔になった。
「オレが言うのも何だが、いいのかよ?」
「何がだ?」
「オレと付き合うことだよ。アンタ、噂じゃ彼氏とか作んねーんだろ? アンタを頼ってる生徒を裏切ることになるかもしれねーぜ」
試すようなその言葉に、私は堂々と受け答えた。
「問題ないよ。そんなことにはならないからな」